レギー先輩編⑦ 親友としての気遣い
本来美空ルートでは、今日の昼間に朧と美空がぶつかってその時に美空はアストラシーを起こすのだが、何故か俺はレギー先輩とぶつかってしまい、ネブラスパイスの匂いを嗅いだ先輩がアストラシーを起こしてしまった。
しかし今、本来作中でスピカが持ってこなかったはずのこのネブラ鶏の卵を使ったスープによって美空は結果的にアストラシーを起こしている。
やっぱり何か大いなる力みたいなのが働いていて、この世界は収束していくのか? いやそんな厨二病みたいなことを考察するより、まず今をどうするかだな。
「ね、ねぇ大星。このペリカン星雲、なんだかエッチじゃない?」
「……お前、何を言ってるんだ?」
あ、このセリフは確かに美空ルートで言ってた。普段あまりそういうことを言わない美空が急におかしくなり始めるのだ。
「なんかさ、この形……何かに似てるなぁって」
いやペリカン星雲って言ってるんだからペリカンに決まってるだろ。
「いえ、わかりますよ美空さん」
ここでまさかのスピカが参戦。心なしかいつもよりテンションが高く見える。
「先程の北アメリカ星雲と並べて見てください。この二つの星雲……まるで初夜を迎える男女のように見えませんか?」
……。
……?
……??
「成程。美空はメキシコの部分を大星の大星だと思ってムラムラしてるんだ」
????
「ち、違うよ! 別に大星のだとは思ってないもん!」
「じゃあ男性器には見えていたと」
「違うもん……」
うん。なんとなく美空達が言っていることがわかったような気がする。わかりたくないけど。もう突起物と穴のセットを見かけただけで興奮する男子中学生みたいじゃん。
いや、この二つの星雲を見てそれを想像するって、どんだけ欲求不満なの君ら。解釈の捻じ曲がり方にも程があるだろ。北アメリカに住む数億人もの人々と世界中のペリカンに謝ってこい。
「なんて低俗な話をしているんだ……ねぇ、レギー先輩?」
俺がレギー先輩の方を見ると、先輩はキャンプ椅子に座って腕を組んだまま、顔を真っ赤にして頭からは熱気のあまり湯気が出ているように見えた。
「あ、あうぅ……」
あ、そうだ。先輩も昼間にアストラシーを起こしてたから興奮が少し残ってるのか。可愛いんだけどこの状況どうすんの。
「ねぇ大星。大星にはこれが美空の[ピーー]に見える?」
「ど直球やめろ。全部伏せ字になるぞ」
「これが断面図だとすると……大星のって太いんだね」
断面図とか言うな。
何か急に話の流れがエロゲっぽくなってきたな。こんなぶっ飛んだ会話ばかり進んでいるが、確かに作中の美空ルート通りなんだよな、これ。でも日々真面目に研究している天文学者達に土下座してほしいとは思う。
「あれ? なんかイヤらしい空気になってるけど何があったの?」
あ、日々真面目に研究していない天文学者……ゲフンゲフン、望さんが展望台へとやって来た。
「望さん。実はかくかくしかじかで……」
「四角いム◯ヴってことね。わかるわ。私も大星君のでっか……って思ったもん」
「とりあえず俺のものとして想像するのやめろ」
こんなに女性陣の下ネタが強すぎると俺達逆に困っちゃうんだが? 大星ももう疲れてきてるし。
俺はどうにかこの空気を変えようと望さんに問いかける。
「それより望さん、どうしてここに?」
「あぁ、実はアンタ達のために飲み物用意してたんだけどさ、さっき美空ちゃんに渡すの忘れてて。朧、研究所の食堂まで取りに来てよ」
「……望さんが持ってくればよかったんじゃないんですか?」
「いや、だって重いじゃん」
アンタはそれを美空に運ばせようとしてたんじゃないのか? いやでも確かに美空ってスポーツ万能で野郎一人を吹っ飛ばせるぐらい力持ちって設定あるし平気か。
