第25話

4~500台は駐車できるであろう、ショッピングモールの広い駐車場には車が1台も止まっていない。

そんな広大な駐車場をオレの車だけが、ぽつんと走っている。

ショッピングモールはまるでゴーストタウンのようだ。

南側の建物正面にあるお客様出入口は素通りして、建物裏手を目指す。

建物を回り込み、職員通用口の前で車を止めエンジンを切った。

「よっと」車をおりて伸びをする。

いやー、なんだか身体が軽い、軽い。

身体だけじゃない。頭もスッキリしている。考えるのが楽ちんだ。頭の回転も速くなった気がする。

手足も思い通りに動く。以前よりも素早く、正確に動かせる。目もよくなったみたいだ。

空中を飛んでいるハエの動きがハッキリ見える。ハエって飛ぶのこんなに遅かったっけ?

必死になることなく、飛んでるハエを手でヒョイと捕まえるられる。手を開き逃げ出すハエを再びヒョイと捕まえることが出来る。

身体全体が、まるで新しいソフトウェアにアップデートされたかのようだ。

今なら、バッティングセンターの160㎞の速球でも、ホームラン性の打球で簡単に打ち返せる自信がある。

アリーシャの乳神水、恐るべし。凄い効果だ。

そんな身体の変化を実感しながら、スタスタと職員通用口に歩いて行く。

通用口のロックは基本、カードや生体認証で解除するが、緊急用に一部の社員しか知らない暗証番号で解除することが出来る。

それをオレは知っている。なぜかと言うと、このスーパーの社員が元カノだからだ。

半年くらい前に別れたのだが、身体の関係は続いている。

職場でのエッチは興奮するからと、おとといの夜呼び出され、教えられた暗証番号で建物に入ると、彼女が全裸でお出迎えしてくれた。

オレが到着するまでの間に彼女は、自分で自分の身体を準備万端に整えていたようで、バックヤードですぐに・・・、早朝までガンバリました。

彼女は性欲旺盛で、今日はやりたいと思うと、性欲を抑えられずガンガンやるタイプだった。

あまりの旺盛さに、オレでもビビッてしまうことがよくあった。

操作パネルに特定のアルファベットを指で書くとテンキーが現われる。

そこに暗証番号を入力。カタッと音がしてロックが解除された。

良かった。変更されてなかった。

一応ドロボーなので、そーとドアを開け、中の様子を窺う。

ギクッとした、中に2人立ってる人がいる。男と女のようだ。

ジッとしたまま、2人を観察していると、2人は全く動かない。

これは、魔法にやられた人だと予想し、ゆっくりと中に入り、2人に近づきながら観察する。

男が女の腰を後ろから掴んでいる。あれっ? この態勢は立ちバックじゃない?

女の顔をまじまじと見ると、

「あらあら、昨晩も励んでたんですか、かおりん」

平たい胸族で元カノの、かおりんだった。おとといは、オレと励んでたのに、連戦ですか? さすが、ちん〇スポット巡りの達人だ。

男の方は誰だかわからない。首から下げてる社員証からして、この辺を統括するお偉いさんのようだ。

便利そうなので、IDカード頂いておこう。

スカートをめくって、ちょっと覗いてみる。

ティーバッグが横にずらされ、あらま、見事に野太いのが、挿入されてますね~。

職場のエッチは興奮するから好きって言ってたよね。いいタイミングで魔法にやられちゃったね。かおりんらしいよ。

「ご愁傷様です」と両手を合わせておいた。


集中設備管理室に行き。建物内の照明を点灯させる。

オープン前に初めて連れて来てもらったとき、ここの設備の説明をしてくれたのはかおりんだ。

建物全体の屋根、南側の壁、窓全面に最新の太陽光パネルが付いてて、でっかい何とかっていう充電池もあるから、電気は自給自足できるって、建物内を案内してくれた。

災害時は、一度に多数のスマホを充電できるスポットにもなるって話だった。ここ電気の心配しなくていいんじゃない?

水道は豊富な湧水を利用してるって言っていた。

やはり水道も災害時には、水道局の設備がダウンしても、ここで市民に水を配給できるように作られているから水の心配もない。

この国では災害が頻繁に発生するのが常識だ。なのに災害が起こるたび、避難者に不便な生活を強いるのが恒例になっている。

何十年たっても、この国や地方の行政は、その点を改善できない。改善する気がないのか。

そんな中で、店舗にわざわざコストをかけて、災害時に対応できる設備を取り入れるなんて、経営者殿、グッジョブ! 

