第5話 防衛ーはじまり5

「これ、どういう状況?」

梅の隣部屋に泊まっている神山とここの宿で一ヶ月前から泊まり始めて何故か仲良くなった、共に仮入隊試験を受ける予定の桐谷が話しかけた。


「どういう状況って聞かれてもなぁ。お隣さん倒れてて急いでロビーへ連れてって診察してもらって、安静にしていれば起きるでしょうって言われて、起きるの待っている 今ココ」


「はー成程成程。理解できた。で、なんでお前が面倒見てんの。」


「そりゃ心配だからや。運んだ時えらい軽くて死んでんちゃうか思ったわ。しかもこんな小さいしなぁ」


「え、大して面識ないのに?お人よしだなぁ」とあきれるように桐谷が話す。


…「お人よしなんか…?」


「だってそうだろ。この女の子みて守ってあげなきゃ〜とか見守ってあげなきゃ〜的な事思っちゃったんだろ?」


女の子…女の子…とフリーズ中の神山を放り、桐谷は何でこんな時期に倒れてんだよっと梅の顔をツンツンつっつく。


「女の子って…この子が?」


「やっぱりせいやんお前、気づいてなかったか。何となく女の子苦手なのかなと思って言わなかったんだよ」とツンツン顔を突っついてる桐谷。


「なんでよ、教えてくれよ。でもなぁ12歳にしては小さすぎるわ。しかも栄養失調らしいし。…一昨日見た時コンビニでおにぎりとなんか買ってたの見たけど、もしかしてここに来て1日であれだけしか食べてなかったのかな?」


「…ありえるな。大丈夫かよこいつ。てか今までよくそれで生きてたな。奇跡だわ。」



「そういえば受付の人が飲み物と食べ物用意してたな。取りに行ってくるわ!あと他にも何か買ってくる!ちょっと見ててあげて!」と神山は近くのコンビニへと走って行った。


「はぁ。面倒見がいいなあいつ。優しすぎる。おめーさん、あいつに見つけてもらって良かったな〜」と、ツンツン指を梅の顔に当てため息混じりに桐谷は言った。


〜〜〜





ぎゅるるるるる〜


「ん〜。お腹空いた。ご飯…ん?ん?ん?ここは…知らない天井…。」


ぷっと吹き出す声が聞こえて、勢いよく体を起こし見回すとそこにはお隣さんと以前見たことのあるその友人が椅子にかけて笑っていた。


「えっと…お隣さんとその友達?」


「そうや。お隣さんとその友達や。君が廊下でぶっ倒れてたからここの医務室へ運んできたんや…これ、食べて元気だしぃ。」


と渡されたのは経口補水液とおにぎり3個と肉まん一個。


「いいんですか…?」


「いいんだぞ〜飲み物とおにぎりは受付の人からだぞ。肉まんはこいつがお前のために走って買ってきたからな!お前が食べていいんだ!」

と桐谷。


「では…いただきます。」

梅は、戸惑いつつも、目の前に渡された食べ物たちにごくりと唾を飲み込み一呼吸置いたら、一心不乱に渡されたのは飲み物とおにぎり、肉まんを食べた。


ご飯を食べる音が響く。時よりウマウマと言いながら食べる梅。


そんな様子に、神山は安心し、桐谷は苦笑いしながら見守っていた。


食べ終わりずっと見られていたことに気づき、気まづそうに話しかけた。


…「ごちそうさまでした。えっと「神山星矢や。んでこっちが桐谷陽貴」神山さん、桐谷さん。このご恩は一生忘れません。今直ぐはお返しできませんが、いつかきっと、お返しします。ありがとうございました。」とベッドの上で深々と土下座をした梅。


重い重い!っとツッコミを入れる神山と桐谷。

いえいえと姿勢を引かない梅。


「わかった!わかったから。もう良いよ。体調が戻ったみたいでよかった。そう言えば君の名前は?」


「これは失礼しました。進藤梅しんどううめ自分は女です。」


「う、うん。梅ちゃんね。」

「こりゃやられたなせいやん。

 そうだ、うめっちは仮入隊試験受けるんだよな?」


うめっち?と、思いながらも梅が頷くと。


「なら、一緒に俺らと勉強しないか?明日は各自やりたい事あるだろうけど、今はまだ2日前の朝じゃん?どお?」


「二人とも仮…なのか。自分はオッケーです。」


「そうやで。うちら仮入隊や。僕らちょっと身長が高いけどまだ中1やしな。んじゃロビーの奥にちょっとしたスペースあるから勉強道具持ってもう一回集合しよか」


と若干ふらつく足取りを神山に支えられながら部屋へと戻り母ちゃんお手製ハンドバッグに詰めてロビーへと向かった。


「はーやっぱり、うめっちはパッと見男の子だな〜しかもそのバッグ、ロマンを感じるよ」

と桐谷が梅を見て言う。

「失礼やぞ。バッグにロマン感じるってどうゆう事やねん。」フォローに入る神山。


漫才を見ている様でふふっと笑いながら梅は

「自分、気にしないんで大丈夫ですよ。そんな事より二人は何勉強するんですか?」


「「…」」前髪からハラリと梅の笑顔を初めて見た2人は想像していた男の子っぽい梅の顔とは正反対な、可愛らしさに一瞬固まってしまった。

当の本人はそんな2人に気にも留めず、男の子っぽいって思ってるんだろうなと勘違いしながら話を進める。


「敬語じゃなくてええで?えーと僕はあれやな。えーと防衛学とライフ理論学や。桐谷は数学とライフ理論学やな?」

(これは偉い別嬪さんや。自覚なさそうやし本当に危ういやんか。)神山は惚れたなどという感情はなく、これは守らなあかんわとオカン本能が爆発した瞬間だった。


「あ、おう。そうだ。数学は嫌いだ。だから今日明日はとことん苦手な数式頭に叩き込むんだ」

(可愛いくせに男の子っぽい子なんだな。こりゃ面白そうだな)と面白い観察対象としてロックオンした桐谷。


フリーズしていた2人はふむふむと何故か納得しながら、話を進めた。なんとも奇妙な状況だが梅はここにきて初めてまともに話し、少し、いや、金銭的にかなり追い詰められていた心が和らいだ時間だった。


お昼、2人が奢るよっと声をかけてくれたがこれからは何とか大丈夫だと言い、今日はカロリーマイトを食べずライフを体に取り込み済ませた。朝おにぎり3個、肉まん一個、飲み物一本飲み干せばお腹は空かなかったので充分だ。


今夜の夜のご飯代と試験当日までの食費を改めて計算し直したが、なんとか乗り越えられそうだと安心した。


大丈夫そうだ。とうんうんと頷きながら再び彼らがいるロビー奥へと戻り勉強会を再開した。

彼らとの勉強会はお互い不安な場所を伝え、質問形式で答える事を永遠に繰り返し、教え合う事ができ有意義な時間となった。


「んじゃぁ明日は最後の日だから、追い込んで明後日の試験でいい結果がでるように頑張ろうな!」と桐谷が拳を合わせててきた。


3人で拳を合わせ、おうっ!と意気込み明後日に来る試験で会おうと解散した。

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防衛隊員になりたい!ー目標はお金を稼ぐ事です! ぱっちょ @0810mfmf

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