「じゃあ朧、オレも手伝うよ。一人じゃ大変だろ?」
スクッと立ち上がった先輩がニカッと俺に笑う。アンタ神か。
「ねぇムギ……一緒にお手洗い行かない?」
「暗いからお化けが出そうで怖いなら素直にそう言えばいいのに」
「そ、そうじゃないから!」
俺とレギー先輩は月研の食堂へ飲み物を取りに、そしてスピカとムギは展望台から少し離れたところにある月研の施設のトイレへと向かう。大星と発情した美空を展望台に二人きりにして……。
「うまくいったな」
展望台から月研に向かって登山道を下りている途中、レギー先輩が言う。
「なんか美空ちゃん興奮してたけど何かあったん?」
「実はかくかくしかじかで……」
「はぁん、あの子ってネブラ鶏の卵ダメなのね。あんなに美味しいのに可哀想」
昼間は半ば望さんのせいでレギー先輩が犠牲になっていたけどな。宇宙生物にしろ宇宙食物にしろ、この世界ってトラップ多すぎるだろ。
「だが本当に上手くいくと思うか? このままだと、なんだか美空がただ大星を襲うだけだと思うんだが……」
「大丈夫ですよ。あの二人に必要なのはただ一つ……きっかけです。あとはあの二人に任せましょう」
そう、ここまで全てこの俺が仕組んだことなのだ! いや、ここに来て美空のアストラシーは想定外だったけども。
ここ最近の大星と美空の仲が険悪とまではいかないものの、ぎこちなさそうに見えていたのは俺だけではなく、スピカとムギ、レギー先輩もそう感じていたらしい。どうにかして二人の仲が元通り、いやこの中途半端な関係から正式に交際まで進展するように仕向けようと、俺はスピカとムギ、レギー先輩、さらには望さんと事前に打ち合わせをして展望台で二人きりになるよう仕向けたのだ。
こんな綺麗な星空の下なんだ、きっとロマンチックな雰囲気に違いない。問題なのは大星自身はこの空を見てもあまり感動していないってことだろうが。
「あの二人がまだ付き合っていないってのが未だに不思議だったのよねー。でもお互いに不器用ってのはわかるわ」
「美空も結構奥手だからな~まぁ大星からの告られ待ちだったし」
美空が都合よくアストラシーになったということは、やはりこの世界はそういう風に進んでいくのだろうか。
じゃあ何故昼間、俺は美空とではなくレギー先輩とぶつかり、先輩がアストラシーを起こしてしまったのか……やっぱり烏夜朧に転生した俺という存在が何か引き起こしているのか? でも何か俺とレギー先輩の関係が進展したっていう風には思えないから、とにかく謎が深まるばかりだ。
月研まで辿り着くと、食堂の冷蔵庫に月ノ宮の天然水と月ノ宮特産の果物を使ったフルーツジュースが入ったペットボトルが入っていた。俺はそれを鞄に入れて背中に背負い、レギー先輩は追加の紙コップやゴミ袋などの備品を持って、望さんを研究所に残して展望台へと戻る。
「なぁ、朧、少しゆっくり歩かないか?」
「そうですね。きっとスピカちゃん達も長い用を足していると思いますし……」
そんな下世話なことを言う俺の頭にレギー先輩は軽くチョップを入れる。
きっと、今頃大星と美空は展望台で良い雰囲気になっているはずだ。作中の美空ルートでは、ここで美空が改めて大星に告白するのだ。作中の展開通りに進めば大星は告白を受け入れて、そして今夜──二人はとうとう行為に至る! さぁ盛り上がってきたぜ!
とまぁ俺はそんなことでテンションを上げていられるほど呑気ではいられない。大星が美空とバッドエンドを迎えるともれなく俺が死んでしまうからだ。
上手くいってくれと俺が願っていると、隣をゆっくりと歩くレギー先輩が口を開く。
「朧……お前は、これで良かったのか?」
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