1456回目①

まずは金属製の箱から混合のスキルを回収。そのまま剣と遺物を拝借。遺物の中から盾を取り出し左腕にはめる。それから足早に禁忌の部屋を出て死体の山へ。懐中時計を拾いポケットに入れる。そして最後に母さんの遺体に目をやる。もしかしたら今回が最後になるかも知れないからだ。もうこの最後のお別れを何回したか覚えてもいない。

 

 扉に手をかけ深呼吸。


「よし、行くぞ」


 扉を開け静かに外へ出る。もちろんそこには見慣れたファイアーラットの群れが。その内の1匹が俺に気が付く。それはもう知っているんだ。

 

 俺は走り出し1匹目が雄叫びを上げる前に錆びた剣を頭から叩きつけ地面に押し潰す。すかさず死体に手で触れ【解体術】のスキルを発動、『火鼠の牙』を回収しつつ目の前で事態を理解出来ていないファイアーラットを2体立て続けに殴り潰す。

 この『火鼠の牙』と言う素材、これはマガカと呼ばれる素材だ。その魔物のマガが最も宿る素材、それをマガカと呼ぶらしい。誰が決めたのか、いつからそう呼ばれているのかも知らないが、この世界の常識だ。マガが化けたもの、過ぎたマガが溜まったもの等、色々な説があるが真相なんて分かるはずも無い。その他にもマガの宿らない皮や肉と言った素材もあるのだが、俺程度の【解体術】じゃあマガカを取り出す事ぐらいしか出来ない。

 2体倒した時点ではまだ他のファイアーラットは何が起こっているか分からず身動きが取れない。さっきと同じく『火鼠の牙』を回収しつつさらに前方のファイアーラットを数体殴り飛ばし前へ駆け抜ける。

 ラットとは言うもののウサギ程の大きさのファイアーラットだが踏み潰して無力化する事は出来る。何も考えずに、何を踏んでいるかも分からないまま駆け抜けファイアーラットの群れを抜ける。最後に振り向き様に低く剣を横なぎしにて近くのファイアーラットを蹴散らす。そして可能な限りの火鼠の牙を回収しつつ群れから離れる。

 で、ここで一息。『火鼠の牙』を遺物にしまい息を整える。不思議とファイアーラットが追って来ないのはこの先にいるボーウッドと言う木の魔獣が自分たちよりも強く、邪魔になれば自分たちなど簡単に殺されてしまうのを知っているからだろう。一応知恵らしきものは備わっている様だ。


 俺は歩きながら錆びた剣と火鼠の牙を【混合】する。すると火属性の剣の出来上がりだ。火属性を帯びた剣は刀身にユラユラと炎を纏い、斬撃と共に魔物を焼く。

 次に現れるボーウッドはその名の通り木の魔物だ。もちろん火属性の攻撃に弱い。このなまくらな剣でも火属性ならばボーウッドに大ダメージを与えられる。

 

 火属性の剣を作り終えたすぐ後にボーウッドの群れが目の前に現れる。一斉にこちらを見てガサガサと手に当たる部分であろう枝を揺らして威嚇してくる。だがもうそれも慣れた。俺は駆け出し1番近くのボーウッドを無造作に切りつける。火属性の付与された剣はボーウッドの体を抉りつつ炎を走らせる。切りつけられたボーウッドは慌てふためき、めちゃくちゃに暴れる。そうこうしている内にあっという間に枝や葉に炎が燃え移り、さらに近くのボーウッドにも飛び火する。どうやら普通の木とは違って枯れていなくても良く燃える様だ。

 

 俺は暴れるボーウッドにさらに剣撃を加え、あっという間に3体のボーウッドを倒し辛うじて燃えていない部分に手を触れ【解体術】のスキルを発動、『雑木の堅木』と言うマガカを回収。周りは火でパニックになっているボーウッドばかりだから落ち着いてボーウッドの堅木を遺物に収納する。


