やっぱり巫女服って最高だよね(念押し)



 こんな片田舎の夏祭りに現れた有名芸能人と世界的芸術家と謎の巫女服コスの女の登場に、さっきまで僕達にインタビューしていたテレビ局達のスタッフは呆気にとられているようだった。それでもこれは結構な撮れ高になるはずだと思うけれど、リポーターの女性は僕達に背を向けてコソコソと立ち去ろうとしていた。

 が、コガネさんが彼女の肩をガシッと掴む。


 「ねー君。前に私と会ったことない?」

 「へぇ!? い、いや~私みたいな地方のテレビ局の人間が貴方みたいな有名芸能人とお会いしたことなんて無いと思いますけど~?」


 リポーターの女性はアタフタと慌てふためいて逃げようとしていたけれど、悪い笑顔を浮かべるコガネさんが彼女の体を掴んで離さない。


 「素直に認めないと、初恋の人の名前をバラしちゃうよ? 全国のお茶の間に赤裸々に流しちゃうよ?」

 「いや~貴方が知ってるわけないと思いますけど~?」

 「初恋の人の名前は天野たいy……」

 「わーわーわー!?」


 ポロッと口が滑りそうになったコガネさんの口を、リポーターの人は慌てて塞ごうとした。でもその一瞬の隙を突いて、コガネさんはリポーターがかけていたサングラスと被っていた帽子を剥ぎ取り、サングラスと帽子で隠れていたリポーターの素顔があらわになった。


 「え……?」

 「嘘ぉ!?」


 黒髪のボブカット、特徴的な口元のホクロ、そして彼女から放たれるオーラ……有名芸能人であるコガネさんと同じぐらいテレビに出ずっぱりの人気シンガーソングライター、ナーリア・ルシエンテスその人だった。


 「やっほーナーリア。そんなバレバレの変装して何してんの?」


 同じ芸能界という世界で生きているからかコガネさんとナーリアさんは知り合いのようで、僕やスピカ、ムギがナーリアさんの登場に驚いて言葉を失い、周囲の群衆はまさかの有名芸能人の登場で大いに盛り上がる中、コガネさんはニヤニヤしていたしレギナさんとネレイドさんは呆れた様子で溜息をついていた。

 しかしナーリアさんはプルプルと体を震わせると、持っていたマイクを投げつけるような勢いでコガネさんに叫んだ。


 「今ドッキリ企画の撮影中だったのよ! 私が生まれ故郷のお祭りにこっそり参加して色んな人と触れ合っている途中で突然一般人として舞台に呼ばれて、この歌唱力で聴衆をびっくりさせる予定だったの!」


 全部話してくれたじゃん。じゃあこの企画、コガネさんが全部台無しにしたってこと? ナーリアさんの後ろにいるスタッフさん達は頭を抱えてるし、何これお蔵入り?


 「まーまー落ち着きなってナーリアちゃん。ドッキリってのはこういうのもよくあるから。むしろそういう時に知り合いの私達に出会っちゃうナーリアちゃんの悪運っぷりがヤバイよね」

 「コガネもテレビに出てるからわかるでしょ!? こういうのはわかっててもちょっとは泳がせなさいよ! 前に私が作った曲だって提供してあげたでしょ!? 私だって初めての仕掛け人だったからウキウキしてたのに~!」


 まさか番組側もこんな場所で仕掛け人の知り合いであるコガネさんが突然現れるとは思ってなかっただろうに。

 運が良いのか悪いのか、ナーリアさんがシクシクと悲しみの涙を流す中、コガネさんは笑いながら僕達に言った。


 「あ、一応紹介しとくよ。私達の友達のナーリアちゃん。月学で同級生だったんだ~」

 「ちなみにボクもだよ。ナーリアはちゃんとボクのことを覚えてるよね?」

 「爆発は芸術だ!って屋上で叫んでた人?」

 「まぁ、うん……そんな時代もあったけど」

 「言ってたねそんなこと。ねぇ土田さん、私のこと覚えてる?」

 「レイ、私のことを本名で呼ぶのやめろ。アンタの裏垢バラすわよ」

 「わーわー、冗談冗談」


 ナーリアさんって芸名だったの? 土田さんって呼ばれてるのちょっと面白い。

 それはおいといて、この四人が同級生か……もう男子だけじゃなくて女子も盛り上がりそうな面子の揃い方だ。同じ学校、しかも同世代から何人も有名人が出ているのは凄い。スーパーモデル兼女優、世界的芸術家、人気シンガーソングライター、コスプレイヤー……コスプレイヤーだけちょっと異質じゃない?


 「ていうかコガネ達はそこの男の子と知り合いなの? どういう関係?」

 「私の後輩を助けてくれたんだ~」

 「ちょっとした手違いでボクは彼に暴力を振るってしまって……」

 「私が昔勤めてたバイト先の後輩だよ」

 「何その繋がり」


 あれ? もしかしてコガネさんとレギナさんとネレイドさんの三人の共通の友人である僕って結構凄いのでは?



