第14話 社畜、飼い主も大変でした
ガソリンが切れたスクーターを拠点予定のところまで持っていくと、早速椅子の部分を持ち上げる。
どうやら収納場所の変化はなく、単純に走らないだけだろう。
それなら倉庫としては使えそうだ。
スクーターも摩訶不思議に変わってしまったため、何がどう変化するのかは確認しておかないとダメだと思っていた。
倉庫として使えるなら、問題は特にないだろう。
「ボスゥ……」
「ああ、気にするな。スクーターがなくても、歩いて移動すれば良いからな」
リーゼントは動かなくなったスクーターを悲しそうに見ていた。
ガソリンを手に入れればまた走るからな。
ただ、この世界でガソリンはどうやったら手に入るのだろうか。
ガソリンは石油を熱して、気体にしてからまた液体に戻す。
まずは石油がなければ、ガソリンは使えないだろう。
「よし、まずは飲み水の確保だな」
俺はゴボタに頼んで、薬草もどきが生えている地面をスコップで掘ってもらう。
「やっぱり水が流れているのは間違いないよな」
掘り進めていくと、この間と同じで水が湧き出てくる。
普通の地面を掘っても何も出てこないが、何か性質の違いがあるのだろう。
それともスコップが何か影響しているのだろうか。
そのままゴボタには池を作ってもらうことにした。
「ボスゥ!」
リーゼントは俺をキラキラした目で見ていた。
きっと何か役割がもらえると思っているのだろうか。
「あー、リーゼントには何をしてもらおうかな」
「ボッ……スゥ……」
いざ拠点を作ろうとなったが、何を用意すれば良いのかは全く考えていない。
「んー、なにかあるかな? あっ、枝とロープになるようなツルを探そうか」
集落に行った時に壁を作っていたのを思い出した。
森の奥とは違い日差しが木に遮られていないところは、直接当たるため屋根は必要になるだろう。
「俺達は森の中に入るけど、一人で大丈夫そうか?」
「ゴボッ!」
ゴボタは一人でお留守番をしてくれるらしい。
スコップと手押し車を持っている姿が、どこか建築現場の人ぽくて頼もしく感じる。
今もスコップで土を手押し車に入れて運んでいるからな。
リーゼントと共に森に入った俺はロープになりそうなツルを探すことにした。
「そういえばリーゼントはにおいとかには敏感なのか?」
犬といえば嗅覚が人よりも敏感なはずだ。
その鼻を少しでも生活に使えたら便利そうな気がした。
「オラは生粋のツッパリだからな。嗅覚は犬並みだぜ!」
それは鼻が良いってことだろうか。
試しににおいを知っている薬草もどきを探してもらった。
走り出すリーゼントに付いていくと、そこには薬草もどきの群生地帯があった。
どうやらリーゼントの鼻は、生粋の犬鼻らしい。
ひょっとしたら全て掘り起こすと川とかになるのではないかと思うほど、薬草もどきが生えている。
それにさまざまな葉や花が生えていたため、一通り持って帰ることにした。
これで奥の方に行っても、ゴボタがいる拠点に帰ることができそうな気がした。
「ツルはどこにあるのかな?」
果実や薬草もどきはみつけやすくなったが、ツルは中々見当たらなかった。
どこか違うところにあるのだろうか。
ただ、集落にいた人達はほとんど森の中で生活をしていた。
それを考えると森の奥深くにありそうな気がする。
森の奥に行ったら、すぐには戻って来れなくなるだろう。
ここは一度諦めた方が良さそうだ。
「ツル? それなら上にあるよ?」
そう言ってリーゼントは、軽々と木を登っていく。
ゴボタも木登りが得意だったが、ここに住んでいるやつらはみんな得意なんだろうか。
「ボスゥー、これは使えるかー?」
リーゼントは木の上で、歯を使ってツルをガシガシと切っていた。
しばらく待っていると、いくつか目の前にツルが落ちてきた。
手に持って引っ張ってみると、ちぎれる心配はなさそうだ。
実際に木に巻きつけて、まとめるぐらいだからそこまで問題はないだろう。
その後もリーゼントにツルを落として、俺が拾っていく。
「ボスウウウウ!」
「なんだー?」
上からリーゼントの叫び声が聞こえてきた。
「オラ、高いところがダメだったあああ!」
まさかあれだけ身軽に木に登って行ったのに、まさか高所恐怖症だとは思いもしなかった。
「落ちてきても俺が捕まえるから、ゆっくり降りてこいよ!」
大きさ的には捕まえられる気がする。
ただ、どこかにぶつかって軌道がズレたら俺でも無理だろう。
「ボスウウウウ、足がガタガタするよー」
俺も下から聞こえるぐらい足がガタガタと震えていた。
二足立ちしている犬が足を震えている光景なんて、この先見ることはないだろう。
本人は怖がっているが、正直言って俺はその姿に癒されている。
「ボスウウウウ、無理だああああ!」
リーゼントはその場で泣き崩れていた。
あまりにも可哀想に思い、俺は木に登っていくことにした。
だが、掴むところが遠ければズルズルと落ちて行ってしまう。
「ボスウウウウ、なんでそんなに下手くそなんだよー」
「お前らが登るのが上手いんだよ! ってか登ったなら降りてこいよ!」
「無理だよおおおお! ボスがうんこみたいに小さいもん」
「俺をうんこと同じにするな!」
ずっと泣いているリーゼントのために、俺は一生懸命考えていた。
そもそも犬が二足立ちしているから、バランスが取りにくいのが原因のような気がしてきた。
恐怖心もあるが、足場が狭い場所で立っているから震えている可能性もある。
「おい、手を付いたら降りやすくなるんじゃないか?」
「うんこにはオラの気持ちわからないんだよおー」
ついに俺のことをうんこと言うようになった。
あれは降りてきた時に仕返しが必要になるだろう。
「いいからつべこべ言わずに降りてこい!」
「ボスウウウウ、怒らないでよー」
俺が怒っていると思ったのだろう。
言われた通りにリーゼントは前足を枝につけると、驚いた表情をしていた。
「これは犬界の画期的なアイデアだ!」
今まで犬達は思わなかったのだろうか。
そもそも犬は四本足で歩くのが当たり前だ。
変わっているのはリーゼント達だからな。
「見て見て! オラ全然震えずに降りてこれるぞ!」
リーゼントは身軽に周囲の枝を伝って、少しずつ降りてくる。
ただ、同じ木から降りてくるわけではないため、俺はあっちこっちへとあたふたとしている。
途中で足を滑らせたら、俺がいなければそのまま地面に当たってしまうからな。
「あっ……」
そんなことを思っていたら、やはりリーゼントが足を滑らせた。
「ワオオオォォォ!」
勢いよく落ちてくるリーゼントの元へ、俺は急いで走る。
もはや高校球児のスライディング並みに、俺はリーゼントが落ちてくるところへ滑り込んだ。
背中から落ちてきたリーゼントは、途中で体の向きを変えていく。
――トンッ!
「ボス今見ましたか? シュッ、スパーンってオラ着地しましたよ」
体の向きを変えたリーゼントは俺を下敷きにしたが、綺麗に着地していた。
ひとまず安心したが、俺の上でリーゼントは嬉しそうに足踏みをしていた。
「誰がお前の下敷きになっていると思ってるんだ!」
「ごめんなしゃああああい!」
すぐに降りたリーゼントは正座して、頭を何度も下げていた。
犬に土下座をさせている飼い主。
側から見たら俺は最悪なやつになるだろう。
んー、子育ても難しいが飼い主も難しいようだ。
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