願いの器

アイq

願いの器

「いいヨリゴの肉入ってるよ! 今日の夕飯にどうだい?」


『絶対当たる占い 3年後まで 1回 20,000 M』


 この国有数の商業都市ターク。メインストリートではお店も露天商もごた混ぜになり様々な物が取引されている。複数の国境と接しているこの場所は自然と人が集まり力を付けることで成り上がってきた。今日も多くの人が行きかい活気に満ちている。


 地元料理から胡散臭い雑貨屋まで選り取り見取りだ。中には異国から来るものがしばしばここから流行が始まり、大金を手にする者も居る。そんなチャンスを掴むべく近くのスラム街からの出入りも激しかった。


 そんな街を横目に閑散とした通りに佇む一軒家。複数の子ども達のグループが部屋を分け合い暮らしている。窓を開ければ街の喧噪が届く一室で幼い男の子がベッドに横たわっていた。同い年位の子どもなら難しいことなど考えず、ただ元気に外を駆け回っているだろう。


 しかし男の子はベッドの上から動こうとしない。時々苦しそうに咳込み、体は高熱で汗ばんでいる。体の置き所もないようで右を向いたり左を向いたりしている。バタバタと誰かが階段を上がってくる音が扉越しに近づいてくる。


「クラン! 今日は凄いの手に入れたぞ! ついに俺達の願いが叶うんだ!」


「今日は何を買って来たんだい、トート?」


 興奮気味に話すトートに対し、クランは苦痛の表情を隠すように笑みを浮かべながら穏やかに尋ねる。


「聞いて驚くな。この白い花を煮詰めてこっちの金色の器に注ぐ。それを飲むとあら不思議、願いを叶える魔法の薬に早変わりさ」


「へえ、そりゃ楽しみだな」


「ちょっと待ってろよ、直ぐに準備するからな」


 トートは再びバタバタと階下へ降りて行く。クランは胸を抑えながら机の上に飾られた写真に目をやる。そこには幼い二人の子どもと両親らしき男女が写っている。二人はタキシードとドレスをそれぞれ着こなしている。子どものうち一人は父親の前に立ち満面の笑みでピースしている。もう一人は母親の足で半分体が隠れ、不安そうな表情を浮かべている。父親といる子どもの方が一回り体が大きい。


 陽が高くなりたまに吹くそよ風が心地よくなるころ、再び階段の軋む音が聞こえてくる。今度はゆっくり慎重に歩いているようだ。


「できたぞ」


 扉が開くとトートは両手で器を抱えていた。中を覗くと金でも白でもなく淡い緑色の液体が並々と入っていた。


「熱いからな、ゆっくりでいいぞ」


 クランが器に口を付ける。二口程飲み下したところで器をベッドサイドへ置いた。トートはクランが再び横になるのを手伝う。薬はすぐに効いたようでクランは瞼が重くなり目を瞑り、手探りでトートの手を探す。トートは両手でクランの手を優しく包み込む。


「大丈夫だ。ずっと一緒にいるから」


 クランは安心したように微笑むとゆっくり眠りに落ちた。呼吸は落ち着きもう苦悶の表情はみられない。トートも疲労と安心感から意識を失うように眠った。



 トートが起きるといつの間にか外は暗くなり、強い雨が打ち付けていた。外の喧騒はもう止んでいる。寝ぼけ眼を擦りながら周りを見渡すがやはり暗いせいでよくわからに。そんな状況でも手の中で冷たく柔らかいものが触れるのだけはしっかりわかった。トートはただ『願い』が叶ったのを悟った。


「ごめんな」


 そう呟くとトートは器に残った中身を飲み干した。

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