第4話

前を見ても、後ろに振り向いても、反対車線を見ても、見通しのいい4車線の国道には・・・。

「オレだけだ・・・、なんだよここは、ラクーンシティか!?」

ガラガラの道路だというのに、ゆっくりと車を走らせ、周りを見回し人を探す。

なんか超怖くなってきた。一人も見つけられない。車もまだ1台も見かけない。

なんか呼吸が苦しい。えずきが止まらない。

何をしたらいいのか、わからない。何を考えたらいいのかも、わからない。

ガンバレ、オレの脳ミソ! ガンバレなかったので、当初の予定通り

嫌な予感しかしないが、ダラダラと走りながら消防署を目指した。


10分ほど走って消防署に着いたが、結局ここまで、誰一人とも出会うことはなかった。

消防署の建物は、シーンとしている。

車を降り、車のトランクを開ける。

おっかないので、丸腰は不安になってきた。

トランクをガサゴソあさり、7番アイアンか、バットかで悩んだが、バットで武装することにした。

結論から言ううと、消防署は役に立たなかった。

消防車両の横に、あの目をした消防士を見つけた時点で、諦めた。

署内に人がいるにしても、どうせ同じ状態なんだろう。

自分の車まで戻り、バットを肩に担ぎ、ため息を吐きながら辺りを見回す。

(なんなんだ? 町が総出でドッキリしかけてんのか?)

(オレ、ホントにボッチなのか? ここでソロ町生活しなきゃいけないの?)

(ボッチになっちゃたら、町のインフラとかどうなんのよ?)

(オレはあのへんな目の病気にならないのか? あーー、どたまがクラクラするー)

(なるにしても、ならないにしても、死ぬまでは、生きなきゃならないよな~。どうすりゃいいんだ~。)

(日常生活には、食事・風呂・睡眠・トイレ・電気・燃料とかが必要だよな。)

(ハッ~ァ、そんなもんどうやって調達するんだよ・・?。)


とりあえず腹が減った。そういえば、朝飯を食いそびれていたんだった。

国道の向こうにコンビニがある。

ちょっと待って・・・、もしかしてオレしかいないのなら、あのコンビニの品物を全部オレが喰っても、誰にも文句を言われないってこと・・ですか?

