第14話

親から継いだこの別荘は、平屋でダイニング、リビング、寝室、その他水回りがあるログハウスだ。

各部屋は、東京近郊で売られている最多価格帯のマンションよりは、広いスペースを確保しており、ゆったりしている。

リビングには、革張りのソファセットがあるくらいで、両親はごちゃごちゃ物を置かずに、スッキリした空間で寛ぎたかった様だ。

今は、オレの趣味のモノや道具がインテリア代わりに少し置いてある。

自宅マンションのある、せわしない東京よりは、このログハウスのある長野県で、きれいな山並みを見たり、自然豊かな景勝地を訪ね歩きながら生活する方が、自分には合っていると思う。

東京では、仕事や人間関係に疲れて、ストレスが溜まっていた。

大げさだけど、仕事人間ではないオレには、何のために生きているのか、わからなくなっていた。

しかし、ここには、自分の好きなことをすることができる、道具と場所があった。

時間やお金に縛られず、自由に過ごすことができた。

希望としては、大きな倉庫を建て、その中にトレーラーホームを入れ、寝起きはトレーラーでする。

トレーラーホームの他には、自分の趣味や楽しみを満喫できるスペースを作りたい。

車やバイクをコレクションしたり、ソファやテレビを置いて、寛ぐリビングスペース。

それに、バスケットゴールをおいて、ちょっとしたスポーツスペース。

エアガンの射撃スペース。ビリヤード台も必要だな。カラオケや楽器なんかを置いてもいい。

そうなると家というよりか、男の秘密基地的といった感じだろうか。

映画の中で同じような生活をしている主人公を見て、憧れてしまった。

とりあえず今は、ここを拠点にするしかない。

これから住処についても、何か考えなければならいな。


「さぁ、遠慮なく入ってくれ。あっ、靴は脱いでな」

彼女は、友達を肩に担いで、家の中に入ってきた。

ワイルドだ。

彼女は、家の中を見回しながら、興味深そうに口を開いた。

「ここがお前の家か。きれいにしてるな。もっと小汚い家を想像していたぞ」

オレは、彼女の言葉に余裕の苦笑を浮かべながら。

「失礼な奴だな。もしかして、君の部屋より片付いてる感じなんじゃないか?」

彼女は顔を赤くしながら、慌てて否定していた。

「ゥエッ? そ・そ・そんなことないぞ」

その慌てっぷりに、ニヤニヤ笑ってしまった。

「図星だな」

ニヤ顔にムッとしたのか、正当性を主張する言い訳を始めた。

「私は生活しやすいように、計画的に散らかしているんだ」

彼女の言い訳に呆れながら、首を振った。

「片付けられない人がよく言うセリフだよネ」と、からかい気味に言うと。

オレのからかいに怒って、拳を振り上げた。

「やかましいゾ」

オレは、彼女の拳を軽く避けながら、リビングに案内していった。

「友達は、その一人掛けのソファに座らせたらどうだ?」

彼女は、友達をソファに座らせると、友達の乱れた髪を手でなでつけていた。

心配そうに友達の顔を見つめている。

オレは、ブラシを持って来て、髪を梳かすしぐさをしながら、彼女に手渡す。

「ホレ、これ使えよ。好きに使っていいからな」

感謝の表情を浮かべて、彼女はブラシを受け取った。

「ありがと」

異世界人の女性も髪に気を使うもんなんだな。

心なしか、友達の髪を梳かしている、彼女の背中が寂し気に見えてしまった。

ジロジロ見ないことにした。

オレは、コンビニから調達してきた食料を、ダイニングテーブルに並べて気が付いた。

一人分で考えて持ってきたから、二人だと夕食分まではないな・・・。

夕飯前に、また調達に出かけないといけないな。

彼女は部屋の中にあるものが珍しいのか、興味深そうにあれやこれや見て回っている。

すると、いきなり彼女が大声を上げた。

「オッー! この世界にも魔獣のような奴がいるのか? よくできているな」

