アストレア姉妹編⑬ 女神ノゾミール
各々が昼食に満足したところで食後に月ノ宮特産のフルーツジュースを飲んでいたのだが、そこでムギがニヤニヤしながら自分のリュックから真っ黒な謎の瓶を三つ取り出した。
それは……あの忌々しき栄養ドリンク、ダークマター☆スペシャルだ! もう色々とトラウマでしかないぞ!?
「む、ムギ!? お前、なんでそんなものを……!?」
それにいち早く気づいた大星が目を見開いて言う。いや、もう反応が深刻過ぎるだろ。
「ふっふっふ……朧、この前の再戦を申し込むよ。あと一つは勇気あるチャレンジャーにあげる」
俺は何故か強制的に飲まされることになっているが、まぁ良いだろう。確かに栄養ドリンクというだけあって、飲んだ後は何故か体調がすこぶる良くなるし。飲んでいる時は想像を絶する辛さだが。
「最近マイナーチェンジしたみたいでね、さらに多くの栄養分が入ってるんだよ。勉強で頭が疲れている時に、さいっこうにハイになれる良いお薬なんだけどね……」
「やめろやめろ、ただの栄養ドリンクだろうが」
「でもね、実際そういう疲れが取れるとか甘い謳い文句で麻薬や危険ドラッグを売りさばく悪人もいるからね。気をつけた方がいいよ」
「どうして朧っちはこういう時に急に真面目になるの?」
「いや、皆のためを思ってだよ」
ダークマター☆スペシャルはアイオーン星系原産の食物をふんだんに詰め合わせて悪魔合体させただけで、危険な成分は一切含まれていない。栄養素が多すぎてオーバードーズでも起こしそうだが。
「さて、これを飲もうという勇気あるチャレンジャーはいないのかな!」
大星視点でもこういうイベントあったっけな。一応晴と美月にも飲ませるイベントがあったはずだ。ヒロインの好感度がだだ下がりするが、ヒロインがえずくシーンが見れるという紳士向けのイベントなのだが……なんと俺の隣に座っていた美月が手を挙げる。
「私、飲んでみたいです」
マジで、と思っていたがすかさず姉の美空が止めた。
「いや、私が飲むよ。これを美月に飲ませるわけにはいかない」
「お、お姉ちゃん……!」
何この寸劇。そんなところで姉妹愛を見せつけるんじゃない。
「おい大星。彼女がこうして体を張って妹を守ろうとしているのに、君は彼女を守らないのかい!?」
「いや、美空の頑丈な胃袋なら大丈夫だろ」
「確かに」
別に俺だって大星がえずいているシーンなんて全然見たくない。俺だって誰かに押し付けられるのならそうしたいが、他ヒロインの好感度がだだ下がりする可能性があるため控えていた。
そしてダークマター☆スペシャルは俺、ムギ、そして美空の前に置かれ、他の面子はそれをマジマジと見つめていた。
「良い、二人共。これをどれだけ早く飲み干せるか勝負ね」
「大丈夫、覚悟は出来てる」
「やってやるもんね!」
そして俺とムギ、美空は同時にダークマター☆スペシャルに口をつけた──。
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『──ようこそ、運命に導かれし亡者よ』
黄色い髪はボサボサで清潔感がなく、目の下にクマを作った白衣姿の女性が、俺の目の前で笑みを浮かべながら言う。
「な、なんだここは!?」
『私は女神ノゾミール……貴方を勇者にするべく召喚しました』
ま、まさかこれは噂に聞く異世界転生か!? なんかここ雲の上っぽいし神殿っぽい建物の中だし、きっと一見パッとしないハズレスキルをガチャで引くけど実は無双できちゃうか可愛い女の子達とスローライフ出来るんだろうなぁグヘヘ……。
『さて、勇者よ。貴方に選択肢を与えます。貴方が選んだ選択肢でこの世界の命運が大きく変わるでしょう……』
すると俺の目の前に数体のマネキンが魔法のようにボンッと現れた。そのマネキン達はセーラー服、ブレザーの制服、体操服、スク水、巫女服、OLスーツ、軍服、忍者……ここでようやく俺はハッと気づいた。
「おい、これただのコスプレ衣装だろ!?」
『ち、違うわよ! 私はただどれが性癖に刺さるか選べって言ってるの!』
「ていうかアンタ望さんだろうが! 女神のコスプレして何やってんだよ!」
『何言ってんの私は女神ノゾミールよ。生意気言うならアンタをスライムにでも蜘蛛にでも転生させてやるんだから』
「横暴だああああああっ────」
