レギー先輩編㉕ グッドエンドの予感
俺は煤だらけの制服から着替えるため一旦家へと戻り、シャワーを浴びて着替えてから再び月ノ宮学園へと向かった。
朧や大星、美空達の母校である中学の爆発騒ぎは彼らの耳にも届いていたようで、爆弾魔が現れただなんていう噂まで流れる始末だ。確かに立て続けに三回も同じ校舎で起きたから不思議だったが、流石に爆弾魔は大げさ過ぎるだろう。エロゲの神様の気まぐれとしか思えない。
「テスト嫌だぁ……」
昼休み。いつものように屋上でビニールシートを広げ、大星、美空、スピカ、ムギ、そして俺の五人で昼食を食べていると、美空が青空を見上げながら悲壮感漂う表情で言う。
「テスト勉強、上手くいってないんですか?」
「こいつ、世界史が全然頭に入ってないんだ。四大文明すら怪しいぐらいだ」
「美空、四大文明言える?」
「あんパン、食パン、カレーパン……メロンパン」
それは某キッズアニメに出てくるパン頭の連中じゃねぇか。パンだけでも四つじゃ収まりきらないぞ。
「これは本格的にテスト勉強が必要みたいだね。そうだ、折角だから今度の休みに勉強会なんてどうかな? 僕がマウストゥーマウスで教えてあげるよ。大星達の家で」
「マンツーマンだろ。あとしれっと俺達の家を会場にするな」
「そこは家主の美空ちゃんに相談だね。どうかな?」
「全然だいじょーぶ。じゃあマウストゥーマウスでよろしくね」
「だからマンツーマンだっつってんだろ」
大星と美空の家で勉強会か。確かに美空ルートでもあったなそのイベント、少し時期が早い気もするが。
……じゃあ、あの妹達にも会えるということか。ぶっちゃけ会長と同じぐらい会いたくないけど。でもメチャクチャ可愛いんだろうなぁ、多分原作通り俺はあの子達に好かれてないんだろうなぁ……。
「ちなみに皆って夏休みの予定ある?」
「私とスピカは旧暦の方の七夕祭に行くのと、日帰り旅行ぐらい」
「ちなみに僕の予定は空っぽだよ!」
「じゃあさ、今年の夏は海で遊びまくろうよ! 朧っちは置いといて」
「なんでー!?」
「お前はひたすらナンパしまくってるだけだからだろ」
そういや俺って、ていうか烏夜朧の趣味ってナンパだったな。最近忙しくてそこのロールプレイ出来てない、いやそもそも俺にはそんな度胸がない。
美空達の水着姿、しっかりとこの目に焼き付けたい……でも夏休み期間中はもう第二部が始まっている時期なんだ。俺はそっちの対応に追われてる可能性がある。
「私、あまり泳ぐのは得意じゃないのですが……」
「スピカも私と一緒に砂のお城作ればいいよ。もしくは大星を埋めよう」
「なんか穏やかじゃない遊びが聞こえたんだが?」
海なんて久しぶりだなぁ。いや、烏夜朧は去年も大星達と一緒に海で遊んでいたようだが。
その時はスピカとムギはいなくて、大星、美空、朧、レギー先輩……そして、乙女がいたんだ。
乙女がいなくなってから、かれこれ一週間が経つ。最初は全員が動揺して心なしか雰囲気もぎこちなかったが、今では乙女がいない日常に慣れてきていた。
……俺はやっぱり、乙女がいる日常の方が良いと今も思っているが。
「あ、大星。その卵焼き、美味しそうだね」
「いや、お前が作ったんだろ」
「美味しそうだね」
大星が手に持っている弁当、それは美空が丹精込めて作った愛妻弁当なのだが……その中に入っている卵焼きを美空がジーッと物欲しそうな表情で見つめている。どうやら自分の分では量が足りなかったようだ。
それに観念したのか、大星は諦めたようにため息をついた。
「わかったよ、ほら勝手に取っていけ」
しかし美空は箸を伸ばさずに、大星に向けて大きく口を開く。
「あーん」
どうやら美空は直接口に入れてくれとご所望のようだ。
「……わかったよ、ほら」
大星は自分の弁当に入っていた卵焼きを掴み、それを美空の口へと入れた。すると美空は満足そうに咀嚼した後、嬉しそうに言う。
「ふふっ、美味し~」
「そりゃ自分で作っただからだろ」
そんな大星と美空のイチャイチャぶりを目の前で見せつけられていたスピカが、右隣から俺の肩をトントンと叩いて言う。
「烏夜さん烏夜さんっ」
あのスピカでさえ怪訝そうな顔で大星と美空を見ていた。
「……あのお二方、上手くいっているみたいですね」
少しギクシャクしていた大星と美空の二人は展望台でのイベントが上手くいったのか、以前よりもそのイチャイチャっぷりに拍車がかかっている。スピカもそれに協力してくれたわけだが、こうも見せつけられると見ているこっちが恥ずかしいぐらいだ。
そして左隣に座るムギが俺の肩をチョンチョンと叩く。
「爆発すればいいのに」
いや、わざわざ俺に言わんでも。ってかさっき俺は爆発事故に巻き込まれかけてるから冗談でもやめてくれ。
「こうなったら私達も見せつけるしかないね……スピカ、こっち向いて」
「へ?」
ムギは弁当を持ってスピカの隣まで移動する。
「ほら、あーん」
ムギはタコさんウインナーを箸でつまむと、それをスピカの方に向けた。
「あ、あーん?」
スピカが戸惑いつつも口を開けると、ムギはスピカの口の中にタコさんウインナーを入れる。
「どう、美味しい?」
「え、えーっと、美味しい、かも?」
やりきったと言わんばかりに満足そうな笑顔のムギに対し、スピカは未だに困惑しているようだ。いや、そこの姉妹で百合百合しくするのやめろ。見てて微笑ましいけど。
畜生、レギー先輩がいれば俺もこの流れに乗じて先輩にあーんってしてあげたのに! ってか何でムギは俺じゃなくてスピカにあーんしたんだよ!
