援軍

「あ、あんた達!傭兵志願の冒険者だろう!?あれをここで食い止めててくれ!」


 門番は虎男達にそう叫ぶと一目散に門の中へと走り去って行った。なるほど、そのための軽装だったのか。


「ちっ!来てそうそうなんでこんな事によぉ!」


「悪態ついてる暇はねぇぞ!さすがに逃げる訳にも行かねぇだろう!?ここで逃げたら雇われるどころか、そんな腰抜けなんて中にも入れてもらえねぇだろ!せっかくの儲け話なんだぜ!」


 あ、そうなのか?腰抜けは入れてもらえないのか。それは困るな。とは言えまいったなあ、村で拾った槍も使い果たしてしまったし。上手いこと虎男達だけでどうにかならないかな?

 そうこうしている間に馬車は俺たちの横をもの凄い速度で走り抜けて行った。馬も相当怖かったんだろう。そして土埃の正体がハッキリと見えてきた。あれはホーンバイソン?だったかな?簡単に言うと大きな角が生えた大きな牛だ。あれぐらい即戦力なら楽勝だろう。


 まずは猫の獣人達と壁の上の衛兵の弓矢がホーンバイソンに向かって放たれる。見事に命中、と言うよりあの密集した群れならそりゃどこかには当たるか。しかし一向に群れのスピードが落ちる様子も無い。


「あの数じゃ……!そんなダメージは与えられないよ!」


 おいおい、何かしらのスキルぐらい無いのか?


「ちっ!おい!マタ!火属性魔法だ!」


 なるほど、それは効果的だ。


「わ、わかったよ!」


 マタと呼ばれた小柄な魔法使いは杖を構え集中する。


「ファイアピラー!」


 スキルの名を叫ぶと構えた杖の先から火球が放たれ迫ってくるホーンバイソンの目の前に落ちた。地面に弾けた火球は一気に燃え上がり、大木ほどの炎の柱が立ち昇った。


 ホーンバイソンは炎の柱に驚き、先頭を走っていた者が前足を大きく上げもんどり打って地面に転がった。その周りの数頭も同じく驚きで体制を崩した所に、後続の速度を落としていなかったホーンバイソンが衝突、さらにはその後ろのホーンバイソンがそれらを踏み転倒する。なるほど、確かに効果的だったな。これなら接近戦に持ち込める。


「行くぞオラァ!!!」


 虎男が駆け、それに狼の獣人2人が続く。その手にはそれぞれ大振りなロングソードが握られ、接近するなりホーンバイソンの頭をかち割った。だがホーンバイソンは血気盛んな魔物なので数頭やられたぐらいでは怯む事は無い。次々と3人に襲いかかる。

 優勢、ではあったが徐々にその数に押され初めている様だ。後衛の仲間達も迂闊に矢を放てばあの乱戦、仲間の獣人達に被害が及ぶかも知れずただオロオロするばかり。即戦力って言うぐらいだから歴戦の冒険者かと思ったのに、どうやらそうでは無かったようだ。


「おい!少しそっちへ行っちまったぞ!何とかしろ!」


 あー、ついに取り逃したホーンバイソンが数頭乱戦を抜け、標的をこちらに変えて突進して来た。


「うわ……!うわわ!」


 焦る弓使いは狙いが定まらず、オロオロする魔法使いはなぜか杖をぶんぶん振り回すだけだ。いつも前衛に守られるだけで自分達に魔物が襲いかかる事なんて無かったんだろう。それで即戦力か?

 結局ダメージも与えられないまま3頭のホーンバイソンが目の前に迫ってきた。


「ひっ……ひぃぃ!」


 後衛全員が頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。さすが冒険者、心持ちが違うな。


 【サラウンドスクエア】


 突進して来るホーンバイソンの目の前に見えない壁を作ってやると、ホーンバイソンは無防備に頭から突っ込み、自慢の角を機能させる事も無く首を明後日の方向に曲げ地面を転がった。さすがにホーンバイソンの突進だけあって、一発でサラウンドスクエアは砕けてしまったが。


