各個撃破

4体のゴーレムと対峙する。とは言えもちろん4体同時に相手をするほど自殺願望は無い。もう数え切れないほど死んだが、1度だって自ら命を絶った事は無いからな。

 じゃあどうするか?そんなもん、もちろん各個撃破だ。4体同時に相手にするのでは無く、1体だけを他から離しそいつから倒す。それでも倒すのはかなり厳しいのだが。


 俺は遺物から『蜘蛛の鋼糸』を取り出す。狙ってこの素材を手に入れていた訳じゃない。たまたまケイブスパイダーがいて大量に回収出来ていただけだ。そしてこいつをはじけクルミに【混合】する。それを2つ作る。

 出来上がった丸い糸の塊からほつれている様に出ている糸を左右の手で握る。そして同時に【スリングショット】でふたつとも1番手前にいた、火属性のゴーレムへ投げつける。

 スキルの補正がかかった糸の塊は狙い通り火属性ゴーレムの両肩にヒット。それと同時にはじけクルミが弾け『蜘蛛の鋼糸』がベットリと粘着する。


「お前は!!!こっちだ!!!」


 俺は両足を踏ん張り思いっきり糸を引き寄せる。

 ドタドタと表現するにはあまりにも大きな音を立てながら、前につんのめりそうになるのを必死に堪えてゴーレムがこちらへ駆けてくる。その進む先に【サラウンドスクエア】で見えない壁を作ってやる。慣性の力に逆らえないゴーレムは見えない壁に顔面から突っ込み、仰け反った後に尻もちをついて地面に座り込む。

 俺は尻もちをついているゴーレム目掛けて駆け、遺物から『水蝙蝠の水袋』を取り出し錆びた剣に【混合】。剣は風属性を纏った時と同様に、数本のうねる水流を剣先まで立ち上らせる。そのまま火属性ゴーレムに肉薄する。

 俺に気がついた火属性ゴーレムはその無表情な顔の口に当たる部分をカッと開き、そこから炎を吐き出した。


「さすが火属性だな」


 【旋風独楽】


 この独楽の様に高速で5回転、体を回転させながら斬撃を放つスキルで水属性が付与された剣を振り回す。駆ける慣性の力を失わず、回転しながらなおもゴーレムに近づく。3回転でゴーレムが放った炎を切り裂き進み、4回転、5回転と2撃胴を斬りつける。

 2撃目を食らわし残心を取る俺はちょうどゴーレムの股の間で止まる。

 ゴオッという音と共にゴーレムの両腕から炎が吹き出す。その両手を頭上に掲げ、燃え盛る両拳をハンマーの様に振り下ろす。

 俺は膝から力を抜き重心を後方へ。ハンマーの様な両拳が頭をかち割る瞬間に力とマガを解放し、滑るように後ろへ回避。一瞬前まで俺がいた場所には大きく抉られた地面と弾けた炎が飛び散っていた。


 後ろへ回避した俺は踵を踏ん張り急停止。今度は両膝を折り、伏せる程に体を前に、地面スレスレまで倒す。


 【ガイザージャンプ】


 ジャンプとは言うものの、その力のベクトルは地面とほぼ水平。地面スレスレを滑空する様に飛び出す。


 【スリップサーフェス】

 

 触れる表面の摩擦抵抗を極端に軽減するスキル。摩擦抵抗を極端に軽減、つまり氷の上を歩く様にツルツルに滑る俺はジャンプの勢いをほとんど殺す事無く地面を滑る。

 大きく弧を描いてゴーレムの横を滑り、後ろへ回り込む。ゴーレムは強い、ただ一様に愚鈍だ。一瞬の出来事でゴーレムは完全に俺を見失う。


 俺は静かに背後からゴーレムに歩み寄る。剣を右手に、肩の高さで水平に構え左手を切っ先に添える。


 カッ


 背中の真ん中に切っ先が僅かに触れるが愚鈍なゴーレムは全く気が付かない。


『構え』


『調和』


『脱力』


 そして『壊崩』。


 一気に放たれた俺の力は余すことなく剣に乗り、水属性の力を全てゴーレムへと浸透させ、剣は静かにゴーレムの体を貫通した。


 体の真ん中に手のひら程の大きさの穴が空いたゴーレムはガクンと頭を垂れ、その衝撃で首から、そして肩、胸へと崩れるようにその姿を土くれに変えて行った。

 土属性ゴーレム同様、後には丸い玉『傀儡の魔核〔火〕』だけが残った。


「よし、2体」


 残りは後3体。次に狙うのは水属性ゴーレムだ。理由は何となくだ。

 俺は遺物から槍を1本と『火竜の炎嚢』と『呪樹僧の花弁』を取り出す。『火竜の炎嚢』を錆びた剣に、『呪樹僧の花弁』を槍に【混合】する。


 【ウィンドスロー】と【裂空閃】を同時に発動。槍は【ウィンドスロー】の効果で一直線に風属性ゴーレムに飛び、木属性ゴーレムに放たれた【裂空閃】の飛ぶ斬撃に火属性が乗り、燃え盛る斬撃となる。そのふたつは同時にそれぞれのゴーレムに着弾。槍は刺さった場所から急速に植物の蔦が伸び動きを拘束。飛ぶ斬撃はゴーレムの胴体を斜めに大きく抉り膝をつかせた。


 2体はその動きを一瞬止めたが無傷の水属性ゴーレムはそのまま俺に向かってきていた。やはりゴーレムってのはどんなに強くても知能はイマイチらしいな。まんまと予定通りだ。

