八方美人プレイ、極まれり



 僕達が美空にプレゼントを渡し終えた頃、丁度大星達が料理を作り終えてリビングでパーティが始まる。各々が好きなドリンクを持って、何故か僕が乾杯の音頭を取ることになった。


 「では僭越ながら、私烏夜朧が乾杯の音頭を取らせていただきます。

  大星君、美空さん、そして両家の皆様、本日は誠におめでとうございます」

 「おい待て、それ結婚式とかの乾杯の挨拶だろ!?」

 「でも実質結婚式の予行演習みたいな所はあるよね」

 「そう遠くない未来ですね」


 こういうお祝いごとの時は今までずっと僕と乙女が乾杯の音頭を取っていたらしいから、多分以前の僕もこういうおふざけをしていたと思う。多分乙女は「よっ! ご両人!」とか言っていただろう。


 「私と大星の結婚式かぁ……なんだかさ、突然扉がバァンって開いて誰かが花嫁を連れ去っていくシチュエーションって良いよね」

 「それ、面子的に朧が美空を奪っていくことになるけど良いのか?」

 「いや、ここは朧っちに当て馬になってもらって、大星に奪いに来てもらおう!」

 「僕を当て馬にしないでもらえる?」


 少し話はそれてしまったけれど、皆で乾杯をしてパーティが始まる。もうテーブルには意味がわからないぐらい山盛りの唐揚げとかハンバーグとか、この人数で食べきれないほどの量に一見思えるけど、ブラックホールのような吸収力を誇る美空の胃にどんどん吸収されていく。


 「流石主役だね。たくさん作ったつもりだけど、お姉ちゃんのお腹に足りるかな?」

 「困ったら出前頼もうよ。駅前のお店なら開いてるでしょ」

 

 美空の食いっぷりを見ていると何だか感動する。大食いだけど食べ方は綺麗だしとても幸せそうに頬張っている。


 「大食いなところはパパに似たのかもね、フフ」

 「いや、多分ママ似だと俺は思うんだが?」

 

 パーティに同席している霧人さんと美雪さんの方をチラッと見ると、美雪さんの前に置かれていたはずの大皿から山盛りの焼きそばが消失していた。


 「あれ!? 焼きそばが無くなってる!?」

 「お父さんも結構食べますけど、やっぱりお姉ちゃんはお母さんに似たんだと思います」

 「い、一体どこに入ってるんだ……?」

 「そんなことないよ~フフフ」

 「あ、今度はお好み焼きが消えてる!?」


 パーティに用意された大量の料理は美空と彼女の母親の美雪さんの胃袋にあっという間に消えていき、このパーティの主役である誕生日ケーキが運ばれてきた。

 一ヶ月前からケーキの作り方を研究したという美月と晴。そんな二人が美空のために作ったのは、たくさんのフルーツで彩られた三段に積み重なったチョコレートケーキ。

 いや、大きさが完全にウェディングケーキなんだけど。


 「じゃあ朧、合図取って」

 「オーケー、任された。

  では皆様、ご歓談のところ失礼いたします。本日のメインイベント、新郎新婦によるケーキ入刀です」

 「誰が新郎新婦じゃボケ」

 「ほらお兄ちゃん、ナイフあるから」

 「何で用意したんだよ」


 全然打ち合わせとかしていなかったけれど、まるで全て用意されていたかのように大星は美空と一緒にナイフを持たされてウェディング……じゃないじゃない。美空の誕生日ケーキの前に立たされた。

 これ誕生日パーティのはずだよな?


 「皆様、これ以上ないシャッターチャンスですので、是非前の方へお越しください」

 「朧~ほら笑って~」

 「写真を撮るんじゃない」

 「これ動画だから大丈夫だぞ」

 「何してるんすかレギー先輩」

 

 もう皆面白がって大星と美空にスマホのカメラを向けている。


 「用意は良いぞー!」


 霧人さんにいたっては三脚を使ってまで写真取ろうとしてるじゃん。


 「それでは、新郎新婦によるケーキ入刀です! ではどうぞ!」


 主役である美空は満開の笑顔で、そして大星は文句こそ言っていたものの満更でもなさそうな様子で、無事ケーキの入刀が決まった。

 

 「あ、二人そのままのポーズでね。皆! 今がシャッターチャンスだよ!」

 「よし来た」


 パシャパシャと写真を撮るスピカ、動画で撮影しているレギー先輩、そして連写モードでとんでもない枚数を撮っているムギ。後で写真と動画送ってもらお。

 一方で二人のケーキ入刀を見守っていた霧人さんの目には涙が。


 「うぅ……美空にもとうとうこの時が……!」

 「パパ、まだ気が早いよ。今泣いちゃうと本番で干からびちゃうよ~」

 「ぬおおおん!」


 今ももう結構な勢いで泣いているけど、確かに霧人さんとか結婚式ですんごい勢いで泣いてそうだ。



 結婚式でもないのにケーキ入刀も無事に終え、ケーキが人数分に切り分けられた。勿論主役の美空はビッグサイズだ。

 

