第2話

船団の先頭集団付近、その中の一艘、船の舳先に、銀髪をサラサラとなびかせている女戦士が立っていた。

彼女は連合軍の中でも有名な戦士ありで、多くの戦争や抗争、魔獣討伐で勇名を馳せてきた。

そんな彼女は島大陸からの侵略戦争に、特別強い憎しみを持っている。

長い年月の間に、彼女の家族、友人、部下など、近しいものだけでも1000人以上の者を殺され、復讐を心に刻み続けてきた。

黙って前方を見つめている、その赤い瞳をもつ眼には、挑みかかるような荒々しい復讐の炎を剝き出しにしていた。

しかしその姿は、風にたなびく銀色の髪と美しい顔立ちによって、神話に登場する戦女神と見紛うばかりの美しさを体現していた。

銀髪は動きやすさ重視なのためか、肩にかからない位のところで切り揃えられいる。

彼女の種族の特徴である耳、上部が先端に行くほど尖っている耳は、種族の中では小さめだ。

身体は、女性らしい曲線ではなく、ボディビルダーのような固く引き締まった筋肉をまとっている。

今は、筋肉、神経などを彼女が得意な高速格闘向きの身体構成に、魔法でメイキングしているのだ。

その身体には、漆黒の戦闘用ボディスーツを着装し、白い両腕だけがむき出しになっていた。

それは、戦闘のために生きていると言っても過言ではない彼女のために、動きを妨げないように作られたもので、彼女の戦闘スタイルに合わせたものであった。


そんな彼女の背後からもう一人の女戦士が近づき、彼女の肩に優しく手を置いた。

振り返った銀髪の女戦士は、友であり信頼する副官でもある、女戦士をみとめると目元をゆるめた。

優しく涼し気な表情に戻り、友を見つめる銀髪の女戦士は、小さな笑みを浮かべ、友に口づける。

唾液にまじり魔力流も流れるが、常のことなので二人は気にしない。

彼女たちの種族は、各々の魔力を共有し合うことで、お互いを感じ合うことができた。

名残り惜し気に唇を離した二人。先に口を開いたのは友の方だった。

「男どもは大丈夫だって言ってるけど、間に合うと思う?」

「男連中の言うことだから、当てにできないんじゃないか?でも間に合わなければ

私らは、傀儡にされちまう。いいとこ奴隷か、悪けりゃ食料扱いだろ」

言い終えるやいなや彼女達2人は、島大陸方面に視線を戻すと同時に顔をひきつらせた。

すぐさま後方に向き直り仲間達に向かって大絶叫した。

「シールドォォォォォォ!!!」

彼女達は、島大陸方面からの攻撃魔法の脈動を察知し、各人がシールド魔法を全力で展開する。

しかし、攻撃してきた魔法の出力に舌を巻いた。

(あまかった、速度は大したことないが、これほどの出力が出せるとは、これでは

仲間の大半がシールドを容易く突き破られてしまう)

彼女たちの予想は残念ながら正しかった。

魔法に気づけなかった者、シールドが間に合わなかった者、能力値が低くシールドを魔法に貫かれた者が大多数に及んだ。

敵の攻撃魔法は、彼女達の種族にとって、想像を遥かに超える驚愕の出力であった。

それは銀髪の女戦士にとっても同様であり、シールド魔法が不得手な彼女は、目をつむり、死を覚悟した。

そんな中で、副官である友は、銀髪の女戦士の腕を握りしめ、魔力を送っていた。

それは、銀髪の女戦士のシールド魔法の耐久値を大きく上昇させるための魔力注入だった。

「バカ!そんなことしたら、オマエが・・・」と、友を切羽詰まった目でにらみつける。

しかし友は、満足げな微笑みを浮かべ、「また会える」と一言発した瞬間、微笑みは凍り付き、唇から聞きなれた声を発することもなく、人間としての表情は剝ぎ取られた。

「イヤ~ァァァァァァァ~~!!!」

友の異常を受け入れることのできない銀髪の女戦士は、必死に友の肩を掴みゆすぶり続けた。

しかし友は、何をされても瞳に意思を宿すことはなく、呆けたようにあらぬ方向を凝視したまま固まり、彼女のことを見つめてくれることはなかった。

彼女は友を抱きしめ、侵略者の本拠地がある島大陸を、涙があふれる目でにらみつける。

「殺してやる、お前ら全員殺し・・」しかし彼女は最後まで言うことができなかった。

彼女がにらみつけていた島大陸の上空に、黒いシミのような亀裂がひろがっていたらだ。

(えっ?、あれはなんだ・・?)考えを巡らせていると、足元が大きく傾いた。

多くのの人員を失った魔法船は、魔法による操船制御が不安定となり大きく揺れ始たのだ。

これ以上の制御は不可能と判断した生存者たちは、船を捨て逃げ出した。

彼女も友を抱きかかえ、魔法を駆使し上空に退避する。

そして気が付いた。自分たちの上空にも、いつの間にか黒い亀裂が広がっていることを。

(なんだ?黒い・・空間?)

島大陸に目を戻すと黒い亀裂は小さくなり消えかかっていた。

すると黒い亀裂があった辺りの島大陸の上空で、閃光が閃いた。

彼女はすぐ理解した。自分の魔法シールド程度では、どうこうできる熱量でないことに。

莫大な熱量が島大陸を飲み込みさらに拡がっていく。

彼女は死を覚悟・・二度も死を覚悟・・二度も負けることを、彼女のプライドが許さなかった。

ここに留まって確実に死ぬくらいなら・・。

持てる魔法力のすべてを飛行魔法に注ぎ込み、全力突破の飛行速度で必死に黒い空間を目指す。

そして、友の身体を強く抱きしめ、迷わず暗闇の空間に飛び込んだ。





どうやら昨晩は、幸か不幸か生き延びたようだ。

もっと寝ていたかったが、虫歯がうずいて、目が覚めてしまった。

まったく戦争なんて始まったもんだから、歯医者にも行けない。

コーヒーメーカーをスタートさせ、TVをつける。

炒めるのがめんどくさいので、卵を小さなボウルに割入れラップをしてレンジへ入れようとしたが・・。

ン・・・? テレビから音声が聞こえない。

背後のTVへ目をやると、情報番組のスタジオは映っているが出演者が、誰もいない。

そのまましばらく見ていても、同じスタジオを映しているだけだ。

お気に入りの女性アナウンサーも、出てくる様子がない。

チャンネルを変えてみると砂嵐状態、放送もしていない。

次のチャンネルも、その次も同じだった。

東京が核攻撃されたかと思った。

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