 火属性の武器をぶん回すだけでボーウッドは面白い様に倒す事が出来る。ここで大量のマガを手に入れておく。出来るだけ早い段階でランクアップしておかないと後々が辛くなるからだ。おかげで大量の『雑木の堅木』が手に入った。そして錆びた剣の混合を解除する。不思議と混合を解除すると錆びた剣だけが残り混合した火鼠の牙は消えてなくなってしまう。残るのと消えるのにはどんな条件があるのだろう?追々調べてみなくては。次に俺は遺物にしまわなかった『雑木の堅木』を錆びた剣に【混合】する。


 次の相手は色々と忙しい。次なる相手はスケルトンだ。スケルトンと一言で言っても様々な個体がいる事に気がついた。スケルトン、人骨のアンデット、それはつまりスケルトンになる前は人間であったと言う事。その身に付けている装備は様々で、まだ状態の良い物を身に付けている奴もいる。さらに驚く事にスキルを使う奴までいた。何度もトライする内に有用なスキルを持っている個体を数体見つけた。そいつらを倒してスキルを手に入れなくてはならない。そのスキルがあると無いのとではこの先の攻略の難易度が段違いに違う。


「いたいた……まずはあいつからだ」


 パッと見で100を超えるスケルトンの群れの中にお目当てのスキルを持つ個体を見つけた。いつもと同じ場所、群れの比較的手前にいる個体だ。そいつは何やら見たことも無い道具を手に持ち石つぶてを放ってくる。その細長い棒状の本体に弓の様な部品が取り付けられている。おそらくは本体に装填した石つぶてをあの弓の部分で飛ばす道具なのだろうが、弓はすでに朽ち弦は存在しない。 

 ではなぜ使い物にならない道具で石つぶてを飛ばせるのか?

 それは考える能力すら失ったスケルトンが体に染み付いた生前の習慣を繰り返しているうちに、道具の性能がこのスケルトンのスキルとして昇華したのだろう。何百回とスキルを取得して来た俺には何となく分かる。スキルとはそういう物だ。


 狙うスケルトンの側面から忍び寄る。この遺跡の柱に隠れながら進むとスケルトン達には気が付かれない。この最前のルートを見つけるのに30回は死んだ。そしてここが見つからずに近づける最短距離。俺は駆け出すと狙うスケルトンに一気に詰め寄りこちらに振り向く前に『雑木の堅木』で強度を増した剣で頭蓋骨を粉砕した。


 カタカタカタカタカタ……


 それは叫び声なのか、それとも怒りに震える体の音なのか、耳障りな骨鳴り音を響かせながらスケルトンの群れは俺に気がついた。


『スキル:身体強化を取得しました』

『スキル︰スリングショットを取得しました』

 

 倒したスケルトンから溢れるマガを吸収するとフィリウスの声がスキル取得を告げる。


 【身体強化】の方は【解体術】と同じぐらいありふれたスキルだ。冒険者でも狩人でも、騎士や傭兵でも、戦う事を生業とする全ての人間が持っていると言っていいスキルだ。聞くところによると、命のやり取りをする様な戦いを経験すると誰でもすぐに取得出来るらしい。それはマガを自分の体に巡らせ、文字通り身体能力を向上させるスキルだ。その向上の幅はスキルのレベルによって大きく変わってくる。

 

 スキルを手に入れた俺は素早く群れの中から離脱して若干の距離を取りつつ地面に転がる石ころを数個左手で拾い、同時に右手で遺物の中から『雑木の堅木』を取り出す。そしてそのふたつを【混合】、強度の増した石つぶての出来上がりだ。石つぶてを左手に抱えたまま右手で1つ掴む。


 スキル【スリングショット】を発動。俺が投げた石つぶてはスキルの力によって加速、とても手で投げたとは思えないスピードと威力でスケルトンの頭蓋骨目掛けて飛んで行き粉砕した。もちろんスリングショットのスキルで命中率にも補正がかかっている。これはかなり有用なスキルだ。俺は次々と安全な遠距離攻撃でスケルトンの数を減らして行く。