 ナーリアさんによるドッキリ企画は大失敗に終わったけれど、予想だにしなかった有名人達の登場によりステージの周辺は大いに盛り上がり、ロケも続行されることになった。

 月ノ宮の出身で有名人であるナーリアさん達の登場で境内には多くの人が殺到し、警備員やスタッフがステージ周りで騒動の収拾に当たる中、ナーリアさんのロケの小休憩の間に僕達は神社の売店へと向かった。


 「あ、どーもどーも~巫女服のコスプレどうですか~?」


 と、巫女服姿のルナが売店に笑顔で立っていた。この子の巫女服姿はコスプレじゃなくて一応実家のお手伝いのはずだけどね。

 

 「やぁルナちゃん、お疲れ様。売れ行きはどう?」

 「さっき一セット売れていきましたよ。あ、ちなみに千五百円でレンタルもしてるんですけどいかがです? そこのお二人に」

 「わかった。じゃあスピカちゃんとムギちゃんのために二セット」

 「即決!?」

 「大分朧も朧らしさが戻ってきたね」


 これで朧らしさが戻ってきたと言われるのもどうかと思うけれど、割とスピカとムギもノリノリで裏にある更衣室に着替えに行ってしまった。

 

 「そういえばさっき、ステージの方がかなり盛り上がってたんですけど何かあったんですか?」

 「実はドッキリ企画でナーリアさんがロケに来てて、オフでお祭りに来ていたコガネさんと鉢合わせたんだよ」

 「えぇ!? そんな有名人が来てたんですか!? これはスクープですよ!」


 スピカとムギの着替えを待ちながらルナと話していると、ラフな格好のキルケと夢那の二人が売店の方へとやって来た。


 「あ、烏夜先輩にルナさんではないですか!」

 「巫女服似合ってるね~」

 「どーもありがとうございます。お二人もいかがです? 今ならレンタル料は朧パイセンが払ってくれますよ」

 「僕持ちなの!?」

 「確かにキルケちゃんって似合いそうだよね、巫女服」

 「いえいえ、夢那さんの方こそ似合うと思いますよ! 是非着てみましょう!」

 「……え、僕持ちで?」


 でも僕だってキルケと夢那の巫女コスを見たかったら、喜んでルナに三千円を渡した。皆の巫女コスを拝めるならこれぐらい安いものだ、むしろこのために僕はアルバイトを頑張ってきたんだ。いや、本当にこのためか?

 そして待つこと数分。スピカとムギとキルケと夢那の四人が更衣室から姿を現した。


 「おぉ! 良いですね良いですねぇ!」

 

 ぞろぞろとやって来た四人の姿をルナは活き活きしながらカメラでパシャパシャと写真に収めていた。あとでめちゃくちゃ焼き増ししてもらお。


 「朧、どう? まさに悩殺って感じ?」

 「その発言で台無しかな。でも良いね……日本に生まれて良かったと心の底から思えるよ」

 「そんなにですか」

 「これ、ノザクロの制服に出来ないかな?」

 「全然神社関係ないですよ!?」


 あのマスターなら「ベリーグッド!」だなんて言って簡単に許可してくれそうだけど、多分キルケや夢那が巫女コスしていたらそういうコンセプトカフェみたいになっちゃうんだよ。一日限定のイベントとかには良いかもしれないけれど。


 四人の巫女服姿を拝めて感激していると、僕達が集まっていた神社の売店に他のお客さんが……と思ったら、突然声をかけられた。


 「あら、ボロー君じゃない」

 「え?」

 「あ、朧君達だ~」

 

 現れたのは、スピカとムギの母親であるテミスさんと、美空の母親である美雪さん。そして──。


 「げ」


 僕と鉢合わせて明らかに嫌そうな顔をしている、僕の叔母の望さん。三人ともどういうわけか巫女コスをしている。

 なんだろう、この既視感。テミスさんや美雪さんは全然良いとして、望さんは……なんだか身内として複雑な感情になる。何してるんだこの人。


 「どうして朧がここにいるの?」

 「いや、地元のお祭にぐらい来たっていいでしょ。望さんの方こそ仕事は?」

 「今日は休みをとったの。たまの休みにぐらいコスプレしてたっていいでしょ別に」


 僕の記憶の奥底から、望さんの趣味はコスプレであるというデータが蘇ってきた。そして溜息をつく望さんの元にルナ達が駆け寄る。


 「いや~お久しぶりです所長さん。今日もお似合いですね、チェキ良いですか?」

 「チェキなんて久々に聞いたわ。五千円でどう?」

 「朧パイセンが払ってくれるので大丈夫です!」

 「いや払わないよ!?」


 一方でテミスさんの娘であるスピカとムギは呆れた表情をしていた。


 「コスプレって占いに必要なことなの?」

 「えぇ、深い関係があるわ。今日の私のラッキーアイテムは巫女服よ」

 「ラッキーアイテムが!?」

 「懐かしいわ……若い頃、旦那と一緒だった頃を思い出すわね……」


 巫女服を着て思い出すことある? 若い頃に一体何があったというんだ。

 なお、大人組三人はなんだかんだでスピカ達と一緒に集合写真を撮っていた。


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