第11話

ドアを閉め、エンジンをかける。

マフラーを交換しているので、純正より野太い音が響いて、エンジンが目覚めた。

シートを通して、エンジンの振動が伝わってくる。

彼女は少しビクッとして、驚いた表情で聞いてきた。「何の音だ?」

「前にエンジンっていう、この車を動かす機械が入ってるんだ。そのエンジンが動いてる音と排気ガスの音だな」

オレは、つい笑顔になってしまう。

「このエンジンの音が好きなんだ」

EVは静かだけど、オレには物足りない。 オレはエンジン車の魅力を知ってから、手放せないんだ。

オレは車をゆっくり前進させ、国道に出て一気に加速させた。

オレ専用状態の国道は気持ちよく、ついついアクセルを深く踏み込んでしまう。

高めのエンジン回転をキープして、エンジンの音を楽しむ。

今はEVが主力だが、オレがエンジン車を今でも乗り続けている理由は、

エンジン回転が高まるにつれて、盛り上がる音とトルク感を楽しむためだ。

グウォーン・クウォーンいい音だな~。

アッ、しまった。曲がるとこ通り過ぎちゃった。

「すごいな、魔獣の雄叫びみたいだ」

今度驚くのは、オレの方だった。

「??魔獣って言った?、君らの世界って、魔獣がいるの?」

「いるぞ。定期的に駆除しないと、数が増えて駆除が難しくなったり、死人が多く出る地域が発生してしまったりすから、大変なんだ」

「でかいのか?」

「いや、人サイズから、あの建物くらいの大きさかな」

彼女が指差したのは、三階建ての一戸建てだった。

「でかいじゃないか。オレが君たちの世界に迷い込んだら、すぐに死んじゃいそうだな」

彼女はニヤニヤしながら、ズバッと確信をつく回答をしてくれた。

「ああ、瞬殺だな。オマエ弱っちいからな。魔法も使えないし」

「遠慮のない、ご指摘どうも」

そんな彼女の表情が引き締まり、オレに関する問題を語り始めた。


「でもな、オマエの場合、別の問題がある。あの精液の異常に高い効能がバレた途端、大問題になる」

彼女は、真剣な表情で言うものだから、ちょっと不安になってしまった。

「精液なんかで、何が問題なんだ?」

オレにしてみれば、素朴な疑問だ。

「オマエは、私たちの世界を知らないから、何の問題もないと思うかもしれないが、金色に相手を輝かせる精液なんて、私たちの世界には存在しない」

「こっちの世界にだって存在しない。君との時が初めてだ。あの現象は」

「この世界の男達が全員持っている現象ではないのか?」

「そうだ。オレは君の方の問題で輝いてるんだと思っていたんだ」

「私の問題ではないな。とすると、私とオマエの相性の問題か・・・?」

「オレと君は、愛の絆じゃなく、精液の絆で結ばれているのか? ナンチャッテ~。ツッコめよ」

「私の世界の研究所の連中が黙ってないな。まず、研究所の魔法士が研究させろと押し寄せてくるだろう。解剖されるかもしれない」

「オレ死んじゃうじゃん」

「治癒魔法で治療してくれるから大丈夫だ。たまに手違いもあるようだが・・・」

「絶対やだ!」

「オンナ連中からも大人気になるぞ。オマエの周りは、キャーキャー言う女たちで、人だかりができるな」

彼女はニヤニヤしながら、意味ありげにオレに目線を送ってきた。

「なになに、オレって精液スター、精液アイドルってこと~? サインの練習しといたほうがいいかな?」

冗談めかして言ったが、頭の中ではしっかり、女の子に囲まれ、得意げになっている自分を妄想していた。

しかし、一瞬で地獄に落ちることになった。

「そしてオンナ連中に、拉致され一生幽閉さることになる。毎日毎日精液を搾り取られるんだ、家畜のようにな。搾り取るものがなくなると、処分されるだろうな」

ニヤニヤ顔はそのままに、雪女の息吹の様な冷ややかさで言われた。

オレを怖がらせることが、楽しいらしい。

「怖い!」

彼女はさらに続けた。オレの恐怖を煽って面白がっている。

「男どもは、オマエの精液に嫉妬するだろう。そして、オマエは男どもに袋叩きにされるか、最悪暗殺されるだろうな」

「君の世界って、変な奴ばっかじゃん。絶対行かねぇーぞ!」

「それだけ、希少価値の高い、魔力保有量を増幅させる効果のある精液だということなんだ」

オレの精液の重要性を、理解させたかったんだろうが、未だに魔力に関係することが、信じられないでいた。

「オレの精液が貴重だと言われてもな~。一文にもならないしな。複雑だな~。でもなんでそんなに、男性陣から嫌われなきゃならないんだ?」

「オマエみたいなやつが、ホイホイ女に精液をやってみろ。女側だけ魔力が増大することになり、女対男の魔力均衡が崩れるだろ。男どもがそんなこと許すと思うか?」

「この世界の軍拡競争みたいなもんか。そりゃ、黙って見てるわけにはいかないよな」

彼女たちの世界に行く気はないから、関係ないかと思っていたが、他の可能性を指摘された。

「もし万が一、私以外の者に遭遇した場合は、効能のことは黙っていろ。何されるかわからないぞ」

「君達以外にも、この世界にやってきた奴がいるのか?」

「私達が来れたんだ。他の奴らが来ていないとは、言いきれない」

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