第2話 彼女のクローゼットは異次元
彼女のクローゼットは、コスプレ衣装で溢れ返っている。戦闘服、スーツ、制服、白衣、着物……。全てアニメやゲームに登場する衣装だ。よくもまあ、ここまで集めたものだと感心してしまう。
コスプレ衣装を洗濯するときの彼女は、なんだか楽しそう。洗い立てのシャツをハンガーにかけながら、
「なんだか推しと同棲しているみたいでドキドキするなぁ」
なんて。
おいおい、それはちょっと聞き捨てならないぜ。推し以前にリアル彼氏と同棲しているんだから、こっちにもドキドキしてくれたっていいじゃないか。
……なんて、口が裂けても言えないけど。
ゆんのコレクションは衣装だけに留まらない。赤、青、黄色、緑、白と色とりどりのウィッグも数多く持っていた。それを定期的に引っ張りだすものだから、うちのカーペットにはいろんな色の髪の毛が散らばっていた。
それだけではない。ゆんのコレクションは、原作すらも超える。
ついこの間なんかは、男物のトレーナーとジーンズを買ってきた。最初は俺の服を買ってきてくれたのかと思ったが、どう考えてもサイズが小さい。
「どしたのこれ?」
「今度ホリちゃんの捏造私服をやろうと思ってー」
「……ちょっと何言ってるのか分からない」
詳しく話を聞くと、推しのキャラクターの私服を勝手に妄想して仲間内で併せようと企てているらしい。それはもはやコスプレなのか?
それにしても、買ってきた服が絶秒にダサい。おかしな絵柄の入った原色のトレーナーに、ダボッとしたジーンズだ。ファッションに疎い俺だって、さすがにこれは選ばない。
「センスの欠片もねえな」
「うん、それでいいの。ホリちゃんは多分私服クソダサいから」
「推しにダサい恰好させるつもり?」
「ダサいのもまた愛おしいんだぁ」
理解に苦しむ。せっかくならカッコいい服を選べばいいものを……。ゆんは服のセンスがいいから、カッコいい服を身立てることだってできるはずだ。
……とはいえ、実在しないアニメキャラの私服を選ぶよりも先にやるべきことがあると思うんだけど。
「推しの服を選ぶんだったら、俺の服も選んでよ」
うっかり拗ねたようなことを口走ってしまい焦る。すると彼女は、目を細めながら口元をきゅっと上げて、こちらに近寄ってきた。
「なに? 嫉妬? かぁわいい」
「そんなんじゃねーよ」
「いいよー。今度の日曜日は一緒にお買い物行こっか。よーたんの服選びを手伝ってあげる。そっちの方が楽しそう」
だからたんはやめろって。……けどまあ、推しに負けているわけではなさそうで安心した。
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