「次はあっちのスケルトン達だな」


 まだまだスケルトンの群れ相手にやる事はある。次はあそこに固まっているスケルトン達だ。あそこの奴らは皆、槍を持ったグループだ。その数ざっと20ってとこか。槍のグループに向かって駆け出しながら石ころを拾い『雑木の堅木』を混合、素早く槍のグループへ向かって放つ。立て続けに5体を粉砕。でも狙いの奴はもう少し奥に居る。まぁこいつらの槍も必要なので回収しておくんだが。さらに混合済みの石ころを放ち数を減らす。

 スケルトンはカタカタと音を鳴らしながらオロオロしている。こいつらにも驚くという感情があるのか?とにかく俺がそんな隙を見逃す訳もなく予定通り残った槍のグループの中に突っ込んで行く。スケルトンを倒すなら狙うのは頭だ。これは経験上1番効率がいい。上手く行けば一撃で倒すことが出来る。20体いた槍のグループも最後の1体、1番の狙いはこいつから手に入るスキル。一気に肉薄して真下から剣を突き上げ顎から脳天まで貫通させる。


『スキル:ウィンドスローを手に入れました』


 よし、【ウィンドスロー】を手に入れた。こいつと先程から遺物へぼんぼん投げ入れていた槍がとても相性がいい。もう少ししたら大活躍するのだ。


 全てのスケルトンを倒した後、進める道は2つある。最短距離になる右の遺跡の瓦礫を駆け上る道と、平坦だが若干迂回する形になる左の道。どちらも何度か試した結果左の道が最善という結果になる。それは何故か、大きな理由は左の道にいる魔物、エレキリザードのマガカとスキルだ。

 俺は歩きながら遺物からスケルトンの持っていた槍を取り出し『雑木の堅木』を混合して強度を上げる。そして槍を構えながら遺跡の柱の様な瓦礫の影から一気に横飛びする。すると目の前にはエレキリザードの群れが。その名の通り雷属性の攻撃を放つエレキリザードがざっと30体以上。こいつらを無理矢理倒す事で手に入るスキル、雷耐性が欲しい。まぁかなりビリビリして痛いのだが。

 

 柱から飛び出てまずは1番手前のエレキリザードに向かって【ウィンドスロー】のスキルで加速した槍を投擲する。

 【ウィンドスロー】は投げた武器に風属性を付与して加速、軌道の微調整をする事で狙った場所へヒットさせる、というスキルだ。スキルの恩恵を受けた槍は当たり前の様にエレキリザードの頭に突き刺さる。頭を吹き飛ばしてもなお勢いが止まらずさらにその向こうにいるエレキリザードの胸に槍が突き刺さった。


「おおおおお!!!」


 気合いを入れるために大きな声で叫ぶ。そうでもしないとしんどいからだ。俺はエレキリザードの群れに突っ込み次々と斬りつける。数体倒した所で危険を察知したエレキリザードが次々と体から放電する。


「ぐう……ぅぅ……!」


 痺れで全身強ばりながらも剣を振るう。エレキリザードはその放電で敵を無力化するためか、自身の防御力は高くない。接近してしまえば後は痺れるのさえ我慢出来れば決して強くは無い。我慢さえ出来ればだ。


『スキル:雷耐性を手に入れました』


 5、6体目のマガを吸収した時点でフィリウスがスキル取得を告げる。やっとか、このスキルが手に入れば痺れは一気に楽になる。エレキリザードから雷に対しての耐性スキルが手に入るんだ?良く考えれば当たり前か。雷に耐性が無ければ放電した瞬間に感電してしまうよな。雷に対してエレキリザードと同等の耐性がついてしまえばこちらのもの、ただ放電するだけのエレキリザードなんてすぐに倒せる。戦闘が楽になったところで『蓄雷袋』というマガカを回収し始める。手早く倒したおかげで次の魔物が現れる前に倒し切る事が出来た。もたもたしてると次なる魔物も一緒に相手をする事になってしまうからな。


 次はグールか。見た目は最悪、でもそのグールを束ねるハイグール、こいつから手に入るスキルは絶対に入手しなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る