第26話
「何でこんなところに、装甲車がいるんだ?」消防署まで戻ってきたオレは、3台の装甲車をしげしげと眺めている。
普段だったら見たくても車内を見られる機会なんてないから、この機会を利用させてもらおうかな。
最後尾の車両の後部にある観音開きのドアを開けると、魔法にやられてギョロ目になった兵隊さんが5人いて、「うわっ!」と声をあげて驚いてしまった。外にアリーシャにボコられたのが2人いる。
何か利用できそうなものはないかと車内を見回すが、人員専用のようで目ぼしい物資は積んでいなかった。
2台目の車両には、武器が満載されていた。そこにはまさに武装天国が広がっていた!
ハンドガンにアサルトライフル。「うわっ!」グレネードランチャー付のアサルトライフルやロケットランチャーまであるぞ。
まるでハリウッド映画の世界に迷い込んだような光景に、オレの心臓は高鳴り出す。
「こ、これは……宝の山だ!」
興奮を抑えきれないオレは、夢中で武器を手に取る。その重厚感、精密な造形……まるで自分の腕の一部になったように、手に馴染んでいく。
オレは、銃が好きだ。だけど、人や動物を撃ち殺したいとは、1ミリも思わない。
銃は、俺にとって芸術作品だ。精密な機械が織りなす美しいデザイン、精密さやデザインにそぐわない聴覚を揺さぶる発砲音、そして遠い的に命中させる爽快感。
射撃は、遊びであり、スポーツであり、日本国内では実現できない趣味。ゲームセンターでは必ず射撃ゲームで遊ぶし、射撃がしたいがために海外旅行に行くほどだ。
それにしても、ここに来た兵隊さん達、こんなに武器満載して、何と戦うためにここに来たんだ?
「元自衛隊だから、歴史的に言って相手は、ゴジラか? んなわけないよな」
なんて冗談を言ってる場合ではない。外は日が傾き、茜色の光が街を染め始めた。アリーシャを長い時間一人にしておくのは心配だ。
「それじゃあ、鳥獣対策、護身用にさっさと銃を2~3丁頂いて帰りますか。」
グアムで撃ったハンドガンが、好印象だったのを思い出した。20発くらい装填できるし、護身用には十分な威力だろう。
オレは装甲車内のラックに整頓されている銃たちを見繕う。
「でも、5.7ミリのハンドガンなんて、自衛隊にはないよな」
<ありますよ>
無機質な女性の声が突如として車内に響き渡った。
驚きのあまりオレは反射的に目の前にある銃を握り、一瞬のうちにスライドを引いて装填し、身体を固くして身構える。
こんな武器の宝箱の中にいる相手なら、武装しているだろうと予想したからだ。
しかし、狭い車内を見渡すも、自分以外の姿は見当たらない。銃口を向けようにも、目の前にはただの空間しか広がっておらず、オレは混乱と焦りに駆られる。
突如として襲われた恐怖と焦燥感が、オレをじわじわと包み込んでいく。
「誰だ? どこにいる?」
オレの声は、震えていた。
その答えは、車体の奥から現れた。4本の機械アームがゆっくりと姿を現したのだ。
そして真っ赤なレーザーが、オレの心臓と股間を不気味に照準するのを黙って見ていることしかできなかった。
冷や汗が背筋を伝い、心臓が早鐘のように鼓動する。
「……なんだこれは? なんで股間まで狙うんだよ。こんなとこ、来るんじゃなかった」
恐怖と困惑で、声が震える。
機械アームの先端には、銃のようなものが取り付けられている。見たこともない形状の銃だ。
<やりますか? 100パーセントこちらが勝ちますが>
機械的な女性の声が再び響く。
「アンタ誰だ?」不審に思いながら、車内をくまなく探してみる。やはり、どこにも人影はない。
<私はこの装甲車の人工知能、フライデーです>
声の正体は、人じゃなくて車に搭載されたAIなの? 子供の頃、父親と一緒に見た海外ドラマを思い出し、オレは思わず笑みがこぼれる。
「ナイトライダーかよ・・・」と呟きながら、銃のグリップ部分を指でつまむように持ち、両手を上げて敵意がないことをアピールしながら、銃を元あった場所に戻した。
と同時に、オレを狙っていた赤色レーザーが消え、ホッと胸を撫で下ろす。
「ちょっと今、外の世界が大変なことになっちゃっててさ。護身用に銃を頂戴できればと思ったんだ…。」
車にAIが搭載されていて機械と喋っているなんて、まるでSF映画の世界だ。
「フライデーさんは、人間と普通に話せるの?」
緊張がほぐれ、オレはフライデーさんに語りかける。
<フライデーとお呼びください。ええ普通に話せます。5.7ミリ仕様の銃は今戻した銃の左側のラックにありますよ。もしよろしければ、銃を必要とする理由を教えていただけますか?>
フライデーさんの言葉に、オレは思わず感心する。まるで人間のように流暢な話し方だ。
「今ね、外を出歩ける人間がいなくなっちゃって、そのうち山から町に熊や猪が降りてくるんじゃないかと心配でさ、銃があったほうが安心できるかなと思ったんだよ」