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「──ハッ!?」
俺はようやく目覚めた。危ない危ない、なんかもう少しで異世界転生してしまいそうだった。いや、そもそも俺はエロゲ世界に転生してるんだから経験者ではあるのか。
「朧さん、お気を確かに!」
「あぁ、ありがとう美月ちゃん。僕は大丈夫だよ。ちょっと異世界の扉が開いてたけど何とか戻ってきた」
「そのまま異世界転生してしまえばよかったのに」
「冷た!?」
俺は何とかダークマター☆スペシャルを飲み干すことが出来たようだ。目の前のテーブルに置かれた瓶は空になっている。その想像を絶する味で俺は死の淵を彷徨っていたらしい。
一方で意気揚々とこの勝負を仕掛けてきた張本人であるムギはというと……。
「あぁっ、はぁっ、んうぅ……!」
まぁ、案の定苦しそうにしていた。おいたわしやおいたわしや。
「む、ムギ……貴方は勇敢だったわ」
「あ、ありがと……えうっ、はぁっ、んあぁ……」
最初はそういう趣味を持っているつもりはなかったのだが、何か今のムギを見ているとイケナイ気持ちになってきた。これ考えたの絶対悪い奴だぞ。
そしてもう一人の挑戦者、美空の方を見ると……。
「はぁっ、はぁっ……」
まぁ予想通りの展開。しかしムギと違ってえずいている、というよりは何故か体が火照っているようで、この状態の美空どこかで見覚えが……。
「だ、大丈夫か美空?」
「うん、大丈夫だよ大星……でも、ちょっと体が熱いかなぁ、なぁんて……」
と言いながらも美空は隣に座る大星に体をピトッと密着させた。あの、熱いって言ってましたよね?
俺は疑問に思いつつ、一応ダークマター☆スペシャルが入っていた瓶の原材料を確認してみる。すると『ネブラ鶏の卵含む』という赤線が引かれた注意書きがあった。確か法律でアレルギーの可能性がある特定原材料は表示が義務付けられている。
しかし美空は卵アレルギーではない。いや、まさかこれはアイオーン星系原産の宇宙食物が地球人の、しかも何故か女性にだけ引き起こすというアストルギー反応か!?
「おい離れろ美空、暑苦しい。水でも飲んでこいよ」
「大星も一緒に浴びようよ~」
「浴びろとは言ってないだろ!? だから引っ付くなって!」
ダメだ、このままでは美空が大星を襲う性魔獣になってしまう。しかしこのアストラシーによる興奮を抑えるためには何らかの方法で発散させなければならない。
そう、手っ取り早い方法はセ[ピーー]かオ[ピーー]だ。実際作中では主人公達がそれでヒロインのピンチに対処してきた。まぁどっちかって言うと襲われてた主人公側の方がピンチだったが。
「えへへ~大星~」
「おいこら、美空! ベルトを外そうとするんじゃなあい!」
今の美空は正気ではない。アストルギー反応が出る食物を食べることで起きるアストラシーショックは確かに性的興奮作用があるが、それが作用するのは本人が好いている相手だけだ。つまり美空にとっては大星が標的ということである。
「……致し方ありませんね」
すると俺の隣に座っていた美月がスクッと立ち上がって、向かいに座る美空の方へと向かった。何をするのかと思うと──何を思ったのか美月は姉の美空の首にズドン、と手刀を食らわせた!
「へうっ!?」
美月の手刀は美空を気絶させるには十分で、美空は頭の上に星をピヨピヨと回転させながら倒れ、大星の体に支えられていた。
あれ? 美月って設定上はあまり運動が得意じゃないはずだけど、やっぱり父親である霧人さんのフィジカルの強さを受け継いでるのか?
「……見事!」
パチパチと感服するムギ。いや確かに凄かったけども。
「ふぅ。私の姉が失礼いたしました。部屋で寝かしときますのでご安心ください」
美月はきっと自分の姉が醜態を晒すのを……この興奮が収まらず大星を襲って行為に至るのを許せなかったのかもしれない。
そして美空は大星がおんぶして部屋まで運ばれることになり、俺達は勉強会へと戻る。
俺は今現在、スピカとムギに起こるイベントを注視しなければならないのだが……大星と美空の妹である晴と美月が二人をどう思っているのか気になっていた。
二人がキーマンとなり、美空ルートのバッドエンドを迎えてしまう可能性があるからだ。
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