第22話 宿敵にして推し、組めれば無敵
ブレイドの突撃に合わせて、俺は背後につける。
接近する幹部連中は一旦放置。最前の雑魚を吹き飛ばすのに合わせてブレイドを跳び越え、腕を引いた。
(
握った拳に渾身の力をこめ、思いきり地面に叩きこむ。
大地が割れ、土塊が舞う。ちょっとした目くらましだ。
雑魚共が怯んだ隙に身を屈めれば、すぐに背中で手をつく感覚。
『食らえ――!』
俺の上でブレイドが逆立ち姿勢からの回旋。
脚部にセットした剣が派手な嵐を巻き起こした。
土塊と風と刃の凶悪コンボが牙を剥く。
『ストロング!』
「そぉ、らっ!」
嵐の切れ間に体を起こし、ブレイドを跳ね上げる。
続いて突撃、一つ目の重火器に陣取った奴へ拳をめり込ませた。
「ぐぇ――」
「一つ、二つ!」
拳を引く勢いで飛び蹴りをかまし、隣で間抜け面晒してた二つ目担当を弾く。
結果、ロング砲身が二つもがら空きに。
もちろん放置してたら再利用されるだけだから、阻止も兼ねて砲身の先端を鷲掴みにする。
「チャンスだ、集中砲火――」
「なぁにがチャンスだ、よっ!」
握り潰すだけと思ったか。バカめ、こう使うのさ。
鼻で笑いながら砲身を振り回す。
案の定、高火力を実現するための頑健な銃身はリーチの長い鈍器としても優秀だった。
迂闊な間合いで銃を構えたバカを次々になぎ倒してくれる。
と、程よく曲がった所でズドンと重い音。
他の重火器が曲射と直射のダブルパンチを連続でかましてきやがった。
「ブレイド、上任せた!」
言いながら砲身を振る。
直線コースの砲弾をバッティングっぽく撃ち落としたら三発目で砲身がひん曲がってしまった。
せっかくのリーチが台無しだ。
『言われなくても!』
ブレイド跳躍。
両手の剣で三つ四つと弾を斬る。
すると着地を狙うように戦闘員達がレーザー銃を撃ってきた。
すかさず鏡が反射するが、それはそれとしてそんな真似を続けさせるわけにはいかない。
俺は曲がった砲身をブーメランのように投げつける。
唸りを上げて飛んだ砲身は見事に一団を吹っ飛ばした。
ついでに開けた三つ目の標的への道、そこへブレイドが飛び込む。
『サンキュ!』
駆け抜ける彼女を見送って、今度は四つ目の標的に向けてもう片方の砲身を投げつける。
が、そこに待ったをかけた奴が一人。
「暴れるのもそこまでにしてもらおうか!」
九条が割って入り、手をかざす。
突如生じた薄膜に阻まれ、投げた砲身が微妙な所に転げ落ちた。
更に間髪入れず戦闘員が集結して銃を構える。
「もう少し理性的だと思っていたが残念だよ……撃て」
合図と共に波状攻撃。鏡のガードもタイミングをちょっと合わせづらい。
なるほど、反射の隙を与えないつもりか。だが甘い。
俺は鏡一枚を回して、落着した砲身を映した。
「チェンジ、『防がれた砲身は明後日の方向に飛ぶ』!」
直後、砲身が消失。
一拍遅れて今度は敵陣のど真ん中にずどんと突き刺さった。
「ぬな……っ!」
なるほど、政影の近くにすっ飛んだか。こいつは運がいい。
「っ、頭目――」
(流石にトップが声上げりゃ、そっちに意識が向くよな!)
