自分はきっと、思うより弱い

ナナシリア

自分はきっと、思うより弱い

 時々、受験期のことを思い出すことがある。


 決して楽な思い出ではなかった。自分の好きなこともまともに出来ず、勉強漬けの日々。


 でも、そんな僕は元々勉強をするのが苦手だった。


 受験期にもなって、明日やろう、と思い続ける日々。


 けれど、僕はなんとか戦うことが出来た。




 授業中、僕は勉強しようと机の中から参考書を取り出しかけて、やめた。


 またあとで、今日が駄目なら明日やろう。


『勉強、しないんだ。君はやれば出来るのに』

『僕は高校生にさえなれればいい』

『頭いいのに、その考え方は馬鹿だね。勉強が出来るだけなの?』


 腹立たしい彼女の言葉に意地になって逆らうのも面倒で、言われた通り机から参考書を取り出す。


『わざわざそんなもの持ってきてるのに勉強しないなんて、本当に馬鹿だね』

『うるさい、すぐやろうと思っていたんだ』

『でも、明日に回すのは自分の弱さだよね。それがすぐに治ると思ってるの? 今やりなよ』


 僕の反論は簡単にあしらわれてしまい、しかもあろうことかその反論に納得してしまった。


 だが、それを彼女に伝えなければならないのは少し苛立たしく、口に出すことはせず胸のうちにしまっておく。


 そしてこれ以上余計なことを考えても勉強が捗らないので、僕は余計なことを考えずシャーペンを動かした。


『やっぱり、君は賢いね』


 しばらくして彼女は僕のノートを覗き込んだ。


『勝手に覗くな』

『でも、怒ってないよね?』


 彼女の言葉に図星を突かれて悔しく、だけど拗ねたように黙るのも幼稚なような気がした。


『怒ってはいない』

『だよね。え、この問題一発で解けたんだ』


 彼女は学年で一目置かれるくらいに頭が良いのだが、いわゆる努力型の天才なので、センスが必要な問題はどうしても解けない。


 そんな彼女に対して僕は天才型の天才なので、そんな問題を解ける代わりに理詰めで答えを出す問題は解けない。


『でもこっちは間違ってる……。勉強不足じゃん』

『うるさい』


 僕は面倒な彼女の言葉を無視して問題に再び取り掛かる。元はといえば、彼女が僕の勉強を妨害してきたんじゃないか。




 思い出すと、思わず笑みが零れる。


「なんで笑ってるの?」

「いやあ、君と同じ学校に入れて良かったなあと思って」

「気持ち悪いよ……」


 彼女の言葉は相変わらず冷たい。


 だが、僕はあの時より成長した。


「全部、君のおかげだよ」


 今言えることは、今言おう。


 明日の自分に期待したって、今日の自分が思うよりも明日の自分は弱いから。


「いやいや、君が頑張ったからだよ。でも、君と同じ高校に入れて私も良かったと思ってる」


 その言葉が聞けて、言って善かったと思う。


 善は急げ、だ。

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自分はきっと、思うより弱い ナナシリア @nanasi20090127

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