第22話 社畜、事故現場に向かう

「ゴボタあっちだ!」


「ゴボォ!」


 俺は手押し車の中から青色の魔宝石を使って、木に移った火を消していく。


「やっぱりボスはボスだね!」


「とーたん、すごい!」


「ははは、そうか?」


 なぜか俺が魔宝石を使ったほうが、水が大量に出てきた。


 それに水鉄砲を意識したら、うまく飛ばすこともできる。


「そろそろ着きそうか?」


「ワン!」


「何か危ないものがないか気をつけろよ」


 爆発したなら地雷のようなものが落ちている可能性もある。


 集落の近くについた俺達はゆっくりと近づいていく。


「すごいな……」


 爆発した跡地はそこだけが丸ごと抉れたようになっていた。


 火は消えているが、そこにあったはずの木や集落は跡形もない。


「とーたん……」


「ああ、ゴブリン達は大丈夫だから気にするな」


 俺達がなぜこんなに冷静でいられるのかは、ゴブリン達が無事だとわかっていたからだ。


 リーゼントの嗅覚でゴブリン達はどこかへ移動したと感じ取っていた。


 きっと爆発の前に逃げられたのだろう。


 ただ、こんなに被害が出る爆発が何の原因で起きたのかが気になってしまう。


「まずはゴブリン達に会うほうが先だな」


「ボス、こっちにいるよ」


 俺はリーゼントに案内されるがままゴブリン達の元へ向かった。


 ただ、その現状を見て俺は言葉を失った。


 地面に項垂れるゴブリン達。


 子ども達も頭から血を流してぐったりとしている。


 ゴブリン達は移動したと聞いていたが、命が助かったかどうかは聞いていなかった。


 さすがにリーゼントも嗅覚でそこまではわからないだろう。


「おい、大丈夫か?」


 俺が近づくと、なぜかゴブリン達は警戒を強めた。


 ただ、隣にゴボタがいることで誰かわかったのだろう。


 俺はワイシャツを渡した少女を探す。


 一番お世話をしてくれたあの子の安否が気になった。


「俺達を気遣ってくれたあの子はいるか?」


 声をかけるがやはり俺の言葉は理解しにくいのだろう。


「ゴボォ、ゴボボボォ!」


 ゴボタが必死に話しかけると、どこにいるのかわかったのだろう。


 俺の手を引っ張っていく。


 だが、引っ張る力は強く、歩くのもどこか急いでいるようだ。


 少女に何かあったのだろうか。


「まさか……」


 歩いた先には一際、重症なゴブリンが集められていた。


 そこだけ見たら災害現場のように見える。


 きっと被害の大きさで場所を分けているのだろう。


 死体として扱われているのか、それとも感染症に配慮した行動かはわからない。


 その中で俺は少女の姿を探す。


 全身が火傷して顔の認識もできないほどだ。


 ただ、その中で一人だけ必死に何かを抱えている人物がいた。


 俺はその姿に涙が溢れ出した。


 後悔……いや、それを通り越して自分自身に怒りを感じている。


 その人物が抱きかかえていたのは、俺のワイシャツだった。


 燃えないように必死に抱えていたのだろう。


 その代わりに少女の体は火傷で爛れている。


 俺がワイシャツをあげなければ、少なからず自分の身を守れたのかもしれない。


 俺が取りに行くと約束しなければよかったのかもしれない。


 後悔してもしきれない。


「ゴボォ!」


 ゴボタは何を思ったのか、急いでリーゼントの元に戻ると魔宝石を持ってきた。


「ゴボォ……ゴボォ……」


 ゴボタも悲しいのだろう。


 泣きながら必死に少女の上で、魔宝石をぶつけていた。


「とーたん……」


 何度叩いても変わらないのが現状だ。


 だって、どういう効果があるかわからない白色の魔宝石だ。


 それでも必死に魔宝石をぶつけるゴボタの姿に俺は何か理由があると感じた。


「ゴボタ、貸して」


 俺はゴボタから魔宝石を預かると、少女の上で魔宝石の力を使う。


 魔宝石が削れているのか、白い粉が少女の上に降り注いだ。


 だが、その粉は輝きを放ち少女に吸収されていく。


「とーたん!」


「ああ、頑張れよ!」


 何度も応援しながら、魔宝石をぶつける。


 すると少女の火傷は少しずつ治っていき、爛れていた皮膚は元の肌に戻っていく。


 それに顔の区別もできるほど、綺麗になっていた。


 ただ、元の肌の色には戻らないのだろう。


 肌全体の色が変わり色白になった。


 次第に呼吸音がしっかり聞こえてくると、瞼がゆっくりと開いた。


「うっ……」


「おい、大丈夫か!」


「ゴボォ!」


 俺達の姿を視界に捉えたのだろう。


 少女は優しく微笑んだ。


「へへへ!」


 どうやら少女は無事に生還したようだ。


 その姿を見て、俺とゴボタは抱きつく。


「よかったあー!」


「ゴボォー!」


 お互いにどこか諦めていたのかもしれない。


 だが、俺達が少しでもゴブリン達の手助けができてよかったと思った。


「どんどん治していくぞ」


「ゴボォ!」


 俺はその後も怪我をしたゴブリンに回復の魔宝石を使い治療を始めた。

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