第九頁 泣く無貌少女
界刻は急いで、廃墟から出て相棒がいるであろう場所に戻るため地下鉄で電車に乗っていた。
「……はぁ、まったく面倒だ」
揺れる電車の音を耳にしながら、ボソッと不満を呟く。
多少以前よりも稼げるようになってきたから切羽詰まってはないとはいえ……人混みのある電車はやはり苦手だ。
界刻は電車のドア横スペース付近に立つ。
おそらく、アイツがいる場所はどこなのか予測は付いている。
目的の場所に着き電車を降りて、界刻は走り出した。
「……やっぱりここにいたのか」
界刻は家に帰宅し、片付いた自分の部屋を見ながら俺のベットで蹲っている雪山めいた状態でシートを被っている相棒に向かって言った。
「ッ、ぐす……私は、いませんっ」
「さやかは正論を言うのはわかっているだろうが……はぁ、何を意地になってるんだ?」
俺は別にコイツに愛着がない、というわけではないのだ。
ただ、恋愛感情に関しての設定面において、主人公に心の底から惚れている、という点で彼女自身が俺と過ごす間に自然と俺への好意を表わすようになった。
「……そこまで泣くことなのか?」
「……私、ひぐ、絶対、謝らないですっ、ぐす」
「謝れだなんて言ってないだろ」
界刻は
唯是透姫、それが俺が彼女に与えた契約中の間だけの彼女の名だ。
だが、はっきり言いたい。声を大にして言いたい、先輩方よ。
なんてことをしてくれた、と。末恐ろしいヤンデレヒロインを産み出してくれたんだと、心の底から絶望したあの日が懐かしい。
さっきからずっと泣きながらベットのシーツにくるまって泣き続けている彼女に呆れというか、なんともいえない感情が湧き上がってくる。
「……スッキリするまで泣いてろ」
「ぐすっ……そこは、泣くなって、言うところじゃないですかっ」
「知らん」
……女付き合いを多く経験したことがないのだから、当然だろうが。
泣く時にたくさん泣いて言いたい放題、本音を自分の部屋でぶちまける。そうして後からすっきりするという一連の動作によって、ストレス発散をする時はよくある話だろうに。
「知らんじゃないじゃないですか! ふ、ぐす、このノンデリ! 空気を読んでくださいっ!!」
「空気を読んで、お前が泣き止むまで一緒にいてやってるんだろうが。お前こそ空気を読め」
「……界刻の、バカァっ。なら、頭、ぐす……っ、ふ、うぅ、撫でて、くださいよぉ」
「はいはい」
俺は立ち上がって、ベットで繭の形に等しい状態になっている相棒の頭を布越しに撫でる。
「もっと優しく撫でてくださいっ、雑はイヤ!」
「子供みたいなこと言うな、お前は」
「……間違いじゃ、ないじゃ、ないですかっ、ふ、ぐっ……うぅ」
「はいはい、そうだな。とっとと眼球にある涙を全部出し切れ」
「ノンデリ! ノンデリ男ぉ!! バカァ!!」
「だったら、いつものお前に早く戻れ。こういうのは慣れてないんだよ」
「……じゃあ、ぎゅーって、してください」
……甘えたな娘か何かか。
俺が父親、って捉え方はあながち間違いじゃないのも事実か。
契約している間とはいえ、しかたがないか。
界刻はぽんぽんと背中を軽く叩いて、頭を撫でながら抱きしめる。
「とっとと泣き止んでいつも通り笑ってろ」
「……ちょっと、息苦しいです」
「抱きしめろと言っておいてかお前」
「そういうセンチメンタルな時もあるんです!! 察してください!!」
「俺は異性のセンチメンタルは詳しくないんだが?」
「いいから、ぎゅってしていてくださいっ!!」
……まったく、コイツは。猫か何かなのか。
気分屋というかなんというか。俺が描いたヒロインと考えて、この反応を期待しているところがあるかと問われたら俺はそのつもりは一切ない。
だからこそ、可愛らしさを感じてしまうのは、愛おしさを覚えそうになってしまうのは……作家が書いた登場人物だから、と強く思うことにした。
「……界刻」
「なんだ」
「お仕事です、泥棒猫の黒猫からの連絡がありました」
「……本当か」
被っていたシーツから顔を出し、相棒ははっきりと言った。
コイツが泥棒猫の黒猫という時、大概決まって綴理坂のことを差している。
こいつが言うのなら、間違いはない。
「……2件目だぞ」
「
切り替えが良く、彼女はシーツを取って涙で目をはらした顔はすぐに失せた状態で扉を用意した。
「では、行きましょう。私たちのエデンへ」
「……ああ」
界刻は透姫の手を取り、一緒に扉を潜った。
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