九条の意識が逸れた瞬間、横に飛ぶ。
目線を切れば相手はどうするか。もちろん追いかける。
その隙を突いて距離を詰め、防護膜をかいくぐるようにボディブローをぶちかます。
「が、は……っ!」
流石に硬い。幹部となれば肉体へのダメージも対策済か。
だがこっちはシンプルなパワータイプ、舐めてもらっちゃ困るのさ。
続けてワンツー、オマケのアッパーカットで打ち上げる。
「リピート!」
トドメに鏡を二枚向かわせ、反射レーザーをお見舞いしてやった。
昏倒した九条が落ちてく間に、震脚の要領で地面を踏み鳴らす。
群がってるだけのアホと化した戦闘員が地響きに巻き込まれ、まとめて崩れ落ちた。
そいつらを置き去りにして四人目の重火力担当を殴り飛ばす。
すると、景気のいい音を立てて銃身に剣が一本突き刺さった。
『遠隔用! 使って、ストロング!』
「あいよ!」
引き抜いて標的を探す。
重火器は残り二つ。そっちはブレイドに任せればいい。
ならばこっちは幹部達だ。
「チェンジ、『
鏡に自分を映して異能のリキャスト一回目。
気を引き締めて狙いを定めたが、直後に迫る殺気を感じて飛び退く。
取り残された役立たずの砲身を砕いたのは、まさかの幸樹だ。
やけにギラギラした目でこっちを睨んでる。
「なんだよカガミ……! せっかくのチャンスをふいにするとか、どうかしてるぜ!」
「ち……っ」
「せっかくカガミに便乗していい感じのポジション掴もうと思ってたのがパァじゃねぇか!」
「そいつは残念だったな!」
予定変更し、俺の着地点へ剣を一閃。
エネルギーの刃で雑魚達を一掃して着地した。
幸樹も俺を追いかけて水の拳を一斉に振りかぶる。
(
思考を研ぎ澄まして冷静に構える。
迎え撃つ俺は拳一つ。
「ま、それならそれで俺の踏み台に――」
「なるか、よっ!」
相手が水の拳を繰り出した一瞬、大きく踏み込んで懐に飛び込む。
すかさず鳩尾を殴りつけるが、体まで液状化されてしまった。
「ははっ! そりゃセンター狙うよな――」
(そう来ると思ってたさ!)
そこまでしっかり予想済み。喋った瞬間に合わせて頭突きを入れてやった。
「ぶ、ぐ……っ!」
「詰めが甘い、なっ!」
頭と腕を引く勢いで回転、液状化が解けた瞬間を逃さず、回し蹴りを叩き込む。
そのまま体を回し、死角をフォローするように剣を振り上げる。
刃の飛翔が不意打ち狙いの幹部級に激突し、出鼻をくじいてくれた。
「くそっ、何なんだコイツ、さっきから後ろに目でもついてるのか……!?」
「そういうお前らは少人数の相手に慣れてねぇって顔だなぁ!」
追撃で剣を投げつける。
弾かれた刃は時間切れとばかりに砕け散った。
間髪入れずに拳を叩き込む。
対する幹部級は全身に電気をまとわせて防御姿勢だ。
「ぐ……っ、だがこの程度――」
しかし残念、言い切らぬうちに横倒しにされた。
そりゃそうだ。がら空きの背中をブレイドに蹴っ飛ばされたんだから。
フォローの礼にこっちも彼女の背後に迫るマッチョをぶん殴ってやる。
回転しながら戦闘員の列に突っ込む様子はさながらボウリングだ。
『重火器全部潰したわ、次は!』
「幹部、もしくは政影!」
『おっけい!』
頷き合って、共に跳躍。
直前までいた所をレーザーが通り抜ける。
即座に鏡を割り込ませ、新たな反射のタネを確保。
着地と同時にリフレクトを開始し、援護を受けながら並んで疾走した。
「えぇい! こうなれば同士討ち覚悟で一斉攻撃よ!」
かなり焦ってるみたいだ。
唾をまき散らして叫ぶ政影に全く余裕が見えない。
世界の裏を牛耳ろうとしてた落陽暗部のトップも、追い詰めりゃこんなもんか。
(ま、関係ないがな!)
