第24話 社畜、今日も人気者です

「とおおおおおたん!」


「うげぇ!?」


 突然腹部に強い衝撃がかかり、俺は目を覚ました。


 なぜか地面に転がるように寝ていたようだ。


 そういえば少女に名前をつけた後にそのまま力尽きていた。


「ダンナ様!」


「旦那……様!?」


 突然何かに抱きつかれたと思ったら、そこには見たこともない少女がいた。


 きっとロリコン好きにはたまらない見た目だろう。


 感覚的には子役が女優になりそうな手前の感じだ。


 ええ、めちゃくちゃ可愛らしい少女に俺は抱きつかれているのだ。


「なななな、君は誰なんだ?」


 決して抱きつかれて焦っているわけではない。


 彼女ぐらい遠い過去にいたからな。


 これぐらいの大きさなら、近所で遊んでいた子と変わらない。


「私を忘れたんですか? ホワイトですよ!」


 ああ、怒った顔も可愛らしい。


 いや、それよりも少女の口からホワイトという言葉が出てきたぞ。


「ホワイト!?」


「そうですよ。ダンナ様、妻である私の名前を忘れないでくださいよ」


「ん? ちょっと待って、俺はまだ独身だぞ」


「ええ、だから私が妻になるんです。それぐらい簡単なことですよね?」


 ムチャクチャな一言にただ俺は黙ることしかできなかった。


 何か言っても言いくるめられそうな気もするからな。


「とーたん、ゴボタの!」


「いえ、ダンナ様は私のでございます」


「いや、ボスはオラのだ。そして、スクーターもオラのだ!」


 ゴボタとホワイトはまだわかる。


 リーゼントは確実にスクーターが欲しいだけだろう。


 それでもこんなに俺を大事に思ってくれる存在がいるだけで、心がポカポカする。


「それよりも俺はどれくらい寝ていた?」


「ほんの少しですよ。私が接吻をしようとしたら、ゴボタと犬に止められましたからね」


「おいおい、犬って言うな!」


 うん……。


 ホワイトって結構危ないやつのような気がしてきた。


 ただ、あまり寝れていないせいかまだ頭がぼーっとする。


 二日徹夜した時の朝って感じに近い。


 何となく感じていたが、魔物に名前をつけると俺は意識を失うようだ。


 名付けにどういう意味合いがあるのかはわからない。


 ただ、ホワイトも普通に話しているところを見ると、さらに人間に近づく行為なんだろうか。


「早く帰って寝ようか。他のゴブリン達も森の奥で生活するのは大変だよね」


 明らかに今回の爆発で森の中で何かが起きた時に危険なのは理解した。


 火が燃え上がったら逃げるのも大変だからな。


 せっかくならゴブリン達をなるべく森の外側に移動させるべきだろう。


「みんなに移動するか聞いてもらっても良い?」


「んーん」


 ゴボタは首を振っていた。


 それはホワイトも同じだった。


「ゴブリンは元々森の中で生活する種族です。なので森が無くなれば、また移動しますがそれまではここにいると思います」


 ゴブリンのホワイトが言うなら正しいのだろう。


 俺としてはまた何があるかわからないため、協力して守れる範囲にはいて欲しかった。


 ただ、みんなにもどこで生きるのかの選択肢はあるからな。


「じゃあ、魔宝石だけいくつか置いておくよ」


 ゴボタとリーゼントが使えるなら、ゴブリンでも使えるだろう。


 簡単に使い方だけ説明して、全種類の魔宝石を渡した。


 集落が壊れた現状から、この場所からは離れるだろう。


 ここから違う場所に移動するってなったら、きっと荷物になって邪魔だからな。


 それに一通り治療をしたから、すぐに移動は始まりそうだ。


「じゃあ、ホワイトも元気でな」


「へっ? 私はダンナ様の妻なので一緒に行きますよ?」


 やはりホワイトはいつまでも俺の妻という設定だろうか。


 ただ、ゴブリンの集落で生活していたため、ある程度の知識はありそうだ。


 それに俺が離れようとしたら、ずっと悲しそうな顔で見てくる。


 ここに置いて行ったら、ゴボタ達からも非難されそうだしな。


「わかった。ただ、俺はホワイトのダンナじゃな――」


「ダンナ様ありがとうございます! これで私は妻になれるんですね!」


 うん、やっぱりこの子は置いて行ったほうが良さそうな気がしてきた。


 それにホワイトがくっつくたびに、ゴボタは取られると思ったのかベッタリとして離れない。


「とーたんはゴボタの!」


「ダンナ様は私のですわ!」


「スクーターはオラのだからな!」


 今日も俺は人気者のようです。


 ただ、リーゼントは後でお仕置きが必要なようだ。

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