第23話 社畜、ネーミングセンスがない

「これで全員か?」


 俺は必死に魔宝石を使って、ゴブリン達の火傷や傷を治していく。


 重症なゴブリンほど肌が白くなっていくが、軽く出血している程度だと、そこまでの変化はなかった。


 どういう仕組みなのかはわからない。


 ただ、傷が残らないだけでもよかった。


 ゴボタに大きな傷ができたら、将来婿に出す時に困ってしまう。


 一通り治療を終えると、一カ所に集まり犯人のことについて聴取することになった。


 ほとんどはゴボタが通訳することになるが、そこはきっと同じであろうゴブリンの出番だ。


「えーっと、犯人は俺に似たやつなんだよね?」


 リーゼントも俺に似た存在がいると言っていた。


 だから、一番気になったのは謎の人物達だった。


「とーたんと同じ。でもちゃう!」


「それは見た目ってことか?」


「ゴボォ? ゴボボボォ?」


「ゴーン! ゴゴゴーン!」


 ゴボタが通訳をしているが、本当に伝わっているのかわからない。


 言葉を話す時はいつも舌足らずだからね。


 それでも聞いている感じだと、会話にはなっているようだ。


「みちゃめちゃう!」


「見た目が違うってことは、人間ってことには変わりないのか?」


 俺の言葉にゴボタは頷いていた。


 リーゼントの言葉とゴボタの言葉が引っかかっていた。


 俺と似ているけど違う存在。


 そうやって言われて思いつくのは、人間だけど俺とは全く異なる服装をしている。


 もしくは宇宙人みたいな存在がいるということだ。


 力強く足が速い子どもや二足立ちする犬もいれば、宇宙人もここにはいるような気がした。


 ただ、俺と同じで迷い込んだやつはいないのかと疑問に思った。


 それにあの言葉がずっと頭に残っていた。

 

――〝明日からダンジョンが解放されます〟


 ってことは今まで探そうと思ってもなかった出口が、どこかに繋がったということだ。


 それが本当であれば、向こうから人が入ってくることが可能だと思った。


 ただ、人であれば何でこんなに優しいゴブリン達を爆発させてまで殺そうとしたのか。


 俺にはそれがわからなかった。


 今もリーゼントが果実を配っているが、ゴブリンはみんなに分け与えて食べている。


 侵入してきた宇宙人の方が、俺達からしたら侵略者だろう。


「ゴンブ! ブンブン!」


 少女は俺にも果実を持ってきてくれた。


「ああ、ありがとう」


 少女から受け取ると嬉しそうに笑っていた。


 そういえば、未だに名前を聞いていなかったな。


「君の名前は?」


「ゴンブ!」


「ゴンブ?」


 変わった名前の少女だと思ったが、首を振っていた。


 どうやら違うらしい。


 このままだと海の海藻である昆布ぽいもんな、


「ゴボタ、何て言っているかわかるか?」


「なまえにゃい」


「あー、ゴボタと同じで名前がないのか」


 ゴブリン達には名前がないのだろうか。


 仲良くなってくると、呼び名がないのも大変だ。


 それにゴボタは見分けがつく。


 少女もまだワイシャツを着ているから、判断ができる。


 ただ、他のゴブリン達は全く区別がつかないのだ。


「じゃあ、君はゴン美、ゴン子……」


「ボス、ネーミングセンスないよ?」


「とーたん!」


 ゴボタは俺をバシバシと叩いてきた。


 きっとゴボタの名前も適当につけたと思っているのだろう。


「俺はトウタ! ゴボタ! 名前が似ているだろ」


「ふぁ!? にひひ!」


 どうやら似た名前だと伝えたら喜んでくれた。


 ただ、隣に落ち込んでいるやつがいた。


「オラはリーゼント……似てもいない……オラだけ一人ぼっち」


 ああ、たしかにリーゼントは適当につけたからな。


 そんな俺達を見て少女は笑っていた。


 きっとゴボタと違った女の子らしいちゃんとした名前で呼ばないと可哀想だろう。


 特徴的なのは――。


「肌の色が白いから、ホワイトとかピュアはどうだ?」


「相変わらずネーミングセンスがないのに、オラよりはオシャンティーなのね……」


 リーゼントは俺を見ながら何かを言っていたが、そっと耳を閉じる。


 聞いていたら一向に名前が決まらないからな。


 俺は地面に名前を書いて、どちらが良いのか決めてもらう。


「へへへ!」


 少女が指さした方はホワイトだった。


「よし、君の名前は今日からホワイトだね!」


 そろそろ俺は気づくべきだった。


 魔物に名前をつけた後にどうなるのか。


「ヤバッ……体の力が抜けてきた」


 急な眠気とだるさに俺はその場で力尽きる。


 体に力が入らず、そのまま倒れるしかなかった。


「とーたん!?」


「ボスゥ!?」


「ダンナ様!?」


 あれ……?


 一人変わった名前で俺を呼んでいるぞ……。


 それに気づいたゴボタとリーゼントは少女と顔を見合わせていた。

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