商業国家フォルガン
スキル:【災禍襲来】
取得条件:24時間戦い続け、かつ100の強き魂
を奪う事。
効果:戦いの最中は疲れを知らず、そのマガは尽
きる事は無い。
この【災禍襲来】というスキルの理解が深まった。と言うよりは効果がどんな意味を指しているかが理解出来たと言っていい。
サーベルタイガー3匹を倒してから2日経った。その間ずっとトレーニングもしていたし筋肉痛も味わった。そして何度も魔物と戦った。結果はサーベルタイガーの時と全く同じく、それまでの筋肉痛や疲労は嘘のように無くなり、スキルもいくら使ってもマガが尽きる事は無かった。
ではそれはどういう事か?
「疲れを知らず」「マガが尽きる事は無い」とは何なのか?それはおそらく「最大値まで回復する」と言う事の様だ。しかも尋常じゃ無いスピードで。だから戦闘が始まるまでに減っていた体力もマガも戦闘が始まった瞬間に最大値まで回復しているのだろう。ここで重要なのが、あくまで「最大値まで回復する」と言う事だ。つまり、例えば今現在の俺のマガの総量では使用するのに足りない様なスキルがあったとしたら、それはいくら【災禍襲来】が発動したとしても使う事が出来ないはずだ。良く考えたら当たり前だ。必要量のマガが失われる前に俺のマガが空になり、スキルが不発に終わった後に最大値までマガが回復する訳だから使えるはずが無い。
そして「疲れを知らず」と言う事だが、それは体力や疲労が回復する、と言うだけで傷が治る訳じゃない。その証拠にたくさんの切り傷や擦り傷はそのままだ。そんなに都合のいい話は無い訳だ。傷を癒すスキルやアイテムなんて物はかなり希少価値が高い。実際俺も話に聞いた事があるだけで、そんなスキルを持っている人間が本当に存在するかどうか知らないほどだ。じゃあ筋肉痛って疲労なのか?なんか違う気もするんだが……。まぁスキルなんてそれぐらいあやふやなものだ。
俺はこの2日間、トレーニングをし、山道を走り込み、魔物と遭遇する度に回復し、またトレーニングと走り込みをすると言う、自分で言うのも何だがイカれた時間を過ごした。
日中はそんなハードな時間を過ごしただけあって、夜はすぐに眠りに落ちた。幸いに寝てる間に魔物に襲われる事は無かった。昼間に遭遇した魔物もかなり弱い魔物だった。そもそもがこの辺りには手に負えない様な強い魔物はいなかったはずだ。千魔夜行、あれが異常なだけだったんだ。もしかしたら元々この辺りの魔物の数はそれほど多く無かったのかも知れない。そこへ来てあの異常な強さの魔物が大挙して押し寄せて来たのだから、弱い魔物は逃げたか蹂躙されたかしたのかも知れないな。
そして4日目の昼、山道の向こうに大きな壁が見えた。
「あれがフォルガンか。10年前に母さんと村にたどり着く前に立ち寄ったのが最後だったな。あんなんだったか?」
普通なら5日かかる道だったが、どうやら走っている時間が多かったらしく1日ほど早く着いた。特に急いでいる訳では無いのだが。
10年ぶりに見る、街全体を囲う城壁は大きく、ここからでは端が見えない。高さも高く空を飛べる魔物じゃないと越えるのは無理そうだ。空を飛んだとしても、城壁の上には弓矢や魔法の使える警備隊が居るだろう。じゃなかったら油断し過ぎだ。
俺は走るのを止め歩いて城壁へと向かう。何事も無いのに走って城壁まで近寄って来る奴なんて不審者以外の何物でも無い。
「んん?油断し過ぎの方だったか?」
近づくにつれ、城壁の警備の手薄さが見て取れた。城壁の大きな門は開いたまま、その両端には門番の様な兵士が2人。しかし門番の割には装備はかなり軽装。門番のイメージとしては襲い来る敵を迎え撃つ重装備な騎士のイメージだったけど、この2人はどちらかと言うと斥候の様な軽装だった。そして城壁の上には見える限りでは兵は3、4人程度。その兵もまた軽装で弓矢の一つも持っていない。どちらかと言うと警備と言うよりは見張りに近い。
山道を下って少し開けた平野のすぐ先に城壁の門があるって、そもそもがずいぶん不用心なんじゃないか?もっと周りに堀があったりする物なのかと思うんだが?確かフォルガンは自前の騎士団はそこまで大規模な騎士団じゃ無かったはず。商業国家と言うだけあって、ある程度の事はその潤沢な金でどうにかするんだって聞いたことがある。兵が必要なら傭兵や冒険者を雇い、それでも足りない時にはあまり口には出せない様な裏稼業の人間も雇うと聞いた。それでも国を護る事が出来るならそれで良いのだろう。
フォルガンの商業国家としての成り立ちは、原初のダンジョン、その名もフォルガンにあると言う。
原初のダンジョン。普通のダンジョンはボスとなる魔物が作り出した物で、そのボスが倒されれば、その中に居た魔物もお宝も資源も全て、跡形も無く消えてしまう。それに対して原初のダンジョンは太古の昔からそこに建造物として存在し続けている。ダンジョンと言うよりは遺跡に近いのかも知れない。
原初のダンジョンにはボスは存在しない。つまりそこはどれだけの魔物を生み出そうと、どこから現れるか分からない、尽きることの無いお宝が出現しようと、そこに存在し続けるという事だ。それがどれだけの恩恵を生み、どれだけの人間を惹き付けるのか、商売に疎い俺でも簡単に想像が付く。
しかし原初のダンジョンか……。原初のスキル……何か繋がりがあるんだろうか?