 「うん! これ、サザンクロスのより美味しいよ! 意外とチョコとフルーツって合うんだね!」

 「良かった~一ヶ月前から練習した甲斐があったね晴ちゃん」

 「えへ、えへへ……」


 料理が得意な霧人さんと美雪さんの手助けもあったらしいけれど、二人でこんなサイズの、しかもこんなに美味しいケーキを作っただなんて凄いなぁ。僕も料理はするけれどお菓子は作ったことがないから、今度何か挑戦してみようかなぁ。


 「このチョコの甘さがとてもフルーツに合いますね」

 「友達の誕生日パーティにお邪魔して、こんな美味しいものばっかり食べてたら太るよスピカ」

 「だ、大丈夫だから!」


 確かに大食らいの美空のペースに狂わされて僕もちょっと食べすぎているかもしれない。むしろ美空はそんなに食べているのにどうやってその体型を維持しているんだろう。


 「ケーキ美味いな……おい大星、結婚式にはオレも絶対呼べよ。ケーキも美味いやつを頼む」

 「美味しいもの食べたいだけでしょ、レギー先輩」

 「その時も美月と晴ちゃんに作ってもらう?」

 「さ、流石にそれは荷が重いかも」

 

 今はまだ冗談とはいえ結婚の話をしているだなんて、少し違う世界を生きているような感覚だ。でも大星と美空はなんだかんだお似合いカップルだし、このままゴールインして幸せな家庭を築いていそうだ。ご両親公認だしね。


 「結婚式かぁ……あの頃が懐かしいなぁ、ママ」

 「あの頃のパパは格好良かったね」

 「あの頃だけ!?」

 「フフフ~冗談だよ~」


 そこで惚気けるのやめろ。



 ケーキを食べ終えた後(美空はまだ食べていたけど)、ムギが持ち込んだゲームを遊ぼうという話になった。ゲーム機は大星達の家にあったから、ソフトを差し込んでテレビ画面に映す。


 「これ何のゲーム?」

 「『カミサマ・ラヴ・ストーリー』っていう恋愛シミュレーションゲームだよ。無事美空という彼女をゲットした大星が本当に女心をわかっているのか確かめようと思ってね」


 地方にある大きな神社の跡取りである主人公と、神へ捧げる生贄に選ばれた少女達との恋愛譚を描いた作品だという。生贄だなんて中々に怖い設定だけど、界隈じゃ有名な作品だという。

 コントローラーを大星に持たせて、パーティの片付けに入った霧人さんと美雪さん以外の面子でテレビを囲った。

 

 「確かに大星って鈍感なところあるし勉強も必要だよね!」

 「本当にゲームでわかるか?」

 「まぁやってみればわかるよ」


 早速ゲームを起動すると、赤髪の少女がネブラスライムに襲われているシーンから始まった。


 「なんだこの導入」

 「私が大星さんと出会った時のことを思い出しますね」


 どんな出会い方してるの。

 その少女を無事助けた後、やけにレギー先輩に似ているオレっ娘の先輩と出会い、やけにムギに似たインドア派の少女と出会い、そして遊ぶ約束をしていた幼馴染の少女の元へ向かうと、彼女が神様に捧げる生贄に決まったという知らせが入り──そこでオープニングムービーが始まる。


 「何だかオレ達に似てないか?」

 「ムギっぽいキャラも出ていましたし……」

 「どことなく主人公の口調もお兄ちゃんに似てるね」

 「もしかしてムギちゃん。皆に似てるキャラが出てるゲームをわざわざ選んだの?」

 「さ、さぁ偶然だと思うよ?」


 そう言ってムギはわざとらしく口笛を吹いていた。むしろこんなに友人達に似ているキャラが出てくるゲームがあるのかな。見た目がそっくりそのまま似ているわけじゃないけれど、口調とか雰囲気がそのまんまなのだ。

 そんな話をしているとオープニングムービーが終わって学校生活が始まり、主人公の親友だという男子が登場した。メガネをかけた好青年に見えるけれど、女好きでいつも女性にナンパばかりしているという。


 「なんか朧っちみたいなキャラ出てきたね」

 「僕ってこういう感じなんだ」

 「確かに朧ってこういう友人キャラって感じするよな」

 「それって褒めてますか?」


 今度はそんな友人キャラと仲の良い少女が登場する。元気だけが取り柄な少女で、どうやら主人公と幼馴染の恋を応援しているようだ。


 「このキャラは乙女さんに似ていますね」

 「懐かしくなるね」


 乙女ってこういう雰囲気なんだなぁと感じながら進めていくと、とうとう最初の選択肢が。どうやら美空に似ている幼馴染の少女が大星に似ている主人公を遊びに誘っているようだ。彼女と遊びに行くか行かないかを選ぶことが出来る。


