第16話

BGMに洋楽の1970年代、80年代のロックやポップスを流すと、アリーシャが身体をゆすって、ノリノリで聞いていた。

「音楽好きなのか?」

「好きだぞ。聞くのもだが、歌うのはもっと好きだ。この曲はオマエ達の言葉ではないな」

「英語だよ。別の国の言葉だ」

オレの一番のお気に入りのジャンルはヘビメタなんだけど、今回は控えておく事にした。

「印象的なメロディが多いな」

「たしかに、この頃の曲はそうだね。世界的にたくさん売れたらしいよ。両親がよく聞いていたんだ」

とオレは、懐かしく思い出した。オレの両親は、音楽好きで、よく家でレコードをかけていた。

「オマエの両親は今回の魔法で・・・?」とアリーシャが控えめに聞いてきた。

彼女の顔には、同情と好奇心が混じっていた。

「いや、去年事故で死んだよ。この家は、形見みたいなもんなんだ」

「じゃ、家族は?」

「いない。一人っ子だったんだ。アリーシャは、家族は?」

と質問を返した。オレも、彼女のことを知りたかった。

「両親と、兄弟が100人くらい、姉妹が80人くらいかな」

とアリーシャは、平然と言った。

「えっ!? なんで? 計算合わなくない?」

驚いて叫んだ。彼女の家族は、何人なんだよ。オレの知っている常識とは、全く違うじゃないか。恐るべし異世界。

「うちの両親は子だくさんの方だな。長く生きてるからな」

なんか、異世界人のエルフ的な年齢が出てきそうな雰囲気がしてきたぞ。

「長くって、どれくらい?」

「両親は、3000歳過ぎてると思ったな」とサラっと言った。

ドッヒャーーァーーッ!想像を超えた。

彼女の両親は、オレの祖先よりも古いんじゃないか。彼女の世界は、どうなってんだ? オレは、目を見開いて、彼女を見た。

「き・き・君は・・アリーシャはいくつなんだ?」

とオレは、恐る恐る聞いた。彼女の年齢は、オレと近いといいな~。

「私は、300歳だ」

ガ~~ン・・・。っさ、さ、さんびゃくぅぅぅぅぅぅ・・。

オレは、言葉を失った。彼女は、オレの12倍も年上なんだぞ。

「あいつは、500歳だ」とアリーシャは友達を指差し、こともなげに言い放つ。

「それって、君たちの世界っていうか、君たちの惑星基準ってことだよね? 地球とは違うんだろうな・・?」

「そうなんだろうが、オマエはいくつなんだ?」

「25」

「ウソだろ? 25? ひよっこじゃないか」

「この世界じゃ、ちゃんと成人して、立派な大人だ。」

彼女は、オレのことを子供扱いしているんじゃないか。

いや、子供どころじゃない。孫? もっとだ。孫の孫? もう計算できん・・・。

「ゴメン、ゴメン。じゃ、寿命はどのくらいなんだ?」

「70~80歳くらいかな。アリーシャ達は?」

「3500~4000」

なんだそりゃ! 人生のスケールが段違いだ。

長すぎて、いい事なのかどうかも判断できないな。

ちょっと待って・・、するってーと。アリーシャ、ヤバいじゃん。

「基準の計算方法がわからないけど、アリーシャの方が長生きするとしたら、オレが寿命で死ぬ前に、確実に元の世界に戻らないと、アリーシャやばいよね?」

「なんでだ?」

「オレが死んだら、精液の補充どうすんの?」

「あっ! 私、死ぬ。帰り方見つけないと確実に死ぬ」

「だろう? オレの寿命あと50年くらいあるけど、寿命の前に事故とか、病気で死んじゃうかも」

「なんだって? そんなこと許さないぞ!」

「許さないぞって言われても、事故とか病気なんて、オレにはどうすることもできないじゃん」

「病気は、私が定期的に検査、発見して治療する。脳以外の病気なら私でも対応できる・・・たぶん」

おいおい、大丈夫なのか? 自信あるようには見えないんだけど。

「検査って、どうやるんだ?」

「オマエのキライな脳天ビリビリキスだ。ちょっと待て、あれ? オマエの脳でできるかな・・。大丈夫かな? あれー? ・・・オマエの脳、低スペックだからな~、きついかな~、まー、・・いいか・・」

