第6話

「何故、武器を手放す?」

「はっ?」聞かれた意味が分からなかった。

「オマエは、私が敵ではないと確認したのか?」

おっしゃる通りです。失念しておりました。

外国人観光客には親切に、なんて感じで、完全に平和ボケしていました。

オレからは、彼女の顔に、呆れたといった表情が、見て取れた。

「ウソだ。いやこの場合、ジョーダンと言ったほうが適切な表現なのか?それともダジャレか?」

日本語の使い方が、とっ散らかってる様だ? 難しいからな、日本語。

「とにかく、オマエが私に、武器を向けるか試したんだ。向けたら殺そうと思った」

「どうやって?」自分がどうやって殺さるのか気になって、聞いてみた。

彼女はスッと立ち上がり、オレの目の前まで歩いてきて、オレをまじまじと見つめてくる。

その所作や動作を見ただけで、気づいてしまった。

自信に満ち、姿勢がよく、力強いのに、優雅な身のこなし。

それが自然とできてしまう、身体能力の高さをうかがわせる。

単純な力だけでも、オレの方が完全に格下だとバレているだろう。

オレのにわか格闘技程度では、彼女に膝をつかせることも、できないだろうな。

車まで行ければ、逃げられるかと考えていたが、甘かったようだ。


彼女がオレの顔の前で、左手で拳をつくり、人差し指を空に向けて伸ばした。

そして、腕を水平に伸ばしながら、その人差し指をゆっくりと、消防署裏手の道路に向ける。

オレの顔を見つめながら、いたずら小僧のように口の片端だけで笑みを作った途端。

指先から、大きな力が発射された。ガンッと音がして、ガードレールは簡単に千切れ飛んだ。

なんだありゃ?フリーザの親戚か!?

力の塊は、少し離れた木が密集して生えている、小山にすごいスピードでぶつかり、立派な大木が10本位なぎ倒された。

思わず、「ファー」と叫ぼうかと思ったが、間に合わなかった。

これは完全にオレは捕虜だな。逃げ出せそうにない。まいったな。

彼女は、(どうだ? 凄いだろ?)といった感じの得意げな表情が混ざった笑顔でオレを見つめている。

「超能力か、魔法が使えるのか?」

「魔法だな。さっきオマエの脳に使ったのも、魔法のようなモノだ」

今日は、朝から厄介なことばかりだ。廃人の相手をさせられ、町にボッチで。

挙句に、宇宙人だか異世界人に脳をビリビリいじくられて、魔法で脅されて、たまったもんじゃない。

「地球人じゃないよな? どっから来たんだ? 乗ってきた宇宙船は、どこに隠したんだ? この辺、駐車禁止だぞ」

「乗り物に乗って、やってきたわけではないんだ。敵の攻撃から逃れるために、空に広がっていた、亀裂ような空間に逃げ込んだら、この世界に迷いこんでしまった」

この世界に迷い込んだ? 別の世界から来たってこと? 異世界人ってこと? 興味深いな!

「時空のトンネルみたいのを超えて来たってことか?」

「さぁー、私もこのような現象に遭遇するのは、初めてなんだ。私にも、何が何だかわからないんだ。 

ここはどこなんだ? オマエは、ここでなにしてるんだ? この辺には、建物がたくさん見えるが、オマエ一人で生活しているのか?」

オレは、今日、朝から体験したことを、彼女に聞かせた。

「みんな、そこに転がってる兵士みたいな状態なんだ。オレの方も、何がどうなってるんだか、わからないんだ」

「・・・私は、分かるかもしれない」

「どうゆうことだ?」

彼女は、オレについてくるように告げ、歩き出した。

その先には、彼女と同じ種族と思われる女が、地面に寝かされていた。

「彼女は、私の副官なんだが、元の世界で同じ戦場にいた。敵の攻撃魔法を受け、このような状態になってしまった」

「この世界の人間と同じ症状だな。おかしくないか? 君たちのいた世界で起こった魔法なんだろ? なんでこっちの世界に影響してくるんだ?」

「確証はないんだが、さっき私が逃げ込んだと言った亀裂だよ。時空のトンネルだったか? それは、この世界と繫がっていた。

ということは、そこを魔法が通って、この世界に広がってしまったんじゃないかと考えている」

「どのくらいの広さが、やられるもんなんだ?」

「私も初めて見た魔法なのでな、曖昧な推測しかできないが、かなり広範囲だと思う」

東京のテレビ番組がやっていないのも、遠方の友達が電話に出ないのも、この魔法のせいなのか・・・?

はっ! 空に亀裂。今朝、SNSにあがってた写真や動画のことか?

日本では、夜だったのか。

もしかして、この国には本当に、オレ一人になってしまったのか? 他の国は? 他に生存者は?

