第5話

やっと住人を見つけることができた。

三つの金属の塊のそばに二人、人型の種族の者が立っていた。


友を地面にそっと寝かせ、静かに二人の背後から近づいて行く。

足音を立てずに素早く走り、死角から距離を詰める。

一人目を蹴り倒し、そのすきに二人目を拘束しようとした。

しかし、その時、驚くべき事実に気がついた。

二人とも、自分の友と同じ症状だと。

どういうことだ? この世界の者まで、同じ症状だ・・、何故だ?

わからない事だらけだ! 

わからない事だらけで怒りが湧いてくる。

立っている二人目の者の胸ぐらを掴み上げ、乱暴に口づけた。

やはり脳がダメージを受けており、情報は何一つ得られなかった。

失望と怒りに任せ、胸ぐらを掴んでいた腕を振り上げ、口づけた相手を地面にたたきつけた。

少しは気が晴れた。

つぎに、最初に蹴り倒し、地面に転がっている者のそばまで行き、今度は、念入りに観察した。

あまり見かけない種族だ、初めてかもしれない。

股間を握る。性器はある。

この種族の精液が、魔法の元、燃料として作用する精液であることを願うしかない。

この男も、前の奴と同じ状態であろうから、期待薄だが試すしかない。

頭を鷲掴みにし、持上げて口づけた。結果は同じだった。

こいつらの脳がどうなっているのか、見たくなってきた。

指先に魔力を込め、頭の周囲をぐるっと一周させる。

頭のてっぺんをコンコンと叩き、髪をひっつかんで頭蓋骨を取り除く。

脳ミソのお出ましだ。

んー、見た感じ低スペックな脳だな。魔法を使える領域がないようだ。

魔法を使わない種族なのか?

それなのに、周りを見ると、技術力の高そうな建物がたくさんあるのが、不思議だ。

おっと、これは運がいい。こいつの血は赤だ。さっきの奴もそうだった。

この種族は、赤い血液の者が多いと助かるな。

私も赤だ。同じ色同士の血液だと、相性がいい。

指で血液をすくい上げ、口に運ぶ。味も似たようなもんだな。

これなら、高い効能の精液が得られるかもしれない。

その時、気配を感じ、ハッと目線を挙げる。

隣にある金属の塊の陰からこちらを窺う、興味深々の目とぶつかった。

その目は、自分と目が合うと狼狽した。

まともに生きている奴ということだ。

うれしいぞ。「やっと、見つけた。おまえの脳に用がある。」




ナンだ? 何をやっているんだ! あの女は!?

地面に屈みこんでいるその女は、倒れている兵士の頭部・・・?。

ンッ? 髪がない。あれって、脳ミソじゃないのか!?

女は、兵士の脳をまさぐっていた。そしてまさぐっていた手を自分の口元にもっていった。

(ゲゲッ! 喰っているのか? 人間の脳を!)

驚きすぎて腰が引け、パニック寸前だ。どうする逃げるか? どこに? 

眼が宙をさまよってオロオロしてしまったオレは、眼を女に戻した途端、身体が凍り付いた。

ウッ、気づかれた! 銀の前髪の隙間から真っ赤な瞳がオレをみつめていた。それも知性を宿した涼し気な瞳で。

赤い瞳だって?人間じゃないのか? 

み、耳、とんがってるぞ! バルカン星人か?

みんながおかしくなってんのは、細菌兵器じゃなくて、宇宙人の侵略なのか~?

戦うか?このバットで。ウォーキングデッド仕様のバットに改造しとけばよかったな~。

いやいやちょっと待て、今は文明が崩壊したような有様なんだ。

こんなところでケガなんかしても、病院なんてやってない。

ケガしてもバンドエイド貼るくらいしかできないし、気安くケガなんかできないよな~。

よし!見なかったことにして堂々と立ち去ろう。

反対方向に向きを変えようとした瞬間、オレの横顔に風があたった。

「なんだ?」

視線を上げたら、赤い瞳の女が目の前に立っていた。

「ギョエ~~!!」 どうやったらあの一瞬でオレの前まで回り込めるんだよ?

思わず叫んでしまった。 

その声に女もビックリして、少しのけ反っていたが、急にしゃべり始めた。

「***********」 「###########」

ン? ンン? オレにはまったくわからん! 

英語じゃないし、聞いたことがない国の言葉のようだ。

とりあえず、「こ、こ、こんに、ちわ。観光ですか? 長寿と繁栄を。」と返して、バルカンサリュートをやろうとしたが、無器用なオレは失敗した。

お互いの言葉が通じないのは、女にも分かったようだ。 

しゃべるのをやめて、行動に出てきた。

女は俺の背中まで腕を回し抱き寄せてくれた。普通ならうれしいシチュエーションなのだが・・・。

力強いハグだ。・・・あれっ?バットを持った右腕が動かせない。

ウソだろ!? 女の力が強すぎて、オレは身体を全く動かすことことができない。

どうなってんだよこの女、ホントに宇宙人か~?