アリーシャは、ウ~ンと考え込みながら結論に達していたが、もうちょっと自信ありげに言ってほしかった。

「事故の時は、即死するんじゃない。急所を守れ。私がそばにいれば、治療魔法を行使する。痛いがな」

即死するなって、どういう注文だよ。今、反論してもしょうがないことなので・・・。

「わかった。善処するよ。それと、なるべく長生きするように努力します」

ハァ~ッ、お酒やめようかな・・・・。


キッチン横にある、ダイニングの4人掛け丸テーブルに弁当を広げた。

コンビニ弁当は全部温め、どれが食べられるか、アリーシャに試食してもらうことにした。

彼女は一つ一つ口に運び、目を輝かせた。

「全部おいしい、食べられる」とのことで安心した。

特に、カレーとナポリタン、マーボー豆腐がお気に入りのようだ。

なのでオレは、残りの鮭弁と幕の内に手を付ける。

横からアリーシャに、鮭をかっさらわれた。

「これもおいしい!」と笑っている。

うまそうに食べてくれているから、いいんだけど。

驚いたことに、少し冷めてきた弁当はアリーシャが、魔法で温め治していた。

レンチンより便利だ。感動。

ハイキングやキャンプの時にも、重宝しそうだ。

いい喰いっぷりを見せるアリーシャから質問があった。

「この世界での、射精の方法について知りたいんだが、勉強するにはどうすればいい?」

ゲホッ、ゲホッ、食べ物が変なとこ入っちゃったじゃないか。

「ケホ、射精? なんでそんなこと知りたいんだ?」

「さっき、私たちの方法でオマエから精液をもらった時、オマエ不満そうな顔してたし、私が聞いたら、異世界人には分からないって、・・・。

私はオマエから、精液をもらわねばならない立場だ。だがその度にオマエが不愉快な思いをするのは、その・・・、悪いなと思って」

「なんか、ゴメン。気を使わせてしまったな。これは、アリーシャの魔力や生死に関わる問題なんだから、そんなこと気にしなくても大丈夫だぞ」

たしかに、あのビリビリキスのやり方だと、オレが精液の自動販売機になったような気分になるが・・・。

あ~? しまった。オレがあまいかも。

数回だったら何とも思わないだろうけど、それが何十回とか何百回になると、苦痛になってくるかもしれないな~。

SEXも毎日、義務のようにやってると苦痛になるって聞くしな。

いくつか方法を考えておいた方がいいかもしれないな。

「でも、この世界での男が女に精液を与える方法を知れば、オマエの不快感をやわらげる方法を見つけられかもしれないだろ。

私に同じことができるとは言えないが、勉強だけでもさせてもらえないだろうか?」

オレのことを気にかけてくれて、素直にうれしい。

でも、勉強といわれてもなー、教科書はH動画くらいしか思いつかん。

「動画があるから見せることはできるけど、SEXの習慣のないアリーシャ達からすると、気持ち悪い事かもしれないぞ」

「そうかもしれないが、知らないことが不安で、嫌なんだ」

「じゃぁ、あとで動画の見方教えるよ」

「すまない。ついでに、」

「もしかして、脳天ビリビリキスでこの世界の情報収集か?」

「察しがいいな。オマエのプライベートな事には、触れないようにするから、頼む。それに、私たちの世界の情報も渡せるかもしれないぞ」

「ハァー・・・、たしかに、分からない事があると不安だよな、健康診断もあるし、アリーシャ達の世界のことも興味あるしな・・。

・・・わかった。飯の後にやろう。気絶して、ぶっ倒れてもケガしない場所で」

「アハハ!、間違いなく気絶するだろうな。気絶する奴なんて、初めて見たぞ」

「笑い事じゃない」

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