第八頁 初めての異害との戦闘
界刻は、体が力が
ジリジリとした緊張感に、界刻は手のひらに握られた白剣は輝く。
【旦那様、戦い方はわかりますか?】
「ただの作家が知っているとでも? 後、旦那様呼びやめろ」
【補助は行いますので、意識を集中してください。私の呼吸と合わせて】
「……わかった」
一時的な相棒に、界刻は従うことにした。
息を吐き、目の前に相対する怪物に対応するため目を閉じる。
呼吸をする度、知らない感覚を感じ始める。
意識の神経を精密にしていく度に、身体能力が上がっている感覚。
……慣れない感覚だが、目の前にいるミノタロスを倒すためだ。
――目を開けてください、旦那様。
「……!」
界刻は透姫の指示のまま目を開ける。
ミノタウロスを瞳に映すと、今までよりも鮮明に怪物が目に映る。
細部に至るまで、透姫を武装した時よりも怪物の動きが幾分か遅く見える。
白いローブと仮面に、この剣を握ったことで身体能力が向上した、ってことか。作家になってパソコンを頻繁に使うようになって落ちた視力が大分改善されている。
【今の私たちの状態は
「誓った生涯をかけた武装、といったところか」
【はい】
「それはまた、作家冥利に尽きる武装だな」
皮肉を込めて言うと、相棒は、そうですか、と淡々と返してくる。
……後で、皮肉の返し方を教えておくか。
【ガァアアアアアアアアアア!!】
大斧を振るい、ミノタウロスは迫ってくる。
界刻は剣を構え、集中する。鋭い眼光で大斧の表面を剣で払う。
ミノタウロスは続けて、拳を界刻の顔面に向ける。
戦闘慣れしていない界刻にはまだ剣だけで、瞬時に反応できなかった。
これ、避けれる気がしな――!!
【旦那様、失礼します】
「は? ま――」
体が透姫に支配されてか足でミノタウロスの拳を足で踏んで、背に飛び乗って背後に回り、距離を取った。
「お前の補助の動き、こういうこともできるんだな」
【はい】
「助かった、感謝する」
【……もっと褒めてください】
「お前さては意外と図々しいな?」
【なんのことかわかりませんね】
そっぽを向く精神体の彼女に声を荒げる。
こんな時に何を言っているんだ、コイツは。
【グァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
「っち、透姫!!」
【はい】
透姫が頷くと体は自然とケンタウロスへと駆け出していた。
【補助します!! 汝の
界刻の体が白く発光し、思考と体の動きがクリアになっていくのを感じる。
ミノタウロスは、大きく俺に大斧を振ってくる。
【グァアアアアアアアアアアアアア!!】
「その攻撃は知ってる!」
大振りの大斧を避けた界刻はそのまま二度目の背後を取る。
次は外さない!!
「くらえ!!」
【グアァアアアア……!!】
白剣はミノタウロスの首に入り、紙切れを着る時の感覚で切り落とせた。血が飛び散ることはなく、ミノタウロスは液状化し並行空間の闇に煌然と消えていった。
剣から伝った血にも見える液体も、星砂の輝きを放って消えていく。
【……旦那様、現実世界に一度戻りましょう】
「説明はしてくれるんだろうな?」
【それならば、司書にお願いすればいいのでは?】
なぜ透姫がサヤを知っているのかと疑問を口にしようとすると精神体の彼女の声と同時に、スマホの電子音が響く。
俺は精神体の透姫に視線を向けると相棒は小さく頷いた。
【……武装解除】
透姫が小さく呟くと、彼女は少女の姿に戻る。
自分も普段の姿に戻っていたので、急いでポケットからスマホを取り出した。
『聞こえる? 界刻君』
「ああ、サヤどうした?」
『君が怪異と仮契約を交わしたようだからね。一度、私の所に来てほしいんだ』
「……お前は、本当に見てるよな」
『すべての時間軸の状況は認識できる、そう言ったことがあったと思うけど』
「で、俺はどうすればいい?」
『一度ラインホルトゥスから正史世界に戻ってきてくれるかな。でないと今襲われたみたいに他の異害に襲われかねないよ』
横目で界刻は通路を見ると、泥上なのが次々と浮き上がってきているのが見える。
異害は、さっきのミノタウロスのことも差しているのか。
神話生物的存在だけなのか、それとも違うのかは定かじゃないが。
今はこの空間から撤退すべきだろう。
いろいろと、サヤには聞いておかないといけないことが多いだろうしな。
「じゃあ、一旦戻るか」
「そうですね」
……? なんだ?
界刻は周囲を見ると、扉がなかった。
なんでだ? 前までなら、一度来た扉はそのままあるはずなのに。
「私が扉を用意します、今の旦那様は私なしで正史世界に帰れませんよ」
「ああ、そうかなのか。じゃあ頼む」
「はい……開錠」
透姫は目を閉じて両手をかざすと白い扉が通路の道から現れる。
ようやく帰れることに安堵感に息を吐きながら、俺はドアノブを触れる。
「行くぞ、透姫」
「……っ、はい」
彼女は花の笑みを俺に見せた。まるでファンタジー作品のヒロインならメインヒロイン級の見た目でそんな彼女にどこか、あの子の顔が一瞬被った気がした。
そう、俺とメアリーが出会った日はそんな始まりだった。
そんな、始まりだったんだ。
俺と、アイツとの運命的な出会いは、鮮烈で、鮮麗で、鮮明な一日だったんだ。
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