さらに怪力で、オレの後頭部を女の手が掴んで、強引にキスされた。 

ディープなやつだ。

やばい、これは生気を吸い取られてミイラにされちゃうやつか~?

と覚悟したが、吸い取られる様子はなく、女はオレの口の中に舌までねじ込んでくる。

アレ? これはごちそうさまのシチュエーションなのかな?

気が動転していて冷静に吟味したわけではないが、女は美しかった。

今日は人生最大のラッキーデイだ~、と思ったのもつかの間。

甘かった。罰ゲームの日だった。

口腔から脳にかけて電流がビリビリと走った。

意識が段々と遠のいていくのがわかった。


頭が痛い。というか、すっごいビリビリする、と感じながら目が覚めた。

昼間の太陽の眩しさで、ショボショボさせながら目を開くと、オレは地面に寝かされていた。

オレの右脇に、地面であぐらをかいている、さっきのビリビリ女がいた。

どうやら、殺されはしなかったらしい。

オレは、女がいなくなるまで、寝たふりしようかと考えていたが、女と目が合ってしまった。

「やっと、目が覚めたか?」

えっ? 日本語? 「なんだよ、日本語喋れるんじゃないか」

「ああ、今勉強させてもらった」

「今?」 

「そう、今だ」

「今って、どういうこと? なんでそんなすぐ、話せるようになるんだよ?」」

「さっき、キスをしたときに、オマエの脳から、言語の情報や知識を譲ってもらったんだ。もっとこの世界の情報をもらおうとしたんだが、オマエ、気失って倒れちゃったから、途中で接続が切れてしまった」

オレは、頭痛に悩ませられながら、何とか身体を起こし、女の対面にあぐらをかいた。

脳から情報を取るだって? そんなことできる奴は、人間じゃないよな。

変な奴に絡まれちゃったな。

まあいいや、どうせ核戦争で長生きなんて、できないだろうし、オレもすぐに、ギョロ目の死んだ魚状態になっちゃうかもしれない。

拷問とかは、ヤダけど、宇宙人なら楽に殺してくれるだろ。

残り少ない人生を宇宙人相手に、トワイライトゾーン体験をするのもいいかも。

それにしても、なんでこんな長野の田舎にいるんだか、身の上話には興味あるな。

「さっきの脳天ビリビリキスでそんなことができるんだ。まだ頭痛が治らないよ。」

「頭痛で済んでよかったな。魔力流に対応していない脳だと、最悪爆発だ」と涼しい表情で答えを返してきた。

脳が爆発だって!? この女、頭のネジ2~3本ぶっ飛んでんじゃないのか?

「そんな危ない事、いきなりオレで試したのか?」

「そっちに、倒れている者達で試したから、大丈夫だろうとは思っていた。気絶したのは、予想外だったが。」

「頭痛どうだ? 大丈夫か?」とオレの顔に、真正面から彼女が顔を近づけて聞いてきた。

ドキドキしてしまった。超アップでも美人だ。

普段は使わないが言葉だが、キレイとかカワイイを超越して、美しいという言葉を、わざわざ使いたくなったしまう。

この世界でみると、北欧系とかウクライナ系の色白の美人といった感じかな。

でも、眼や眉には、厳しさや力強さの表情も宿っていて、できる女性といった感じだ。

年の頃は、オレと同じくらいかな?

何とか、彼女の顔から視線を引きはがし、気が付いた。

なんと首から下は、マッチョだ。固そうな筋肉質な体型だ。

オレ的には、柔らくて滑らかな曲線が好みなんだけど・・・。

その時、彼女が両手で何かを玩んでいるのに気が付いた。

銃だ! 

銃でオレを嚇すという事ではなく、手持ち無沙汰なのか、両手でただ転がしている感じだ。

あぶないあぶない! 暴発したら、どうすんだよ。

どっからそんなもん持ち出してきたんだ?

兵士が転がってたな、そいつらからか。

兵士の持っていた銃なら、安全装置が必ずかけてあるとは思うが・・。

銃をよく見ると、これは安全装置が、独立したレバーになってるタイプじゃない。

トリガーについてるタイプだ。

女がいじくってる間に、偶然トリガーを奥まで引いてしまうと、発射されてしまう。

しかも、持ち方が分からないのか、変な持ち方をしており、銃口が彼女の方に向いている。

「あのー、それ危ないよ。死んじゃうやつだから、それで遊んじゃダメだ。貸して。」

オレは、そぉーと、手を彼女の持っている銃に近づけ、ゆっくりと彼女の手から銃を取り上げる。

彼女は、抵抗することなく、渡してくれた。

オレは、立ち上がり、倒れている兵士に向かって歩ていき、銃をホルスターに戻した。

すると、彼女が聞いてきた。

「それは、武器ではないのか?」 

「そーだよ」

「何故、武器を手放す?」

「はっ?」聞かれた意味が分からなかった。

「オマエは、私が敵ではないと確認したのか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る