1455回目

一通り思い出し整理した後はただぼーっと時間を過ごした。これはこれで必要なんだと思う。いや絶対に必要だ。じゃなかったら今ごろ気が狂っているはずだ。取ったところで何も変わらないが睡眠も取った。ゴツゴツとした石の床に寝転がったところでゆっくり眠れるはずも無い。ましてや向こうの部屋には死体の山。その中には母さんまでいる。熟睡なんて出来るはずも無い。懐中時計を見ると時間は16時30分。後1時間を切ったのか。そろそろ手順の整理をしないと。

 俺は深呼吸をひとつして気持ちを切り替える。そして何度も何度も試行錯誤してたどり着いた最適解を再確認する。扉を開けて外へ出てからの手順、それを一から全部確認するんだ。この村の出口、あの門の外へとたどり着く最適解を。


 この永遠に続く24時間の牢獄から抜け出す唯一の方法、それがこの遺跡の力が及ぶ範囲から出る事。力の及ぶ範囲の目印は赤い門、つまり村の入口にあるあの赤い門だ。5回目に死んで戻った時にあの台座を色々調べてみたら、また光の板が出てきてそう教えてくれた。この遺跡の名前は時の牢獄と言うそうだ。知るかそんなもん。

 だか台座がしゃべったのはそれが最後。後は何をどうしても反応が無かった。おそらくそれ以外の機能は持ち合わせていないのだろう。とは言えそれだけ分かれば十分だ。あの門から向こうへ行くことが出来たら俺は解放されるんだ。行くことが出来るのならだが。今の所、それはほぼ不可能にしか思えない。だが諦める気は無い。俺は何度だってやり直せるのだから。


「まずは扉を出てファイアーラットを殴り殺す。落ち着いて動きを見ればなんてことは無い。最初に気がついた奴を殺した後はそのまま前方の奴らを殴り飛ばす。その際に解体術のスキルを使ってファイアーラットの死体から火鼠の牙を回収。たぶん火鼠の牙5、6個は回収出来る。それを腰に付けた遺物の中へしまいながら突進。一気にファイアーラットの群れを抜ける。その先にいる……」


 長くなった独り言も終わり時間は17時15分。後5分か。1455回もやり直してまだ丘を越えて村の中までたどり着いていないとか。村の奥、さらに地面を掘り下げられた様な場所に作られたこの遺跡。遺跡を抜け村の中に入るには掘り下げられて丘の様になった場所を駆け上がらなくてはならない。でも大丈夫だ。その直前にいるサイクロプスは次は簡単に倒せるはずだ。しかも一撃で。そこを抜ければ後は丘を駆け上がり村まで一直線だ。

 

 死に戻りが100回を超えた辺りでふと思った。なぜこんなに苦しい想いをしてまでこの牢獄を抜けなきゃならないんだ?牢獄を抜けた先には何があるって言うんだ?と。俺はここを出て何がしたい?軽い頭痛がする間抜けな自分の頭に問いかけた。


 そうだ、こんな事になったそもそもの原因、母さんを奴隷にしたあのクソみたいな親父殿を殺す。


 大層な言いがかりなのかも知れない。そもそもそのクソみたいな親父殿の反吐の出る様な趣味のおかげで俺が生まれたのだから。でもそんな最もな理屈なんてどうでもいい、ここを抜けて親父殿のを殺しに行こう。


 そうだ、駆け抜けてやる、この牢獄の出口まで。


 懐中時計を見る。17時19分。秒針が1歩進む。


『対象を認識しました。現時点よりループを開始します』


 分かってるよ。

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