レギー先輩編⑫ 負けフラグ姉妹と唾液



 「えいっ」

 「ぴゃああっ!?」


 登山道を登る途中、ムギが隣を歩くスピカの脇腹を突くと、アストルギーによって体の感度が良くなってしまったスピカがあられもない声を出す。スピカはムーッとムギの方を見るが、ムギはニヤニヤしているだけだ。


 「とりゃっ」

 「ひゃああああっ!?」


 ムギのいたずらは続く。今度は背後からムギがスピカの背中を指でなぞっただけなのだが、スピカの体は耐えられなくなってきている。


 「ふぅっ」

 「ひゃあんっ!?」


 そして最後はムギがスピカの耳に息を吹きかけた。スピカも我慢の限界のようで、ムギをポカポカと可愛らしく小突いていた。


 「もうっ、もうっ!」

 「やーいやーい」


 まったく、仲睦まじい姉妹だなぁ。

 いや、そんな現実逃避をしている場合じゃない。アストラシーショックを起こしたスピカをどうすればいいんだよ。レギー先輩はなんやかんやあって治ったけど、スピカの興奮が収まるのを待つしかないか? すぐ側でそんなエロい声を出されてたら俺も中々に辛いんだけど?


 俺達は再び宇宙生物の捜索を始めたが、やはり何のアテもなしに登山道を歩いているだけではただ時間を浪費するだけだ。こうなると、やはりあの手しかないか。


 「ねぇ、二人共……あの木、とても立派なモノをお持ちに見えませんか?」

 「スピカ……何言ってるの?」


 発情してるスピカが何の変哲もない木に欲情を始めてしまったところで、俺は二人に提案する。


 「スピカちゃん、ムギちゃん。やっぱりこうやって歩いてるだけじゃ見つかりにくいと思うんだ。だから、さっきみたいに呼びかけてみるのはどうかな?」


 さっきはネブラスライムがスピカの囁きに寄ってきたんだと思う。あと、多分宇宙生物ってネブスペ2のヒロインが大好きだから呼べば来てくれるんじゃないかな。


 「じゃあ、さっきは私がやったからムギが呼んでよ」

 「いや、私じゃ無理だって」

 「烏夜さんにあの事バラしちゃうよ?」

 「うぐぐ……」


 何その秘密。メチャクチャ知りたいんだけど。

 しかしスピカに脅迫されたムギは仕方なく宇宙生物に対して呼びかけた。


 「ね……ネブラアゲハ~こっちだぞ~」


 スピカと同じく慣れないことをやって照れくさくなったムギは、プイッと俺達の方から顔を背けてしまった。


 「ぐはっ」

 「うぐっ」


 そのムギの可愛らしさに俺とスピカが大ダメージを負っていると、木々の間から何かが現れる。


 「アゲェェェェ!」


 すると森の中からカラフルで美しい紋様の羽を持つ巨大な蝶々、ネブラアゲハが現れた。


 「ね、ネブラアゲハ!?」

 「アゲ~アゲ~♪」


 説明しよう! ネブラアゲハとはアイオーン星系に生息する巨大なアゲハ蝶で、羽を広げると横幅が二メートルもあるのだ。普段は花や木の蜜を吸っているが、優しそうな人間を見かけると羽から興奮作用のある鱗粉を放って相手を興奮させて、相手が発した分泌物を摂取する習性を持っている!


 「ヤバい、もしかしたらムギちゃんの囁きに引き寄せられたのかもしれない!」

 「ムギ! ネブラアゲハの正面にいると鱗粉が──」


 もう遅かった。ネブラアゲハが羽をバサバサとはためかせると同時に、いかにも淫らっぽいピンク色の鱗粉がムギに向かって放たれる。


 「んうっ……!」


 ネブラアゲハの鱗粉は例え目や鼻や口を覆っても、肌に触れただけで相手を興奮させてしまう。ムギは長袖のジャージを着ているが、とはいえ手や顔に鱗粉が直撃してしまった。


 「な、なにこれ……体が、熱い……!」

 

 まぁ興奮作用ってのは平たく言えば、ご都合主義的な発情って意味で。今すぐ何かしらの行為で発散したくてたまらない衝動に駆られるのだ。

 俺この場にいて大丈夫かな。


 「む、ムギ、大丈夫?」

 