心に誓いながらブレイドに視線を送る。
フルフェイスと仮面越しに意図を読み合って、俺はそのまま直進。
一斉射撃を鏡で防ぐと共にブレイド跳躍の予備動作を隠した。
「リフレクト、リピート!」
更にレーザーを地面に反射、土煙を立たせてかく乱。
銃撃の緩んだ隙にぐっと身を屈めた。
『刃よ、降り注げ!』
上空から響き渡るブレイドの声。
直後、凄まじい量の剣が雨と化して降り注ぐ。
跳躍から発動まで大きな隙を晒す代わりに、決まれば物量差を一瞬でひっくり返す切り札だ。
戦闘員なんぞに対応できるわけがない。片っ端から倒されてく。
それを切り抜けて攻撃しようとする幹部も隙だらけ。
(さぁ、そろそろ決着だ!)
そして俺は渾身の力で大地を蹴る。
倒れる戦闘員と降り注ぐ剣の雨をすり抜けてまずは一人目。
「な――」
「まずはお前!」
疾走の勢いを乗せてボディフック。
いかにも学者って面構えの幹部は吹き飛んだ先で刃の追い打ちに晒される。
「速い、だが――」
「させねぇ!」
跳躍からのかかと落とし。
全身に銃火器生やそうとした幹部が首まで地面にめり込む。
「コイツ、なんでこの状況で自由に動け――」
「遅いんだよ!」
再び駆け抜けながらの右ストレート。
うろたえるばかりの老齢幹部は剣の壁に叩きつけられて昏倒した。
(場数が違うんだよ、こちとら何度もこの大技切り抜けてんだ!)
俺は止まらない。
幹部を失い恐慌の増す集団をすり抜けて、目指すは政影ただ一人。
「させるかよぉおおおお!」
しかし再び幸樹が立ちはだかった。
復帰の早さもさることながら、全身を液状化させて刃の雨をやり過ごすとは考えたものだ。
(もっかい来る根性あるってんなら、もうちっと気合入れて倒すか!)
すかさず鏡でリキャスト。
そう何回も回復できるわけじゃないが、こいつ相手はそれをやるべきだ。
四肢に力をこめ直して俺は突っ込む。
「こうなりゃテメェを潰して成り上がる! 踏み台にしてやるよ!」
「そうか、よっ!」
俊足に剛腕を掛け合わせてフルパワーラリアット。水の拳を吹き飛ばしてやった。
ぶっちゃけ、全力でやればそのくらいできる。
対して幸樹は後ろに倒れながら形を失う。
危険を察して飛び退いた直後、さっきいた場所を地面から新たな水の拳が突き上げた。
そりゃ液状化ボディならそういう真似もできるか。
ついでに今度は喋ってる間も頭は液状化したままだ。同じ轍は踏まないってわけだ。
「バカなヤツだよなカガミ! わざわざ宿敵と手を組むとか、とんだ笑い種だぜ! 昔のアニメかよ!」
「知ったこっちゃ、ねぇ!」
地面を砕く。
だが幸樹は変わらず地面から生えたまま、次々に拳を突き上げてくる。
ブレイドの剣の雨にも平気な顔だ。
「まぁしょうがねぇか、さっきの語りはどう見たってリリックシンフォニアにお熱って感じだったもんな! だが安心しな、この情報はテメェを潰した後できっちり利用させて――」
「っ!」
一瞬、思考が加速した。
そんな真似は許さないという意思をこめた拳で、俺は大地を揺さぶる。
ムカつく笑みを浮かべた不定形の頭が軽く浮いた。
「え」
「揺らし方の調整は難しいが……」
泥化した地面に向けてもう一発、今度はその下の地面ごと抉るように叩き割る。
砕けて跳ね上がった土塊に混じって幸樹を構成する液体の塊が見えた。
「嘘だろ――」
「やれねぇ話じゃねぇ!」
すかさず前転の要領で土をかいくぐる。
そのまま両足をつけてドロップキック。頭の下、首らしき部分を空気圧で吹き飛ばしてやった。
「うげっ!」
流石に泣き別れ状態はクリティカルだったようだ。
慌てて液状ボディを解除するがそれこそが狙い。
直後に襲う刃の雨をかわしきれず、幸樹も倒れ伏した。