オレは驚いて彼女の方を見ると、彼女は棚の上に飾ってあるプレデターのフィギアを手に取っていた。

フィギアを舐めるように見回しながら、しきりに感心している。

何だか、目つきが少しギラついてるように見えた。

「強そうだなー。こいつは強いのか? どこに行けば戦えるんだ? ぜひ戦わせてくれ!」

戦士の血が滾ってしまったのか、いきなりテンションが爆上がりになっている。

彼女はフィギアを握りしめて、オレに迫ってきた。

彼女の熱気に圧倒されながら、オレも調子に乗り、冗談半分で応じてしまった。

「君でもそいつには、勝てないと思うぞ」

「なに? そんなに強いのか?」

「そいつはな、透明になれるんだ。見えない相手に勝てるのか?」

「フン! 目に見えずとも、魔力の気配を感知できれば、居場所はわかるぞ。私が負けるわけない」

しまった。彼女のプライドと闘志に、ガソリンをぶっかけてしまったようだ。

彼女はやる気満々、自信満々だ。

「あいつは、魔法は使わない。魔力もないんだ。あいつの武器はテクノロジーだ」

「テクノロジー? で戦うのか? どんな風に戦うんだ?」

テクノロジーという言葉に、ちょっと困惑気味の表情をしていた。

このくらいにしとこう、悪ふざけも度が過ぎると、なんとやらだ。

「なんちゃって、冗談だヨ。そいつは映画っていう物語に出てくる空想の生き物なんだよ。実在しないんだ。だから戦えないぞ」

オレは彼女の失望の表情を見て、やり過ぎたかとちょっと後悔した。

「なんだー、そうなのか。残念だな~。それじゃ、隣の奴も実在しないのか?」

エイリアンのことだ。彼女はまだ諦めきれない様子だ。

戦士だと言っていたが、よっぽどの戦闘オタクなのだろうか?

「残念。そいつも実在しないよ」

「実在しない、空想のものなのに、細かいところまで、よくできているな」

「じゃぁ、今夜はそいつらが出てくる映画を見るか?」

「見る。見たい」

残念そうにしていた顔に、一瞬で笑顔が弾けた。

「よし。今夜はプレデターでお家デートだな。じゃー、昼飯喰っちゃおうよ。コンビニ弁当どれ食べ・・・・?」

「おおおーーぉ!」

今度は、なんだっ?

「女の裸だな! やっぱり脳は嘘ついてなかっただろ。女の裸好きなのか?」

彼女が言ってるのは、オレんちの曲線の女神様こと、アリサとカリーシャの全裸ヌードポスターのことだ。

「この世界のたいていの男はみんな、女の裸が好きなんだよ。別にいいだろ。

女性の裸って、世界一美しい曲線の集合体だと思うんだよね。オレにとっては、この二人がまさに曲線の女神なんだよ。って、おい。なにそんなにジロジロ見てんだ?」

彼女は、ポスターを上から下まで、ジロジロ見ながら、ウ~ンと考え込んでる。

「なに女性の裸見て、考え込んでるんだ?」

「この二人のプロポーションって、私と似てるなーって思って」

どこがだよ。カチンカチンのボディビルダーみたいな体型のくせに、どこが似てるっていうんだ。

曲線の女神様達に謝れと思ったが、彼女に面と向かっては言えなかった。

すると、彼女は身体の輪郭を露にしている、タイトな戦闘用のボディスーツを脱ぎ始めた。

「おいおい、何考えてんだ。男がいるのに真っ裸になるんなんて」

と、オレは彼女に背中を向けた、マナーとして。

ホントは見たかった。

「へっ? 別に男がいたって裸になるぞ。着替えたり、風呂入ったりする時、どうするんだ?」

「へっ? 着替えとか、風呂って男女一緒なの?」

「私の世界では、それが普通だぞ。そんなことより、今普段の体型に戻すから、よく見てろ」

へっ? 戻す? よく見ていいんですか?

筋肉質な身体をよく見ていると、体のラインが柔らかな曲線へと変化していく。

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