「え?え?」


 転がるホーンバイソンを見て魔法使いが戸惑う。だか惚けているのも一瞬、さらに2頭のホーンバイソンが突進して来る。


 【オーラクロー】


 手持ちの武器が無いならこれだな。俺は両手にマガで出来た爪を纏い突進してくるホーンバイソンに向かって駆け出す。


 【アースニードル】


 地面から突き出した土の棘がホーンバイソンを襲う。大した威力は無いが足止めするには十分だ。


【裂旋爪】


 俺は2頭の間を走り抜けながら両腕で一度に切り裂く。首から一直線に尻まで深く抉られたホーンバイソンは2頭とも前足を折り、地面に崩れ落ちた。


「大丈夫か!?お前ら!」


 いつの間にか前衛3人もこちらに戻って来ていた。と言うよりは一旦退いて来たという方が正しいのかも知れない。


「え、えぇ……私たちは大丈夫。あの子が倒してくれたし……」


 視線が俺に集まる。


「坊や……なかなかやるみたいじゃねぇか」


 俺はぺこりと頭を下げる。


「とは言ったってよぉ……こいつはまずいだろうよ……さすがにあの数は無理だぜ……」


 ホーンバイソンの群れの数は減った様には見えない。でもそんなに悲観的になるほどの数か?それとも俺の感覚がズレてるんだろうか?


「やばいよ……!こっちくるじゃん……!」


 地響きを鳴らしてホーンバイソンの群れが一斉に突進して来た。


「うわあああああ!!!」


 思わず魔法使いが頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。


「バ、バカ!何やってんのよ!」


 弓使いが強引に腕を引っ張るも立ち上がる事すら出来ない。


 するとその時、俺達の横を掠める様に火球がホーンバイソンの群れに向かって飛んで行った。

 その火球は先頭のホーンバイソンに直撃すると豪快に弾けて周りのホーンバイソンにも炸裂した。

 すると立て続けに火球が飛んで行き、次々とホーンバイソンを吹き飛ばして行く。


「お前達、怪我は無いか?」


 声のする方を見ると、重厚な鎧を纏う大柄な戦士が悠然と歩いて来ていた。その鎧はそこかしこに傷があり、歴戦の戦士の印象を受ける。


「俺はフォルガンに雇われた傭兵だ。つまりお前達の少し先輩だな。助太刀に来た。後は任せろ」


 声の主の後ろを見ると10人ほどの冒険者が居て、魔法使いであろう男が杖を構えてさらに火球を飛ばしている。


「マジかよ!た、助かったぜ!」


「助太刀はするがあの数だ。楽勝とはいかないだろう。へたりこんで無いで武器を構えたらどうだ?」


 圧のある声と目で虎男達を立ち上がらせる。そりゃそうだ、同じ傭兵希望なら一方的に助けてやる義理なんて無いからな。


「おい、噂の用心棒、せっかくお前も来たならその実力を見せたらどうだ?」


「あーはいはい、お手伝い、いいですよ~」


 戦士の視線の先、冒険者の集団の中の1人がひらひらと手を振った。それはニル人、いわゆる亜人と呼ばれる獣人やエルフ、ドワーフと言った種族とは違い、特殊な能力を持たない、素の人間とでも言えばいいか、何事においても器用貧乏と差別される種族の様に見える。そしてかく言う俺もニル人な訳だが。そのニル人は女性だった。ニル人の若い女性、どちらかと言えばまだ少女と呼ぶのに近い年齢ならば平均的な身長。引き締まった体は決して華奢では無く、それでいて無駄な肉以外の、女性らしさを表すのには十分な物が備わっている。胸以外は。そして目を引くのは鮮やかな金色の髪、そして緑色の瞳だ。その瞳の色は確かに緑色と表現するのが適切だが、自分の知る全ての緑色とは違う、見た事の無い緑だ。1度以外を除いては。そう、それはどことなく時の牢獄という名の遺跡で見た緑と同じ色だった。


「じゃあ行くよ」


 少女は言うと、弾かれたように地面を蹴った。


「おおお!」


 それに続いて他の冒険者達も駆け出す。


「クッソ……!俺達も行くぞ!」


 虎男も自分の仲間に激を飛ばしホーンバイソンに向かって駆け出した。

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