電気、水は、OKだ。食料はスーパーにあるし、他所から調達してきた食料もスーパーの冷凍庫に保管しておける。

ここいいかも。これからのサバイバル生活には打って付けなんじゃないだろうか。帰ったらアリーシャと相談しよう。

戦争の影響などで、まだオープンしてない小さい店のエリアが3区画あったはずだ。そこも覗いてみよう。

各店舗はバックヤードの1本の通路でつながっている。

珈琲店が入る予定というのは知っていたが、もう一店舗はサウナ店だった。モールには珍しい業種だな。

残りの店舗は、まだ決まっていないようだ。その店舗スペースは、内装工事もされていない。

サウナ店舗のエリアに入ろうと思ったが操作パネルがある。同じ暗証番号で入れてみるか?

ダメもとで入力してみると解除された。あの暗証番号はマスターキーの役割を果たすのか。これは、ラッキー。

オープン目前だったと見えて、備品などが綺麗にディスプレイされ準備万端の状態だ。

サウナだけでなく、シャワーや湯船もある。普段の風呂場として使えるじゃん!

自宅にサウナ。豪華じゃん。セレブじゃん。

テンションが上がってきた。

珈琲店の中も内見させてもらおう。

木材を基調にしたヨーロッパのパブを思わせるような、雰囲気のいいインテリアだ。

本格的な洋風のバーカウンターは、歴史的に貴重なものなのではと思えるほど、重厚感がある。

全体は落ち着いた色調で統一されており、木の温もりを感じることができる。自然と安らぎ、心を落ち着かせるムードが満点だ。

薪ストーブも設置されている。ゆらめく炎を見つめながら、一杯の珈琲を味わう。そんな時間の過ごし方は、まさに至福っていうやつだろう。

内装は既に完成しているようだが、まだお客さん用のテーブルやイスはセットされていない。

それが丁度いい。そのスペースは、広々としたワンルームのようだ。

南側にはソファを配置してリビングスペースを作り、北側の曲がって奥まったところにベッドを置く。

そうすれば、まるでホテルのスウィートルームのように使えるんじゃない?

問題はオレにインテリアのセンスなどないことだ。

まっ、住んでれば生活感がどうしたって滲み出てくるから、スウィートなんて言ってられるのも最初だけだろうけどね。

このモールは、南側に大きな駐車場。

駐車場から建物を見ると、東西に長い長方形をしている。

建物に向かって右側からホームセンター(1・2階)、スーパー(吹抜け)、珈琲店(1階)、サウナ店(1階)、未入居(1階)。

珈琲店とサウナ店の上、2階部分はフードコートになっている。

未入居部分の上は、開放感あふれるテラスになっていて、そこからは美しい北アルプスの山並みを眺めることが出来る。

フードコートは、プレイルームに使えるな。ビリヤード台や卓球台を設置し、ゲームセンターからゲーム機を持ってくれば、まるで自宅にゲームルームがあるようだ。

夢がふくらむ。やってみるかモール生活。

かおりん、君との職場エッチは無駄にはならなかったよ。

あの結合された2人、どうしようか。どっかに捨てるのも忍びないし、インテリア代わりに置いておくか。

というか、あの魔法突然効果がなくなって、みんな元通りなんてことあるのかな?

そしたら、モールを不法占拠で逮捕か? そんなことになったら、疾風のように別荘に逃げ帰らないといけないな。

別荘はあのままにしておいた方が良さそうだ。


スーパーに行く前に、設備室で冷蔵庫や空調の設定、充電池の状態などを確認する。

節電のため、スーパー以外の余計な照明は、切っておくことにした。

珈琲店や設備とか見てたら遅くなっちゃったな。

慌てて食品スーパーに赴き、食材を集めて回ることにする。

スーパーの品物を眺めながら、生肉や鮮魚など食べきれない分は、作業室の冷蔵庫にしまっておいた方が良さそうだ。

ここでも一労働して、片づけて回る。

生きるために食料は必要だが、今やっていることはドロボーだ。

犯罪を犯しているのだから、葛藤がある。

でもそれも最初のうちだけなんだろうな。そのうち慣れて、何も感じなくなるんだろうな。

「申し訳ありませんけど、もうオレとアリーシャだけなので、大目に見てください」と、オレは心の中で謝罪した。

そして、手を合わせ、祈るように天を見上げる。

何をしてでも、生き残るぞという決意をもって、お店の品々をカゴに入れていく。

夕食の分、明日の朝食の分も必要だ。

異世界の女性に人気があるのか分からないが、アイスとチョコとフルーツも。

それと忘れていけないのが、輸入物の瓶ビールとワインだ

いつもより1人分増えただけなのに、荷物の量が半端ない。レジ袋が指に食い込んで痛い。

これを家族4人とか5人とかの胃袋を毎日満たしている、世のお母さん達、お疲れ様です。頭が下がります。

店を出る時、店内に向き直り。「あーした!」と部活風に一礼して、車に向かった。

この先どのくらい生きられるかわからないが、この一店舗だけでは物資が足りない。他の地域からも集める必要があるな。

日本一周しながら、集めるのも楽しいかもしれないな。

この系列のスーパーで、同じような設備をもった店舗が、県内に数店舗あったはずだ。そこも物資保管場所に利用しよう。

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