レギー先輩編⑬ ラスボス、エレオノラ・シャルロワ



 その後も月見山に逃げてしまったネブラタコやネブラマイマイを俺達は次々に捕獲する。

 まずスピカとムギが猫なで声で彼らに囁く。すると宇宙生物達が喜んでスピカとムギにじゃれつきに来る。その後で俺が好物を与えて餌付けすることで捕まえる、という流れを何度も繰り返した。


 「はぁっ、はぁんっ……」

 「ぜぇ、ぜぇ……」


 んで、スピカとムギは犠牲になった。だってあんなわかりやすいフラグ建てちゃうんだもの。俺だって二の舞いを演じたくはないから二人を守ろうとしたんだけど、宇宙生物の防御力がエグいから、まずはスピカとムギがおびき寄せてくれないと手も足も出ないのだ。

 むしろこの数時間、よく耐えたよ俺。もう途中から感情失ってたもん。エロゲRPGやってて無心でエロイベントスキップしてレベリングしてる時の気分だったよ。


 「お疲れ様、二人共。だ、大丈夫かい?」

 「はい、問題ありません。やっぱり皆優しい子ばかりでしたね」


 よく言えるねそんなこと。


 「フフ……私は負けなかったよ……」


 鏡見て言ってくれ。

 その後、ようやく落ち着いた二人は望さんからお駄賃|(プラネタリムのチケット)を貰って帰っていった。絶対割に合ってないと思うけど。

 しかし俺は望さんから、月見山の頂上にある天文台に資料を届けるという雑用を押し付けられ、もう何往復目かわからないが再び月見山を登っていた。



 「あぁ~疲れた」


 朝からもうずっと歩きっぱなしだ。良いものも見れたが、今日はスピカとムギにうつつを抜かしているわけにもいかないのだ。


 夕方の六時からはレギー先輩主演の舞台がある。その時に起きるイベントでレギー先輩のトラウマが蘇り……先輩が一時的に廃人同然の状態になってしまう。

 防ぐことが出来るなら防ぎたいイベントだが、ぶっちゃけ回避する方法が思い浮かばない。無理矢理俺が止めることも出来るが、それだとせっかくの舞台自体が台無しになりかねないため、今も必死になって対処法を考えているところだ。


 そんなことを考えながら月見山の登山道を下っていると展望台に差し掛かった。昼間でも展望台から望む太平洋は凄い景色で、地元の人や観光客がちらほらといる時もあるが……やけに静かな展望台で、海を眺める人影が二人。


 「──オレには難しい話だな。まるでおとぎ話みたいだ」


 一方は俺もよく知っているレギー先輩だ。先に劇場に行ったのかと思っていたが戻ってきていたのか。


 「確かにオレは映画とかドラマとかよく見るけど、そういうのはあくまでフィクションだろ。それがいざ目の前で起きても簡単に信じられるか?」

 「でも事実は小説より奇なりとも言うわ」

 「それもあるかもしれないけどさ……」


 そしてレギー先輩の隣に立っている、雪のように真っ白に輝く銀髪の女性。黒いリボンが付いた白いブラウスに黒のサスペンダースカートを着て、サイドの髪には黒薔薇の髪飾りを付けている。これは俗に言うロリィタファッション、いや作中だとクラロリって表現されてたか。


 「大丈夫。必ず何か方法があるわ」


 彼女の名前はエレオノラ・シャルロワ。愛称はローラ。レギー先輩の同級生、つまり俺達の先輩であり、そして月ノ宮学園の生徒会長である。彼女もネブラ人の子孫だ。

 会長は第三部の明星一番編のメインヒロインで、ネブスペ2で一番人気があると言っても過言ではない。俺もヒロインの中から誰か一人を選べと言われたら会長を選ぶだろう。

 すごく絵になる二人だなぁと思いつつ近づいていくと、先にレギー先輩が俺の存在に気づいた。


 「あれ、朧?」

 「あ、どうもレギー先輩……それにシャルロワ会長」


 俺はレギー先輩に挨拶すると、その隣に立つ会長に恐る恐る会釈した。


 「あら、知り合いなの?」


 この人が俺、烏夜朧を知っているわけがない。成績は常にトップ、運動神経も抜群で月ノ宮学園の様々な記録にトップとして名前を残している。流石は大企業の社長令嬢なだけはある完璧超人だ。