 今なおコーヒーによるアストラシーが残っているスピカは、ムギを心配して彼女の肩に触れた。

 だがダメだ。今、ムギの体はかなり敏感になっている。


 「やぁっ、だめぇっ……!」


 ムギの体がビクゥンッと激しく震えると、フラフラと地面にペタンと座り込んでしまった。


 「む、ムギー!?」


 危ない危ない。今、自分の意識を太陽系の外まで飛ばしていなかったら自分の中に眠る魔獣が本性を現していたかもしれない。まだ心を無にしないとおかしくなりそうだったから、このままボイジャー2号を追って宇宙を彷徨うか。


 「烏夜さん! 早くネブラアゲハの好物を!」

 「あ、そうだったごめんごめん」


 目の前で起きている出来事から目を背けるあまり、ネブラアゲハを捕獲するという目的をすっかり忘れてしまっていた。

 確かネブラアゲハの好物はスープカレーだったな。俺は鞄の中からスープジャーを取り出すと蓋を開けて、ネブラアゲハへと差し出す。


 「ほら、ネブラアゲハ。君の大好きなスープカレーだぞー」

 「アゲー?」


 ネブラアゲハは俺の元へ近づいてくると、ストロー状の長い口をスープジャーの中に突っ込んだ。


 「アゲ~♪」


 どうやらお気に召したようだ。ってかこのサイズのチョウチョ怖い。


 「ネブラアゲハ。勝手に研究所から出ちゃダメだよ?」

 「アゲー?」

 「ほら、望さん達が待ってるから戻らないと」

 「アゲ!」

 「よし、良い子だ」


 なんかこの流れさっきもやったな。なんとかネブラアゲハを手懐けた俺達は、再び研究所の方へと戻る。


 「アゲ……」


 俺の頭に止まるネブラアゲハが、なんだか名残惜しそうな鳴き声を上げながらムギの方を見ている。


 「はぁ……はぁっ……なんだかちょっと風が吹いただけで快感が……」

 「もう体全体が性感帯みたい……」


 エロゲの被害者ここに二人。その場に居合わせている俺も中々に気まずいが、なんだかとても良いものを見れた気分だ。いやダメだ、何か思い出すだけでムラムラしてきてしまうから今すぐトイレに行きたい。


 「アゲー」

 「ん? どうかしたか?」

 「アゲー!」


 ネブラアゲハがムギの方を向いて鳴いている。


 「もしかして……ムギの汗を吸いたいんじゃないですか?」


 何言ってるのスピカ。

 いやそうか。ネブラアゲハは気に入った相手を鱗粉で興奮させた後、相手が発した分泌物を摂取する習性があるのか。つまり……今、興奮しているムギが分泌した体液を欲しているのだ。


 「し、仕方ない……」

 

 そう言ってムギはジャージの上着のファスナーを少し下げる。わずかに見えるムギの鎖骨の周辺には汗が光っていた。

 いやムギ、仕方ないことはないと思うぞ?


 「アゲ~♪」


 すると俺の頭から飛び立ったネブラアゲハはムギの目の前でフワフワと飛ぶと、そのストロー状の口をムギの首元に当てた。


 「ひゃあっ……あんっ……」


 何このプレイ。俺は一体何を見させられてるんだ?

 俺は前世で色んなエロゲを遊んできたけど、流石に美少女の汗を舐めてみたいとかは思ったこと無いぞ。

 いや、興味はあるけど。


 「……唾液とかあげたら喜ぶんじゃない?」


 何言ってるのスピカさん?


 「確かに」


 何言っているのムギさん?

 ダメだ、スピカもムギも完全に正常な思考が出来てない。いや、最早俺がおかしくなってるのか?

 ムギは両手で器を作ると、自分の口から出した唾液を貯めてネブラアゲハに差し出した。


 「アゲアゲ~」


 するとネブラアゲハは嬉しそうにチュルチュルとムギの唾液を飲み始める。

 何この濃厚なプレイ。

 相手の唾液を飲むって何事? しかもわざわざ一旦口から出して? 体外ディープキスってこと?

 

 「アゲポヨ~」


 いやそんな鳴き方もあるんかい。


 その後登山道の入口まで戻ると、近くを通りがかった月研の職員にネブラアゲハを預けた。

 しかしまだこの月見山には多くの宇宙生物が残っている。俺はエロゲの犠牲になってしまったヒロイン二人と一緒に行動して、このお預け感を味わい続けなければならないのか……何の修行だよこれは。

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