そんな事を考えながら歩いていると、どこから来たのか1台の馬車が横を走り抜けた。その馬車は数人で乗り合わせてして来ていたらしく、中からぞろぞろと人が降りてきた。その身なりは見るからに冒険者だろう。お世辞にも綺麗とは言えない粗暴な鎧を着込んだ戦士が3人、その後ろからローブや法衣の様な物を着た、そこそこ小綺麗な魔法使い風が3人、そして弓矢を携えた人間が2人。パーティを組んでいたとしたら2組のパーティと言った所か?そしておそらく全員が人間では無いな。戦士の3人はあの毛と耳からしてオオカミや虎の獣人だろう。魔法使い達もあの小柄さからいってノーム辺りだろう。弓使いは完全に猫の獣人だな。そしてそれぞれに背に荷物を担いでいる。まぁ普通は野営の道具や身の回りの物は鞄に入れて持ち歩くか。遺物のお陰で手ぶらな俺が普通じゃないのか。にしても戦士の3人が担ぐ鞄はずいぶんと大きいな?
馬車を降りた冒険者達はひと足先に門番と話している。近づくにつれその会話を聞き取る事が出来た。
「もちろんだ。我が国フォルガンでは腕利きの冒険者なら大歓迎だ。それが金目当てでも名を売りたいためでも問題は無い」
「分かりやすくていいじゃねぇかぁ~!こりゃあ俺らもやりやすい、なぁ?」
虎の獣人が下卑た笑いとともに後に続く冒険者を見やる。すると残り全員がニヤニヤと、これまた下品な笑みをこぼす。なんだ、じゃあこいつら全員同じパーティなのか。そしてあの虎男がリーダーなのかな?
「まぁ俺らは全員ランクイエローだからな!即戦力ってやつだ!安心してくれやぁ!」
虎男は次は豪快に笑い飛ばす。てかイエローなんて俺より下だろ?一般的な即戦力ってそんなもんなのか?
「おおっと、こりゃ待たせちまってるみてぇだな、坊や。ささ、次はあの坊やだからチャチャッと通してくれや。別に危ねぇもんも持ってねぇからこのまま通っちまっていいだろう?」
虎男が顎で俺をさす。失礼じゃないか?
「あぁ、そうですね、あなた達パーティはこのまま進んでいただいて結構です。特に手荷物の確認も……いいでしょう」
「だとよ坊や。良かったな」
下卑た笑いを俺に飛ばしてくる。
「別に急いじゃいなかったけど」
「あぁん?人の好意を……」
「バナ、いいからいくよ!」
虎男をバナと呼んだ猫女の弓使いに背中を押され、バナとやらが渋々中へと進む。
「えぇーと……じゃあ次の君、なんだ?手ぶらか?何しにフォルガンへ来たんだ?」
「ああっと……俺は山の向こうのソナ村から来たんですが……旅に出たんですが、まずはフォルガンで色々揃えようかと思って」
「そうなのか……こんな時にね」
「こんな時?」
「あぁ、タイミングが悪いと……」
門番が言葉の途中で俺の後ろに視線が移る。
なんだ?
俺も、先を歩いていた虎男達も後ろを振り返る。すると少し先に虎男達をここで降ろした馬車がすごい速度でこちらに戻ってくる。しかも御者は恐怖と焦りでいっぱいの形相で必死に馬に鞭を振るっている。
「何があったんだ……?」
門番は身構える。それは戦う準備と言うよりは逃げる準備の様に見える。
すると頭上から壁の上の衛兵の怒鳴り声が聞こえた。
「魔物だ!魔物の群れだ!来たぞ!すぐに知らせろ!」
魔物だって?しかも群れ?そう言われて向かってくる馬車の後ろに目を凝らしてみると、確かに土埃が舞っている。
あれは確かに群れだな。
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