『おい朧、黙って口開けろ』
『ぶつくさ言うな。おらっ』
……ハッ!? 俺って何回もレギー先輩にあーんってしてもらえてたじゃん! 口に突っ込まれたのはニンジンとかトマトまるごとだったけど!
それでもあまり感動しなかったのはどうしてだろう……いや、やっぱり野菜まるごと突っ込まれても嬉しくはないな、うん。
乙女がいなくなって一週間が経っていたということに、俺は改めて驚かされた。あっという間に一週間が経っていたという時の流れの早さに驚きもあるが、やけに濃密な一週間だったなとも思う。
それもこれも、この一週間の間に、いや特に土日の二日間にレギー先輩関連のイベントが凝縮されていたからだ。本来は一ヶ月ぐらいかけるイベントが半分ぐらい短縮されている。
「レギー先輩の次のイベントが起きるの、多分結構先だよな」
レギー先輩ルートの次のイベントが起きるまで後一、二週間ぐらいの余裕があるはずだ。主に来月に控える舞台の準備に関するトラブルばかりなのだが、そっちは大星達にも協力してもらえばそこまで難しくはない。
一番の難関はやはり昨日の夜と、そして今朝のイベントだった。それを何とか無事に終えることが出来ただけで気が楽になる。
「でも、スピカとムギのイベントも起きる気がするんだよなぁ……」
そんな風にネブスペ2の攻略について考えながら俺は帰宅した。本当は少しでも空き時間が出来たら乙女の行方の手がかりを調査したいのだが、今月の末には期末考査が待っている。学年トップの成績を誇る烏夜朧でも、流石にノー勉ではその地位が危ういだろう。
そのため俺は自分の部屋で早速テスト勉強を始めようとしたのだが、ベッドの上に置かれた自分の体操着の上着とジャージが目に入った。
「これは……」
それは、昨日の雨で服が濡れてしまったレギー先輩に貸していたものだ。ちゃんと綺麗に折り畳まれて俺のベッドの上に置かれていた。そのベッドは、昨日レギー先輩と一緒に寝ていた場所……ゴクリ。
……ハッ!? いかんいかん、なんだか体操着とベッドを見ているだけでイケナイ気持ちになってきた。ダメだダメだ、俺はレギー先輩とそういう関係じゃないのにそんな想像をしてはいけないだろう。
でも前世で俺は画面越しに何度もレギー先輩を夜を越したのに……いや画面越しに夜を越したってなんだよ。
ダメだダメだ、こんな煩悩はテスト勉強に必要ない。あんなものを目に入れているから悪いんだ。
俺は邪悪な煩悩を消し去らうために、机に向かって勉強を始めていた。
──二時間ぐらいが経っただろうか。勉強に集中できていたからか意外と時間が経っていて、そろそろ夕食でも用意するかと思って椅子から立ち上がった時、再びそれが俺の目に入った。
ゴクリ。
あれがレギー先輩が着ていた体操着……。
ゴクリ。
レギー先輩の香りが残っているだろうか……。
すると突然、机の上に置いていた俺の携帯から着信音が鳴り響いた!
「ぬおわああああああああああっ!?」
びっくりして慌てて携帯の画面を見ると、なんとレギー先輩からだった。
なんだ、今の俺の光景を見られていたのか!? 俺は心臓をバクバクさせながら電話に出る。
『よぉ、今時間あるか?』
「はい、ぜぜぜ全然だいじょっびばですよ!」
『ほ、本当に大丈夫なのか?』
盛大に噛んでしまった。今、俺の頭の中はレギー先輩で一杯でメチャクチャムラムラしてましたなんて言えるわけがない。
「もう今日の舞台は終わったんですか?」
『あぁ。それでなんだが、今から月見山の展望台に来れないか?』
「はい、大丈夫ですよ。今から向かいます」
『ありがとな。じゃあ待ってるよ』
あぁ~焦った。レギー先輩との電話を終えて俺はふぅと一息ついた。
そして俺はレギー先輩からの呼び出しに心踊らせながら支度すると同時に、ふと疑問に思った。
レギー先輩ルートでこんなイベントあったっけ? 劇場での事件、そして中学での爆発のイベントが終わったら、次のレギー先輩脚本の舞台があるまではそれに関するトラブルを解決するために奔走することになるはずだ。
それこそ月見山の展望台で起きるレギー先輩とのイベントなんて、七夕のラストシーンぐらい……って、あれ?
もしかして俺、レギー先輩に告白される?
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