レギュラス・デネボラ



 「あれ? 大星に美空に……あ、朧!」

 「なんで僕のことを思い出すのに時間がかかってるのぉ!?」


 書店前にいた僕達に声をかけてきたのは、先輩のレギュラス・デネボラ、通称レギー先輩だ。

 黒シャツにワイドパンツというファッションで、黒髪ショートに金のメッシュを入れたボーイッシュな雰囲気の、モデルみたいにスマートなスタイルの先輩だ。僕達と同じ月ノ宮学園に通う一つ上の三年生。そしてオレっ娘(これ重要)。

 レギー先輩は数十年前に地球に飛来してきた宇宙人、ネブラ人の子孫だ。


 「レギー先輩じゃないですか、奇遇ですね。これからお稽古ですか?」

 「ううん、今日は暇潰しに映画でもレンタルしようかなーって思ってたとこだなー」

 

 宇宙人と言っても容姿は地球人と殆ど変わらず、特徴は瞳の色が生まれつきカラフルなことぐらいだ。ちなみに先輩の目は青い、碧眼というやつか。


 「あ、レギー先輩。だったら今、私おすすめの恋愛ものが映画館でやってるんですけど」

 「『広島の中心で、鯉と叫ぶ』か? ごめんよ美空、もうオレ見ちゃったんだよなー」

 「どうでしたどうでした? 最後めっちゃ良くなかったですか!?」

 「そうだな……最後に波打ち際を駆けてゆく二人を背景にエンディングテーマが流れてきた時は、オレも自然と涙を流していたよ……」


 レギー先輩は月ノ宮学園の演劇部の部長であり、そして地元の劇団に所属していて日々演技を磨いている女優の卵。モデルとしてたまに雑誌に載っていることもあるため、美空のようにファンクラブがあるわけではないが他校にもその名が知れ渡っている有名人でもある。


 「それじゃあレギー先輩。映画マイスターである僕からもおすすめの映画があるんですけどね……」


 僕もおすすめ映画をレギー先輩に布教しようとしたけど、先輩はすぐに僕を睨んできて口を開いた。


 「いや、朧。お前のはいい」

 「どうして!?」

 「お前が前にオレに勧めてきたの、とんでもなくドロッドロの略奪ものだったじゃねぇか!? お前どんな趣味してんだよ!」

 「『籠絡男女~未亡人団地妻の誘惑~』ですか?」

 「そ、それって……もうタイトルからしてバリバリの官能ものじゃん……」


 流石にA◯はおすすめしないけれども、タイトルは別として内容は至って真面目だ。濡れ場もそこまで多いわけではなく、僕が純粋に好きな映画なんだけどなぁ。

 

 「面白くなかったんですか?」

 「いや面白かったよ! でもこれを他人に勧めるのはどうかと思うぞ!?」


 レギー先輩の趣味は映画鑑賞だ。ゆくゆくは女優を目指しており、なおかつ演劇部では脚本や演技指導も担当しているからか、色んな映画やミュージカルを見て研鑽しているのだ。

 先輩は研究目的で色んなジャンルの映画を見るが、先輩自身は恋愛映画を好んで見る。しかしあまりドロドロしたものはNGか。


 「昨日、体育祭が終わってゆっくり映画を見ようと思ったらそれだったんだ……口直しに気分を晴らしたいんだが、何か良い気分転換はないか?」

 「じゃあ僕とデートしましょうよ!」

 「よし。じゃあ美空、せっかくだし最近商店街にオープンしたブティックに行こう」

 「やったー!」

 「僕のことは無視ですか?」

 「大星、お前は荷物持ちな」

 「了解でーす」

 「……あれ、僕は?」


 僕の提案はレギー先輩にガン無視されたが、僕達は先輩に連れられて駅前商店街にある小さなブティックへと入った。シックな雰囲気の店内には、少し大人びた雰囲気のトップスやパンツが並んでおり、いかにも先輩好みのお店という感じだ。


 「なぁ美空……こういうのどうだ?」

 「わ、私に似合います?」

 「あぁ、これで大星もイチコロよ」


 先輩は美空ちゃんを着せ替え人形のようにして楽しみながら様々なコーデを試していく。先輩にとっては楽しくてしょうがないのかもしれないが、なんだか美空ちゃんの服を選んでいる時の目がやけにギラギラしていてとても怖い。


 「ちょっと大人な雰囲気の美空ちゃんも良いと思わないかい、大星」

 「あいつには無理だろ」

 「いやいや、大星。君は大きな勘違いをしている。確かに君と美空ちゃんは幼馴染同士、小さい頃からずーっと、当たり前のように一緒にいた。でも君が気づかない間に美空ちゃんは大人の階段を登っていて、ふとしたことをきっかけに君は急に美空ちゃんを意識するようになるんだよ!」

 「未だに平気で家の中を下着姿でうろついてる奴に言えるか?」

 「うーん。羨ましくてしょうがないけど、やっぱりズボラで大雑把なのが美空ちゃんらしいね」


 大星と美空ちゃんは訳あってひとつ屋根の下で生活している。大星からの話を聞いている限り、彼は美空ちゃんのあんなところやこんなところを隅々まで見ているはずだ(主に不可抗力で)。休日だって二人でよく出かけているし、どうして未だに正式に交際していないのか不思議なくらいだけど、大星はまだ美空ちゃんを異性として認識できていないのかもしれない。

 なんともうらやま……じゃないじゃない。なんとも妬ましい奴だが、事情が事情なだけにしょうがない。


 「大星、これはどうだ?」

 「ど、どうかな……?」


 レギー先輩が試着室のカーテンを開くと、白のシャツワンピース姿の美空ちゃんが現れた。

 この時期の美空ちゃんは大体Tシャツにショートパンツというスタイルだから、中々見ることのないコーデだ。レギー先輩らしいコーデだが……まだ子どもっぽい雰囲気の美空ちゃんだと服に着せられている感じが否めない。


 「美空にはまだ早いな」

 「んなバカなー!?」


 その後もレギー先輩は様々なコーデの美空ちゃんを大星に披露したが、全て「美空にはまだ早い」という大星の一言で却下され、結局先輩が自分の服を買っただけでブティックを後にした。

 お昼時だったためファミレスで昼食を済ませて、そろそろお開き──というところで、僕達は思わぬ二人と遭遇した。


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