厳禁なもので、少し元気が出てきた。

それでは、明るく強盗に、じゃなくて無料の買い物に行くとしますか。

自動ドアが開き、店内に入るがいらっしゃいませとは言われない。

代わりに、例のまっすぐでつぶらな瞳の店員さんがいらっしゃったので、右手を挙げて満面の笑みで挨拶をするが、きれいにスルーされた。

もうこの手の人たちには慣れた、生きてる人間に会ったほうがビックリするんじゃないだろうか。

品物を見ていて思ったのだが、腐るものは食べてしまうか、冷凍にするか。

日持ちのするものは、後々のためにストックしておくことにした方がよさそうだ。

両手のカゴに食料をいっぱい詰め込み、スキップして店を後にしようとした時、ビックリした。


生きてるっぽい人を見つけたからだ。銀髪で場違いなボンテージみたいな服装の女だと思う。

消防署横の敷地に、訓練用スペースがある。そこに軍の装甲車が3台駐車されていた。

その装甲車の脇に兵士が2名立ってており、女はその兵士の様子を窺っているようだ。

オレは、装甲車を盾にして、女の視界に入らないよう、国道を大回りして横切り、小走りで、自分の車まで戻った。

買い物カゴを車のわきに、そーと置き。車に立てかけてあったバットに持ち替える。

女は、3台縦に並んでいる、真ん中の装甲車の横で、何かしている様子だ。

装甲車と地面の隙間から覗くと、女がこちらに背を向けて屈みこんでいるのが分かった。

静かに近づき、一番手前の装甲車の陰から女の様子を窺う。

・・と驚きで思わず声を出しそうになり、装甲車の陰に隠れ直した。

女は、死んだ魚の目をして倒れていた兵士の頭を、左右から両手で鷲掴みにして持上げ、キスをしていた。

わぁ~、死体系に性的魅力を感じちゃうタイプなんだ。

交際を申し込むのはヤメテおこう。





かたい地面の上で、目を覚ました。

どうやら道の真ん中で倒れていたようだ。

オレンジの線が引かれている。

膝から下に火傷をおっていて、ひどく痛む。

島大陸から迫ってきた、火炎から逃げ切れなかったようだ。

治療魔法で治せないことはないが、自分の中の魔法残量が、心もとなくなってきている。

いつ戦闘になるかわからない現状では、むやみに残量を減らす愚は犯せない。

痛みは我慢して、無視することにした。

その他には、大きなケガはなく安心した。

飛行魔法に付加させた、地面に接近すると、自動で着地する魔法が発動したようだ。


傍らに友を見つけ安堵したが、状態は変わっていなかった。

目を見開き、一点を凝視し、意思の宿らない目。

友の顔を正面から見据えても、何の表情も現れてこなかった。

胸に耳を押し当ててみる。鼓動は聞こえるが、とても遅くそして弱々しく、すぐにでも止まってしまいそうに思えてしまう。

彼女は、同郷の幼馴染であり、私の副官を務めてくれていた。

副官という以上に、共に多くの時間を一緒に過ごす友人だった。

私以上にケンカっ早く、二人で男どもをぶちのめし、朦朧としている男から、よく精液を頂戴していた。

そんな友だからこそ、今回の戦争にも何も言わず、共に参戦してくれた。

その結果が、こんなことに。

友の胸に顔を埋め、すまない、すまないと何度も心の中で詫びた。

確かめなければならないことがある。

友に口づけし、魔力流を彼女の脳に流し込む。

彼女の脳から、情報や記憶を得ることはできなかった。

また、彼女から自分にむかって、魔力流が流れ込んでくることもなかった。

友の脳が、活動していない、ということが分かってしまった。

何としてでも助けたい! だが自分は、治療が専門の魔法士ではない。

私程度の治療魔法では、脳にまで効果を及ぼすことは、期待できないだろう。

今の自分では、何もしてやれない。

悔しくてしょうがない。不甲斐ない自分が腹立たしい。


歯がみしながら、どうすればいいのか考える。

考えるが、ここがどこかなのかも全く分からない。

ここのような街並みを見たこともないし、聞いたこともない。

どのような種族が住んでいるのかも、まったく想像できない。

自分の今までの経験からすると、大変異質なものに見える。

ここの住人が魔力流に対応しているかどうか、分からないが、住人から情報を吸収し、今後の行動方針を決めねばならない。

自分の魔力残量は、飛行魔法が使えるほどの残量も残っていない。

どこかで、魔力を補充できる精液を見つけられないだろうか・・。

赤い血を持つ種族なら、相性がいいのだが・・。


それにしても、こんな真っ昼間なのに、住人を1人も見かけない。

こんな状態が、この世界では普通なのだろうか?

とりあえず、住人を探すために、友を肩に担ぎ、歩き始める。

そして、異質なこの世界に、迷い込む原因となった戦闘を振り返る。


島大陸から発せられたあの魔法は何だったんだろう?

魔法を防げなかった者達は、一瞬で人としての意思をはぎ取られ、呆然と立ち尽くし、廃人と化していた。

規模からすれば個人の魔法というより、魔道と言ったほうがいい。

それも、自分たちの船団だけを狙ったものではなく、世界を覆いつくすことが目的だったのではないか?

それほどの規模と出力となると、1人や2人の魔道士では不可能なはずだ。

あ~・・、魔道の勉強は、サボり気味だったから、このくらいの想像が限界だ。

ちゃんと、授業を受けておけばよかった。

それと自分が最後に見た、眩しい閃光と大きな雲、そこから発せられた火炎。

あれは明らかに、魔法ではなかった気がするのだが・・。

逃げることに必死で、今一つ定かではない。

などと考え事をしていたら、通り過ぎてしまうところだった。

やっと住人を見つけることができた。

三つの金属の塊のそばに二人、人型の種族の者が立っていた。

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