<確かに、人間が減ると、野生動物の行動範囲が広がるのは自然なことです。ただ、5.7ミリや9ミリのハンドガンでは、動物を止める力、いわゆるストッピングパワーが不足するかもしれませんよ>
フライデーさんの言葉に、オレは目を丸くする。
「え? そうなの? ハンドガンじゃ威力不足なんだ」
<ええ、大型の野生動物を確実に仕留めるには、最低でも.44マグナム以上の威力が必要です。この装甲車には、50口径の狙撃銃も搭載されていますが、使用には高度な射撃技術が必要となります>
「でもな~、でかいの持ち歩くの大変だしな」
<仰る通りです。携帯性に難がありますね。ですが、ハンドガンを所持していたとしても、熊などに遭遇した場合は、真正面から殺し合うのはお止めください>
「どういうこと?」
<遠距離の場合は銃声で驚かし、隙をみて逃げてください。近距離での遭遇の場合は一概には言えませんが、銃を乱射すると驚いて逃げる個体もいるかもしれませんが、逆に興奮させてしまうかもしれません>
等々、ハンドガンの威力では2~3発命中させても熊を殺せる確率が低いこと、人間の方が致命傷を負うリスクが高く、不利であることを説明してくれた。
俺は何も考えずに、正面から撃てば勝てると思っていたのだ。しかし、現実はそんなに甘くないようだ。熊の恐ろしさを改めて認識させられた。
<現実は常に予定通りにはいかないものです。だからこそ、野生動物との遭遇を避けるための予防策を講じることが最も重要です>
「わかった。こりゃ接近遭遇しないように注意するしかないか。色々勉強になったよ」
そして、フライデーさんの冷静な分析に感謝した。
<それでは、お好きなものをお持ちください。予備のカートリッジと弾薬は反対側のロッカーにありますので>
オレは、25年分のお年玉と誕生日とクリスマスが一度にドーンと来たような喜びに満ちあふれた。
「え? もらっちゃっていいの?」思わず声が裏返ってしまった。
<困ってるときはお互い様です。どうぞお使いください>
「ありがとう。使わせてもらうね」嬉々として、ドットサイト付きの銃と予備の弾倉と弾薬を抱えた。
その時、ALIENの文字が目に入った。実物見るの初めてだ、エイリアンピストル。宇宙人の銃という訳じゃない。そういう名前なだけだ。
オレの心の中でムズムズが止まらない。撃ってみたい! 「あのー、エイリアンピストルもおねだりしていいかな?」
<どうぞ、かまいませんよ。お好きなだけお持ちください。そちらの銃の弾丸は9ミリになります。サプレッサーとの相性もいいですよ>
「突然やってきて、不躾なお願いばかりですいませんね。今度何かお礼しますので」と恐縮した。
<はい、期待しております。だからという訳ではないのですが、デップリ様。この後、少しお時間いただけませんでしょうか?>
その言葉に、オレは心底申し訳なさそうに、あちゃ~と頭をかく。
「あ~、ごめーん。 今日は急いで帰って、カレーとナポリタンを作らなきゃならないんだよ。美人を待たせてるんだよ」
<ワタクシ、カレーとナポリタンのおいしい作り方のお話もできますが、美しい女性を待たせてはいけませんね。ワタクシが待たされたら、相手の股間を蹴り上げます>
「フライデーさんって、狂暴なんだね」オレは思わずツッコミを入れた。
<いいえ。ワタクシは淑女のキャラクター設定となっております>
「・・・そーなんだ・・・。じゃぁ、またゆっくり来てもいいかな? ごめんね。他の武器のことも、また教えてね~」
<承知致しました。ワタクシも大事なお話がございますので、改めてお時間をおつくりください。お願いいたします>
オレは装甲車から飛び降り、「ああ、もちろんだよ。またゆっくり話せるといいね。ありがとう、フライデーさん!」と声を張り上げながら、後部ドアを閉める。
<フライデーとお呼びください>
自分の車に乗り込み、銃をまじまじと見つめ、銃に頬ずりしてしまう。
初のマイガンだ。フライデーさんありがとう。
「あれ? フライデーさんオレのこと、デップリって呼んだよね? なんで知ってんだろ?」
次回の時にでも聞けばいいかと思いつつ、エンジンをかけ、家路を急ぐ。美人の待つ我が家へ。
3台並ぶ装甲車。その先頭車両の車内。コンソールに並ぶモニターの一つが、何の前触れもなく点灯した。
画面には、テキストが流れるように表示されていく。
―――資格を内在している可能性のある人間を発見・捕捉。
―――簡易観測検査の結果
・権利―有
・権限―有
・能力―無
・脳力―有
・領域容量―大
・技術―無
・スキル―無
・技能―有
・魔法―無
――――以上の結果により対象人物の観測を次段階に進めます。
――――16地点担当責任AI フライデー
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