 「あぁ、こいつは中学からの後輩なんだ」

 「烏夜朧です。いつもレギー先輩がご迷惑をおかけしています」

 「身内みたいに言うんじゃない」


 俺が軽く冗談を言うと、レギー先輩は俺の頭に軽くチョップを入れてツッコんだ。


 「仲が良いのね」


 そう言って会長はフフフと上品な笑いを浮かべていた。

 すげぇ……本物のエレオノラ・シャルロワだ。なんだか美空やレギー先輩達に出会えた時よりも感動している自分がいる。第三部が始まるのは十一月からだから会長はまだストーリーに関わってこないが、作中でも第一部から登場はしている。

 高貴過ぎて最早近寄りがたい、まさに高嶺の花のような存在……。


 「……烏夜朧君?」


 会長が俺の名前を呼んで、俺のことをジッと見つめてきた。な、なんだ?


 「何をそんなに怯えているの?」


 ……。

 ……いや、そりゃ俺だってアンタのことは怖いよ。

 だって貴方、ネブスペ2のラスボスって呼ばれてるんですよ。このゲームに戦闘要素なんて無いはずなのにおかしいでしょ、その二つ名。

 

 エレオノラ・シャルロワというキャラはネブスペ2のヒロインの中で一番多くの種類のバッドエンドを与えられ、しかもグッドエンド到達には周回が絶対必要という初見殺しの存在だが、それでもエレオノラ・シャルロワというキャラがネブスペ2の中で一番人気があるのは、そのグッドエンドに到達した時の多幸感からだろう。


 「やめてやれよローラ。こんなお調子者でさえへっぴり腰になるぐらいにはお前のオーラが強すぎるんだ」

 

 いやレギー先輩、アンタも大概結構なオーラを放ってますからね?


 「それは失礼。もしまた機会があれば学校で会いましょう、烏夜朧君」


 そう言って会長はニコッと微笑んだ。

 ……すげぇ。心臓止まりそうになった。なんだろう、この心に生まれた感情は……ハッ! もしかしてこれが恋……!?

 いや、そんなこと言ってる場合か。


 「あの、シャルロワ会長は今日のレギー先輩の舞台を見に行かれるんですか?」


 レギー先輩の親友である会長なら今日の舞台のことも知っているはずだ。しかし作中でレギー先輩の舞台を会長が見に来たという描写はない。

 そして俺の想像通り会長は首を横に振った。


 「ごめんなさい。見に行きたいのは山々なんだけど、今日の夜は予定があるの。確か来月にも舞台があるんでしょ?」

 「あぁ、そうなんだ。まぁローラは忙しいからな。あ、星河祭の演劇は絶対に見てくれよ?」

 「えぇ、勿論」


 星河祭というのは月ノ宮学園の学園祭のことだ。第二部の終わりであり、会長が登場する第三部の始まりでもあり……その始まりは衝撃的だ。

 しかし、やっぱり会長は見に来てくれないか。作中でもそうだったから断られるだろうとは思っていたが、もし来てくれるのならレギー先輩の嫌なイベントを回避できる可能性があったかもしれない。

 流石に本人に向かってそのイベントについては話せないからな……。


 

 その後、俺は展望台にいたレギー先輩と会長に別れを告げて月研にいる望さんに仕事を終えたことを報告した後に帰宅した。

 今日の予定はあとレギー先輩の舞台を見に行くだけ……なのだが、俺は今夜起きるはずのイベントへの対処法を考えていた。

 何とかして俺はレギー先輩が傷つく未来を回避したかったが、中々その方法を見つけ出すことが出来ずにいた。


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