「なんで、君とオレは、この魔法に影響されてないんだ?」

「私は、攻撃魔法を遮断する、シールド魔法で何とか耐えられた。逆に聞きたいんだが、オマエは、どうやって魔法を防いだ? 魔法が使える種族ではないんだろう?」

彼女が、訝しげにオレを見ている。

「自分でもわからない。そのうち、あの兵士たちと同じ症状が出るんじゃないかと、実はビクビクしてるんだ」

「いや、魔法に触れられた瞬間に、あのような状態になるはずだ。だから、オマエがこれから、後発的にあの状態に陥ってしまうことは、ないと思うぞ」

それが、本当なら一安心だな、・・ホッとした。

「その魔法でやられたというのなら、この症状を治す魔法はあるのか?」

「私のいた世界で、魔法術式を専門に研究している、魔法師達なら何かわかるかもしれないが。私は、戦士タイプなのでな、そういう知識は持っていないんだ」

「そうなのか・・・」

この症状については、今のところ、手の打ちようがないってことだな。

皮肉なことに、その魔法のおかげで、この世界は破壊されずに済んだのかもしれない。

核兵器で世界を蹂躙しようとした人間が、魔法で蹂躙された。ホント皮肉だ。

とりあえず、自分のことだな。1日1日をどう生活していくか、考えなきゃならない。

「君は、ここで何してたんだ。脳ミソをつまみにティータイムでもしてたのか?」

「右も左もわからない未知の世界に来て、すこしでも情報を得ようとして、ちょっと苛立っていたんだ。そこで、覗き趣味の男に出くわした訳だ」

「それで、オレにいきなり容赦なく、ビリビリキッスをかましてくれたわけね。」

「ああ、すまなかった。言葉も通じなかったし、あーするしかなかった。気絶するとは思わなかったんだ。この世界の情報を得るには、オマエしか見当たらなかったからな」

少し、申し訳なさそうにしていた。

彼女は、どうするんだろ? 彼女たちの世界に帰れるのか?


しげしげと、彼女を上から下まで眺めると、今更だが、膝から下にひどいケガをしている。

なんで今まで、気付かなかった?

美人の顔ばっかり見てたからだよ。

「そのキズ、火傷か? ひどいんじゃないか? 消防署行って、救急キットかなんか探してくる。」

消防署に走り出そうとすると、彼女に「待ってくれ」と、呼び止められた。

「魔法で治せるんだが、ちょっと問題があって、オマエに頼みがあるんだ」

スゲー!魔法で治せるの? 見てみたい!

「何、頼みって?」

「オマエの精液を私にくれないか?」

何言ってんの?この女!

もしかして、淫乱星人さんなのか?

あまりのことに、力なく「は?」と間抜け面で、答えてしまった。

オレにとっては、ものすごーく真剣で、重い内容の頼み事だと思うんだけど。

言ってる本人は、簡単な事を、簡単に頼んでいるような言い方だ。

日本語の、細かいニュアンスをまだ理解していない、可能性もある。

だけど、そこの醬油を取ってくれ、みたいに軽ーい頼みごとに聞こえる。

「セ、セックスしたいってこと?  もしかして、妊娠して子供をいっぱい作って、地球を征服する計画なのか?」

彼女は、ポカーンとした表情になってしまった。

「なんの話だ? セックスってなんだ? 妊娠とか征服は今関係ないだろ? 私は、ただ精液をもらえないかと、丁寧に頼んでるだけだぞ」

「この世界では、初対面の男に、精液頂戴なんて言い出す女は、いないんだ!」

「・・・そ、そーなのか?・・・」

あっちの世界の人と、こっちの世界の人が、それぞれ自分の世界を基準にして、モノを申しているので、まるで話が嚙み合わない。

彼女の方も、オレが途中で気絶してしまったために、言語情報までしか、脳に取り込めなかったようだ。

なので、この世界の情報や知識、文化や風習、慣習などは、彼女にはまだ理解するのは難しいらしい。

彼女の説明によると、こういう事だ。

どうやら精液は、車で言えばガソリンのようなモノらしい。

魔法の元、魔法を行使するための、エネルギー的なものになるようだ。

残量が減ってくると、大きな魔法が行使できなくなり、使える魔法の種類も減ってくるらしい。

一回の精液でどれくらいの魔力を獲得できるかは、精液の質や二人の相性、受け取る女性側のガソリンタンクの容量で決まるのだそうだ。

個々人の才能や資質でも大きく左右されるということだ。

ということで、彼女は、愛する相手とセックスがしたい訳ではなく、エネルギー補充のために、精液が欲しいだけのようである。

ところ変われば、精液の使い方も変わるもんなんだなー。

残念なことに、セックスという概念もないらしい。

こんな美人が、目の前にいるのに、ベッドで全裸パーティーが開催できないなんて、オレは、なんて不幸な境遇なんだ。

神様は、なんて意地悪なんだヨ!

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