 俺は慌てず錆びた剣の【混合】を解除しながから遺物から『土鬼亀の噛歯』を取り出し新たに【混合】。錆びた剣の表面はゴツゴツとした細かな岩に覆われた。そして水属性ゴーレムを十分に引き付ける。


 【アースニードル】


 地面から突如現れる土の鋭い杭が5本、水属性ゴーレムの死角から襲いかかる。その杭の数や大きさ、出現させられる距離等はスキルのランクによって変化する。このスキルは大きく分けると魔法と呼ばれる部類に入るスキルだろう。それほどまでにスキルの定義や分類分けは確固たる物じゃない。そしてこいつは土の杭を作る所までは土属性の力が働くのだろうが、攻撃そのものは物理だ。なので例え水属性ゴーレムであったとしても効果が高いとは言い難い。まぁ目的はダメージじゃないから問題無いが。


 効果が薄いとは言え死角から何かしら攻撃を受けたらそちらに意識が向く。その様に作られているのだろう。そしてそれは目の前の俺よりも、まさに今、死角から攻撃して来たであろう何かの方を脅威と判断し、俺の事を意識から除外する。


 【死合いの氷鎖】


 俺の左手首から氷の鎖が伸びるように形成されて行き、俺の左手が指差す先、水属性ゴーレムの頭へ向かう。瞬く間に数メートル伸びた氷の鎖は水属性ゴーレムと俺の左手を繋ぎ止める。俺はその氷の鎖を握り、強く地面を蹴るのと同時に思いっきり手繰り寄せ、その力でゴーレムの頭目掛けて飛びかかる。その推進力をそのままに剣をゴーレムの顔面目掛けて突き刺す。土属性が付与された剣は見事にゴーレムの顔面を貫通し、俺はその刺さった剣を軸にしてゴーレムの左肩に乗った。足場としても申し分無い大きさの肩の上で顔面から剣を抜き、逆手に持ち替え振り上げる。


「こいつでいけるか?」


 渾身の力を込めて剣を脳天へと突き立てる。その衝撃と付与された属性の力は突き立てた剣の先へと突き進み、体深くまで破壊しただろう。ゴーレムが膝を付いたところで俺は肩から飛び降り様子を見る。すると他の倒したゴーレム同様、ガラガラと崩れ、最後に『傀儡の魔核〔水〕』が残った。


 崩れた水属性ゴーレムの向こうから残り2体のゴーレムがこちらに向かって来るのが見えた。まぁあの程度の割には時間も稼げた方だろう。


 【アースウォール】


 崩れる水属性ゴーレムの少し向こうに【アースウォール】でやや大きめな土壁を作り出す。【アースウォール】の利点は地面に土があればそれを流用する事でマガの消費を抑えられる事、そして土で出来ている事で視界が遮られるという事だ。無色透明な【サーフェススクエア】とは違った使い道があると言うことだ。利点が欠点であり、欠点が利点であると言う事だ。


 ゴーレムが視界が遮られ俺を見失っている隙に『傀儡の魔核〔水〕』を回収する。そしてすぐさま走り出し2体のゴーレムから距離をとる。

 遺物から拾っておいたはじけクルミと『煙蛙の煙嚢』を数個取り出し【混合】。それを今まさに土壁を殴り壊しているゴーレム達の足下へ投げつける。地面にぶつかり弾けたクルミは混合された煙を辺り一面に放出した。


 【隠密行動】【サイレントステップ】【レーザーマーカー】


 【隠密行動】と【サイレントステップ】の合わせ技で音もなく駆け出す。同時に【レーザーマーカー】で木属性ゴーレムにマーキング。俺の右手から伸びる赤く細い光の筋が俺と木属性ゴーレムとを直線で繋ぎ続ける。

 突如視界を失ったゴーレムは狼狽え辺りを見回す。さすがに所構わず攻撃を仕掛ける様な安易な事はしないらしい。だがそれだけだ、俺は簡単に木属性ゴーレムの背後に回り込み、音もなく忍び寄る。【レーザーマーカー】のお陰で俺からは木属性ゴーレムの位置がだいたいだが掴めている。

 遺物から『火竜の炎嚢』を取り出す些細な音も【隠密行動】がかき消してくれる。


 【烈風裂渦斬】


 剣を真上から反時計回りに半回転と少し振るう事で渦となった筒状の衝撃波を放つスキル。今はその衝撃波に火属性が付与され、渦巻く業火が螺旋を描き大きな渦となってゴーレムに襲いかかる。

 さすがにこの轟音は【隠密行動】では消す事も出来ず、無音の空間から突如轟音が響き、それはゴーレムの背中、ちょうど胸の裏側のど真ん中を撃ち抜いた。


「さすが、タフだなぁ」


 俺は空いた風穴から下を叩き切った。途中でガキン、という音がして剣はそこで止まり、ゴーレムが崩れ始めた。剣先を止めたのは『傀儡の魔核〔木〕』だった様だ。ゴーレムの体の崩壊を待たずに『傀儡の魔核〔水〕』を掴み取りバックステップで距離を取る。

 俺が離れると同時に、少し前まで俺がいた場所をゴーレムの太い腕が真横に、木属性ゴーレムのまだ残る体を粉々に吹き飛ばしながら通過した。


 徐々に薄れ行く煙の中、俺は最後の1体、風属性ゴーレムと対峙した。

 

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