 「大星は勿論行くよね?」

 「なんか圧を感じるが、まぁ昨日の話を聞きたいし行ってみるか」


 なんか神様への生贄とかの話があったから、とりあえず遊びに行ってみる。しかし彼女からそんな話が切り出されることなく、ただただゲームセンターだとか公園だとかカラオケでイチャイチャしているだけだった。


 「何だかいつもの大星さんとお姉ちゃんを見ているような感覚ですね」

 「このバカップルぶりはまさしくそうだね」

 

 そして翌日。今度は学校でスピカっぽい少女とのイベントが起きて、この前ネブラスライムから助けてくれたお礼をしたいとのお誘いが。行くか断るかという選択肢が出ている。


 「まぁせっかくだし行ってみるか」

 「いや、待つんだ大星」


 善意の塊っぽい大星なら迷わず一緒に出かけそうだけど、僕はそんな彼の腕を掴んだ。


 「ここは慎重に動くべきだよ。ここで彼女のイベントを見るのもアリだけど、もしかしたらこのお誘いを断ることで美空ちゃん……じゃなくて、美空ちゃんに似た女の子とのイベントが代わりに起きるかもしれないよ」

 「そ、そうか……なら断るか……」


 ちょっとスピカが残念そうな顔をしていたけれど、ごめん。恋愛シミュレーションゲームってそういうところもあるんだよ。


 「あ、今度はレギー先輩っぽい人からのお誘いだよ。断る?」

 「いや、幼馴染も一緒みたいだし行った方が良いんじゃないかな」

 「よし、行くか……やべっ、なんか美空かレギー先輩を選べって出たぞ」

 「いやオレ達に似てるってだけでオレ達じゃないだろ。好きな方選べよ」

 「うぐっ……こ、ここは心を鬼にして……ってあれ?」

 「あ、タイムオーバーだね」

 「そんなシステムもあるのか!?」


 登場人物が僕達に似ているだけに選択肢を選ぶのに困る部分はあるだろうけど、やはり大星のプレイを見ていると危なっかしく感じる。そのまま選ばせていたら誰のルートにも行けずにバッドエンドになりそうだもん。

 ゲーム中の話は少し進み、生贄に選ばれたことに怯えて空き教室で一人泣いていた幼馴染と出くわした主人公。選択肢は『声を掛ける』と『黙って抱きしめる』が。


 「いや、抱きしめるはないだろ!?」

 「違うよ大星。こういう時は積極的にいかないと!」

 「大星さん。あの子を美空さんに置き換えてみてください。大星さんならどうしますか」

 「私なら後ろから抱きしめてほしいなぁ~」

 「うぐっ、じゃあいくしかねぇー!」


 これはあくまでゲームだけれど、大星は結構恋愛に奥手だ。大星と美空の恋が成就するように僕が奔走したという話もあったし、僕も苦労していたのかもしれない。

 しかし物語も佳境を迎えて選択肢一つ一つの重みが変わってきた頃、僕があえて口を出さずにいると大星はバッドエンドを迎えてしまっていた。


 「あーあ、すごく悲しいエンディングだよこれ」

 「この後、大星はどんな子が生贄になっても何も思わなくなるんだよね……」

 「人間をただの道具としか思えなくなるんだろうな……」

 「くそっ、もう一周だ!」

 

 しかし一周目が終わった頃には時間も時間のため、大星はムギからゲームソフトを借りて鍛錬を積まされることが決まった。

 そんな彼に僕からアドバイスを送る。


 「大星、恋愛というものはね、誰かを愛するためには他の誰かを犠牲にしないと実らないんだよ。善意のまま行動して八方美人のように振る舞っていると、選択肢を外すことで発生したはずのイベントを見逃すことだってあるんだ。こういう類のゲームでセーブ&ロードを繰り返すのは少し卑怯かもしれないけれど、ある程度の段階で誰か一人に絞ったほうが良いよ。じゃないと美空ちゃんに浮気性だと疑われてしまうからね!」

 「お前なんでそんなに詳しいんだよ」


 なんだかスラスラと語ってしまったけれど、確かに僕ってそんなに恋愛シミュレーションゲームを嗜んでいたのだろうか? 僕の家にもゲームはあるけれど、そういうゲームは置いてなかったはずだ。


 「確かに朧さんのアドバイス、かなり的確でしたね」

 「もしかして前に遊んだことある?」

 「いや、僕の家にはなかったよ。そもそもこういう恋愛シミュレーションゲームは遊んだことがないんだけどね」


 これも女好きで女性を口説いてばかりいた以前の僕の名残なのだろうか。


 「八方美人プレイをダメって言ってるけど、そういう朧っちはなんだかんだ三人もゲットしてない?」

 「いや、まだ私達はエンディングを迎えてないだけだから」

 「どういうことなんだよ」

 「そうだぞ。朧、早く完全に元に戻れ。いや戻んなくてもいいから答えを決めろ」

 「ま、まだ保留で」


 確かに僕は誰か一人に絞れって大星にアドバイスしていたけれど確かに説得力ないじゃん。

 一夫多妻もアリと三人は言うけれど……本当にそれでいいのかな?


 

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