第17話

豪華とは言えないコンビニ弁当だが、テーブルに並べた食事を、アリーシャは楽しんでくれていた。

オレが、この世界の文化や音楽を紹介してみると、アリーシャは、時々質問をしたり感想を投げかけてきたり、この世界に興味深々だ。

しばらく音楽を聴きながら、食事をしていると、アリーシャが、あれっ? という表情をしている。

彼女は、音楽が聞こえてくるスピーカーの方を指さして言った。

「この曲、途中で雰囲気がガラッと変わったぞ。きれいなメロディだな。こういうのは、あいつが好きそうだ」

と、ソファに一人座っている友人の方を寂し気に見つめながら、しばらく曲に聞き耳をたてていた。

そして、「アイツに、何もしてやれない事が、悔やんでも悔やみきれない」と悔しそうにつぶやいた。

その声には、彼女の心の中に秘められた切なさが滲んでいる様だ。

気持ちはわかるが、今してやれることはない。

「できないことを考えても、結局何もできないんだから、できることをコツコツ探すしかないよ」と、オレは彼女に向かって言った。それは、自分にも言い聞かせるような言葉だった。

しかし、アリーシャは、その言葉に納得できないかのような表情を浮かべていた。

「できる事って、なんだろう?」

彼女の言葉に、オレはため息をつき、頭上に視線をさまよわせた。「そこから、考えていくしかないって」

アリーシャは、友人の顔に優しく微笑みかけて、「すまない」とつぶやいていた。

その時、突然意識のないはずの、友人の身体がビクッと大きく動いた。

オレとアリーシャは、同時に息をのんだ。

アリーシャは、慌てて友人に駆け寄り、様子を窺いキスをする。

友人の脳から、反応があるか試しているのだろう。

オレも、意識が戻ったのかと思い駆け寄るが、アリーシャはオレを見て首を横に振った。

「変わりない」 彼女は、友人の手を握りしめ、落胆した声で言った。

「・・・そうか。私もこの曲好きだぞって、アピールしたかったのかな?」

アリーシャは、オレの言葉に苦笑いした。

「フフッ、そうかもしれないな」

アリーシャは、友人の頬を指でなぞりながら、残念そうに呟いた。

オレは、この曲の題名が女性の名前であることに気が付き、アリーシャに提案してみた。

「アリーシャ、友達にも名前つけようよ。この曲、女性の名前が曲名なんだよ。その名前でどうだろう?」

「なんていうんだ?」

「レイラだ」

アリーシャは、レイラという名前を繰り返し、口にしていた。

「レイラか・・・。いいんじゃないか。呼びやすいし。こいつも反応してたし、きっと彼女も気に入るよ、なあ、レイラ」

オレの位置からは、アリーシャの表情はよく見えなかった。しかし、彼女の声が微かに震えているのは、はっきりと分かった。それは、涙がこぼれ落ちそうなほどの感情が詰まった声だった。

オレは、彼女の素の部分に触れたような気がした。いつも元気に振舞っていたアリーシャは、その本心を隠すために、無理にポジティブな感情を見せていたのかもしれない。

へこんでいる自分を、オレに見せないように、気を使っていたのか?

オレは、アリーシャを励まそうと、肩にそっと手を置いた。彼女は首を傾け、オレの手に頬を預けてきた。頬の温もりが心地よかった。

「なんだか遠くまで来てしまったな。オマエも異世界用の名前もらえたぞ。・・・戻って来てくれよ。最後の最後にまた会えるってどういう意味なんだ?」

オレは頭の中が、?マークになってしまった。「最後のことばが、また会える、だったの?」

オレの問いに、アリーシャは静かに頷いた。

「ああ、レイラの最後の言葉だ。最後になんでそんなこと言ったのか、不思議だったんだ」

確かに。なぜ「また会える」と言ったのだろう?

その言葉は、終わりの予感を孕んでいるようでいて、どこか希望を連れてくるようでもあった。

「とりあえず、彼女・・レイラの症状に効くかわからないけど、意識のない人にでも、話しかけたり、音楽聞かせたり、体を動かしてやったりして、外から刺激を与えることもいいらしいぞ。レイラにもやってみよう」オレは、そう提案した。

