第7話

 ラハの店に行ってから数日が経過した。

 今日はいよいよ出立だ。


 リアムは愛馬の背に旅荷を括り付ける。

 中には非常食やロープだけでなく、ラハから貰った着替えが数着入っている。

 そして今の装いは、ラハの店でリアムの前に置かれていた、あの組み合わせだ。


「リアム、準備は出来たか?」

「はい、出来ました」

「それは良かった。だけどお前の荷物、少な過ぎないか?」

「そうですか?前線に派遣されていた時よりも多いと思いますが」

「野営を基準にするなよ……」


 アイザックは呆れ気味に眉根を寄せている。

 そう言えば、彼と話したのはラハの店に行った時以来だ。



「……ぁ」

「おーい、イヴァン様がいらしたぞー!」


 名前を呼ぼうとして、大声に遮られる。


「おっ!じゃあ、そろそろ出発だな」


 そう言っている笑うアイザックの後ろに、白い神官服の集団が近づいてくるのが見えた。その中に、一人だけ薄い墨色のローブを纏った人物がいて、きっとあれがイヴァンだろう。


「おはようございますっ!アイザック様、ミリアム様ぁ!」

 しかし先にやって来たのは、バロック神官だった。


「おはよう、バロック神官。なんだか朝から元気なようだね」

「ええ、ええ!今日はあの厄介者……ではなくて、イヴァン様の出立でありますからねっ!は、張り切って見送ろうと、おお思っているのですよっ!」


 身分が上であるイヴァンに対して、何やら不敬な単語が聞こえてきたのでアイザックを見れば、彼は肩をすくめてやれやれと首を横に振るばかりだった。


 鼻息を荒くするバロック神官を前に、アイザックと並んだままでいると、


「おはようございます、皆さん」


 いつの間にか近づいてきたイヴァンが、柔らかな笑みを浮かべていた。


「……おはようございます、イヴァン様。改めまして、本日より旅のお供の任に就きましたミリアムです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いしますね。長い付き合いになるでしょうから、僕のことはイブとでもお呼びください」

「では、私のことはリアムと」

「そうさせて頂きますね、リアムさん」


 イヴァンがそう言って笑うと、ローブが揺れ動く。

 彼の装いはリアムと似通っていて軽装だ。薄い墨色のローブの下には、卯の花色のシャツと千歳緑のゆったりとしたトラウザーズを合わせている。


「お久しぶりです、イヴァン様」

「おっと。挨拶を失念していましたね、アイザックさん」

「いえ、お気になさらず。次に会えるのはいつか分かりませんから、最後の挨拶にと声を掛けたまでです」


 イヴァンを見据えるアイザックの瞳が少しだけ揺れている。


「……長い旅になるとは思いますが、どうかリアムをよろしくお願いします」


 イヴァンは少し驚いたように目を見張った後、すぐに真剣な表情になって応える。


「わかりました」


 その返答に、アイザックが無言で頷いたことで会話は終了したようだった。




 それからイヴァンは用意された馬に荷を括り付けると、速やかに馬に跨ってしまった。それを見たリアムも急いで鞍によじ登り、同僚たちに最後の挨拶をする。





「——ちゃんと帰ってくるから、行ってきます」





 たった一言だけ残すと、リアムとイヴァンは東方へと旅立って行ったのだった。



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