「な、な……っ!」
「信じられない、って顔してるな、政影」
立ち上がって政影との距離を測る。
おおよそ25メートル。懐かしき競泳プールの感覚だ。
刃の雨が止み、隣にブレイドが着地した。
『全員倒した。後はアイツだけ』
「あいよ」
双剣を生成し直した彼女を鏡に映して回復させ、二人並んで政影を見据える。
「全滅……あり得ない……対ブレイドの布陣だぞ……!」
進退窮まった落陽暗部のトップは髪をかきむしり、面白いほどにうろたえてた。
それを見て「いい気味だ」と思う辺り、俺も性格が悪い。
「ま、ウィークポイントの『飛び道具』を対策された上に『大技の前動作』までカバーされちまったら、あらゆる前提がひっくり返るもんな」
「そんな話ではないっ!」
悲鳴じみた政影の怒号に一旦口をつぐむ。
さぁ何を言い出すか。
「何故だ、何故そこまでの連携が取れる! 貴様ら、敵同士ではないのか!?」
『敵同士よ』
即座にブレイドが答える。
全くもって同意見だ。
「あぁそうだな。俺達は敵同士だ」
『でも散々ぶつかってきたもの。お互いどんな状況で何考えて何やらかすかなんて大体わかるわ』
「全くだ。何度も戦ったせいで千日手が当たり前なんだよ俺達は。だがその分、合わせようと思えばいくらでも合わせられる」
『ここまで息ピッタリで立ち回れたことだけは意外だったけどね。……やっぱりリリギアに来なさいよ』
「何度言われても行くつもりはねぇ。諦めろ」
しれっと混ぜてきた勧誘を払ってると、政影は歯ぎしりしながら一歩踏み出した。
「ふざけるな……ふざけるなっ! たったそれだけのことでこの布陣を食い破られたとあっては恥! 貴様は、貴様らだけは何としてもここで潰す!
とうとう政影がその異能をさらけ出す。
背後に噴き上がった毒々しいオーラは、見上げるほどに巨大な狐の面を形作る。
更にその下から9本の蛇が生えて一斉に威嚇を響かせる。
牙から毒液を滴らせ、地面すら焼いて煙を上げるさまは、裏で策を巡らす落陽暗部が持つ割に攻撃力が高そうだ。
だが俺は怯まず突っ込む。
「これでラスト、さっさと決めるぞ!」
『言われなくても!』
巨大な蛇は大口開けて俺を食い潰そうとする。
かわしても牙から滴る毒を食らえばアウトだ。もちろんそんなのあたりゃしない。
一つ目、真横に飛んで回避。
二つ目、空気を蹴って着地避け。
そして三つ目、斜め上から飛び込んできた首を後ろに流しつつぶん殴った。
顎を叩かれた勢いで自分の牙を顎に刺して悶える蛇へ、すかさずブレイドが斬りかかる。
『はいそこっ!』
ついでに左右の挟み撃ちを試みた眼光に剣を投げつける。
目潰しに狙いがブレたのを見計らっていなし、裏拳で吹き飛ばした。
失明の痛みと恐怖に悶える大蛇達をよそに、政影を見据えて拳を引く。
「くぅっ!」
「今更テメェと異能バトルなんざ――」
そのまま大地に一撃。
割れて隆起した土壁の向こうで水しぶきの跳ねる音がした。
そのまま土壁を殴りつける。毒液を吐いたばかりで隙だらけな小さな蛇達が、石つぶてを食らって続々とひしゃげていく。
「長々やる気はねぇ!」
今度は左腕を振りかぶる。
主を守るべく前に出てきた狐面を真正面からぶん殴った。
「かかった――」
そんな声が聞こえた気もしたが、直後に刃の嵐。
伏兵の蛇を根こそぎ斬り捨てる。
暗部頭目の顔が恐怖に歪んだ所で、トドメは右腕だ。
さっき殴った所をもう一発、
「ひ――」
「チェンジ!」
ダメ押しに
「『異能ごと吹き飛べ』政影ぇええええええっ!!!!」
気迫と共に振り抜いたストレートが、狐面を粉々に吹き飛ばした。
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