レイラのためにできることは、少なかった。でも、何もしないよりは、ましではないかと思った。

アリーシャは、オレの言葉に頷いてくれた。

「うん、そうだな。ありがと。」

オレはレイラの座っている、ソファの片側に立ち、アリーシャに頼んだ。

「そっち側、持ってくれるか?」

「何するんだ?」彼女が首を傾げると、オレは笑みを浮かべて言った。

「レイラと一緒に飯を食うんだ」

オレとアリーシャは、レイラのソファを食卓に近づけ、3人で食卓を囲んだ。

レイラの手を食卓の上におき、フォークとコップを握らせ、雰囲気を演出し、食事の一員として彼女を迎え入れた。

アリーシャの顔には、ふっと笑顔が戻り、その光景にオレも心が温まった。

プレデターの上映会には、レイラも参加してもらおう。

食事が進むうち、アリーシャはレイラの暴露話を始めた。

男には厳しかったようだが、冗談好きで、仲間から信頼される戦士なのだそうだ。

アリーシャは思い出し笑いをしながら、面白おかしくレイラの逸話を聞かせてくれた。

話を聞きながら、彼女の顔を見ていたら、前に会ったような感覚に襲われた。デジャヴかな?

タイプは違うが、眼が元に戻れば、レイラもアリーシャに負けず劣らずの美人になりそうだ。。

こんな美人に会ったら忘れないはずだが。

それにしても、アリーシャ達の種族の女性は美人ぞろいなのかな?

そうだ! 風呂は混浴だって言ってたな。後で詳しく聞かせてもらおう。

やっぱり、異世界におじゃまさせてもらおうかな?


腹が満たされて、アリーシャは満足そうだ。

彼女はオレの隣に座って、空になった弁当を見ながら言った。

「この世界に来たときは、食べ物もどうしようかと不安だったけど、うまいものにありつけて、一安心できたぞ」オレはその言葉にホッとした。

最初は、獣の生肉がが喰いたいとか、対応できないようなことを言われたら、どうしようかとヒヤヒヤした。

「この先は、コンビニ弁当なんて便利なものは、食えなくなるから大変だぞ」

「どうするんだ?」

彼女は食べ物に関して、とても好奇心旺盛だった。

「自分たちで、野菜育てたり、動物捕まえて食える肉に解体したりするしかないな~。きっと」

オレはあやふやに答えた。そんなことをしたことがなかったからだ。

「肉任せろ。いつも動物とか魔獣捕まえて解体してるから得意だ。魔法でできるんだ」

オレは驚いて、アリーシャの顔を覗き込むと、自慢げな表情だった。

「魔獣食えるのか? 驚いた! うまいのか?」

オレは驚きとともに興味が湧いた。魔獣を見たこともなかったし、食べることも考えられなかったからだ。

「うまい奴もいるが、まずいのもいる。いろいろだ」

すごいな、喰ったことあるんだ。

そういえば、隣のおじちゃんが、野菜の育て方を几帳面に記録してたな。

春になったら、家庭菜園のやり方、教えてね。なんて話してたのに・・。

こんなことになっちゃって、もう教えてもらえないな。

両親を亡くしたオレを、何かと気にかけてくれてたのに・・・。

あの家に入るのは、気が重いけど。

参考になるかもしれないし、後で探しに行ってみよう。


オレはアリーシャの要望に応えて、脳から情報を引き出すことを了承した。

また脳ミソをビリビリされるのは、ちょっとおっかないが、しょうがない腹を括ることにした。

「さーて、しゃーないから、そろそろ安らかに気絶してみるか?」

「オッ、やってくれる気になったか?」

「どういう態勢だとやりやすい?」

「オマエは、どうせ気絶して倒れるから、初めから寝ていろ」

それでは、オレのベッドにご招待いたしましょう。

オレは、ベッドに行き、仰向けに寝っ転がった。

そこに、ベッドに上がったきたアリーシャが、オレの身体に覆いかぶさる。

オレの胸板や左腕に、アリーシャの柔らかな胸がグニュグニュあたる。

気持ちイィィィィィ~~!!

オレは調子に乗って、ワイシャツから剥き出しになっているアリーシャのシリを右手でつかんだ。

付き合ってる同士なら、もう、エッチなんだから~、なんてセリフが聞こえてきそうだが。

アリーシャの場合は・・・・・。

「なぜ、シリをつかむ?」

「これから気絶するかと思うと、怖くなっちゃって・・」と、噓八百のセリフを言っても、あっさり。

「じゃ、つかんでろ」

と、エロさの欠片もないセリフと反応が返ってくる。かなり拍子抜けした。

つまらん!

「じゃ、やってくれ」

「では、いくぞ」

オレは、うなずいた。

アリーシャにキスされた。力強く。

オレは、ベッドで半裸の美女に押し倒されたような状態で、彼女のシリをつかみながら、キスされているが、如何わしいことは何もしていない。

これは、脳科学への飽くなき探求心の賜物である。スケベだからではない。

まただ。ビリビリが痛い。意識が・・・。もうシリをつかんでられな・・・。

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