第22話
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家の中はシーンと静まり返っている。
デップリは夕飯の食材を求めて、外に出かけて行った。
私のリクエストに応えようと、カレーとナポリタンを作るための材料を集めるためだ。
私の世界の男なら、自分の食い扶持くらい自分で何とかしろと、突き放すのが、ごく当たり前のことだ。
だがデップリは、私の世界の男はやらないような、予測不能な行動をする。
私の予想を裏切り、今まで感じたことのない、新たな感動をもたらしてくれる存在だ。
デップリは、私を思いやり、気遣ってくれて、私のために行動してくれる。
それは、私の世界の男には、まったく望めない行動だ。
だからこそ、私にとってデップリは、驚きや新しい気づき、目の覚めるような新鮮さを味合わせてくれる男だ。
そしてこの経験は、大変うれしくもあり、戦闘に病んでしまった、私の心を温かくしてくれる。
この感情は、異世界に来なければ、感じる事が出来なかっただろう。
私の世界にいたままでは、確実に一生経験することはなかったはずだ。
私の世界・・・・、あの後どうなったのだろう?
悲惨な戦争だった。
何もできなかった。
あれほど一方的に、被害を被った戦いは、歴史上初めてなのではないだろうか。
大規模な攻撃魔法とその後の火炎では、撤退の時間もなかったはずだ。
ほとんどの者が助からなかったのではないか?
その戦いで失われた友人や仲間たちの運命を思うと、胸が締め付けられる。
死者、負傷者、どれほどの数にのぼることか。
レイラのようになってしまったのだろうか?
火炎に焼かれてしまったのか?
戦争に参加せず、種族領に残っていたのは、子供か魔法士。それも医療や研究を主にする者達だ。
軍に攻め込まれたら、ひとたまりもない。
何万年もの歴史の中で、種族が絶滅していくのは珍しいことではない。
だが、私たちの種族もその運命に翻弄されてしまうのか、それとも生き残る可能性があるのか。
一人で考え込むと、悲観的な気分になってしまう。
私は戦士だから、仕事は戦闘だ。他種族や魔獣との血で血を洗う日々だ。
戦争や戦闘では、仲間が、1人、2人と死んでいくんだ。
昨日まで、バカなことを言い合って笑い転げていた友達が、今夜はもういないなんてことも、ざらにある。
負傷した同胞が、足手まといになるから自分を置いて行けと、泣き叫ぶ。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、負傷者を置いて行く決断をしなければならない時もある。
治療魔法が使えると言っても、自分の体内の魔力量が少なければ、それもできない。
自分の魔力量ゼロは、自分の死を意味する。
母乳や精液で、補充が出来ればいいが、そんなことをしていられない激戦のことも多い。
自分の死への足音が聞こえているのに、他人を助けるバカはいない。
私たちの種族は、自分を常に優先する、というモラルが基本だ。
それでも同胞が、次々に死んでいくのを見るのは、正直堪える。
だから、毎日、毎日悲しんでばかりいると、自分の頭がおかしくなってしまう。
私などもう、おかしいのを通り越してるのかもしれない。
弱い奴は、精神が病んでくる。
心が病んでしまうと、戦闘に意欲が持てなくなり、そういう奴もまた、死んでいく。
だから戦士など、戦っていない時は、くだらなくても楽しいことを見つけていないと、正気が保てない。
普段は、バカで他愛もないことを言い合って、大笑いできる仲間が大切になってくるんだ。
戦いがない時は、戦闘のことなど忘れて遊びまくっていた。
その遊び仲間が、レイラ達だった。
そしてレイラが、昔なじみの最後の一人だ。
だから、レイラがその身を犠牲にして、私を庇ってくれた瞬間。
私の心は凍りついた。
悲しみがあまりにも強すぎて、全身が麻痺してしまった。
自分はもう何も感じられない、空っぽの人形になったような気がした。
死んでしまってもいいと思った。
しかし、庇ってくれたレイラを見つめていると、涙がこぼれてきて、胸に、心に熱い痛みが込み上げてくる。
その時、私の心は怒りに包まれた。怒りの炎が頭の中で燃え上がり、復讐の衝動が私を突き動かした。
あの瞬間の記憶は、私をずっと苦しめるだろう。その傷は何度も心を引き裂くことになるだろう。
私は、復讐のために生きる選択をした。
でも、その選択は皮肉な運命に翻弄されてしまった。
それは復讐を果たすチャンスではなく、見知らぬ異世界へ迷い込むことになる。
この異世界に放り込まれた時、私は右往左往する迷子になった気分だった。
目の前に広がるのは、私の知っている世界とは全く違う光景だ。
どこを見ても、人の気配がない。ただ、奇妙な形をした植物や建物が、見えるだけだった。
でも、不思議と恐怖は感じなかった。むしろ、この世界に魅了されてしまう自分がいた。
まるで絵本の中に入り込んだような感覚だった。
誰とも出会わないことが、周囲をゆっくりと観察し、自分を静める機会となった。
見知らぬ美しい風景や不思議な生き物との出会いは、まさに新鮮で刺激的な冒険だった。
異世界に足を踏み入れた瞬間から、私は戦いから解放された。
その時間が、私を心から癒してくれたんだ。
でもそれも、デップリが一緒にいてくれて、色々教えてくれるから楽しめたんだと思う。
わたしたちの世界は個人主義だ。他人のことなんて気にしない奴が多い。
だから、デップリが私に優しくしてくれるのが不思議だった。
男に、あれほどなんやかんやと世話されたのは、初めてだ。
あんなに弱っちぃ奴に、助けれたのも、初めてだった。
でも、何故だろう? 大変心地よかった。
バカにしているわけではないのだが、ちょっかい出したり、からかったりするのが何故か楽しいんだ。
それに弱っちぃから、助けてやりたくなるんだ。私もアイツに何かしてやりたいと思ってしまうんだ。
私は、おかしくなってしまったのか?
出会って数時間しかたっていない相手に、何でこうも気安く話せてしまうのだろう。
今までの私は、そんなことは絶対にしなかった。
それも、相手は男だ。普段は信用できないと思っている男性にだ。
デップリといると、レイラという親友と過ごしている時のような気分になってくるんだ。
アイツは、おしゃべり好きな私のどうでもいい話にも付き合ってくれて、うなづき、笑い、意見し、突っ込みも忘れない。
デップリ相手だと、気安く声をかけてしまう。ジョーダンが言えてしまう。笑い合えてしまう。話が止まらなくなってしまう。
レイラと話している時のように自然に接することが出来て、何か心地よさを感じる。
私が考えて、そうしているのではない。私の本能がそうさせているんだ。
だから、デップリと一緒にいる時は何のストレスも感じず、楽しくベラベラと喋ってしまう。
こんなこと今まで、男相手にしたことなかった。私はどうしてしまったんだ?
アイツが私より圧倒的に弱いからか? 魔法を使えない種族だからか?
格下だと思って、余裕があるからなのか。
アイツは、私たちに親切だし、異世界人なのに気安く受け入れてくれた。
アイツは、私を美人だと言った。この世界の男が女に恋をするというやつなのか?
だから親切なのか?
いやいや、アイツ側の問題じゃないんだ。
私の方だ。私の本能が勝手にデップリを受け入れてしまうんだ。
こんなオトコとの関係は、初めてだ。私はどうしたらいいんだろう?
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