第6話

「あんまり時間がなかったんで、今着てる軍衣を手直ししたもんばかりだが、受け取ってくれると嬉しいよ」


 作業台の上に置かれた服は、全て暗めで落ち着いた色合いだが、どれも新品同様で手直ししたものとは思えない。

 リアムの目の前に置かれているのは、白い絹のブラウスに墨色のバッカニアパンツを合わせたもの。シンプルだが、よく見ればブラウスの襟元に細かい刺繍が施されている。その隣にはフード付きのマントが置かれていて、リアムが着ている軍衣と同じ蝋色だ。

 ラハがその中から一着だけ取り出して、リアムの肩に合わせる。


「うん、いい感じだね。本当は試着してもらってから手直しをしたいところだが、時間がないんだったな。念のため全部持って帰ってから、旅用のを選んでくれ」

 そう言って大きめの布袋を手渡される。

 リアムは丁寧に服を畳み、袋の中にしまっていく。


 その間にアイザックとラハは、

「よりによってなんでこの娘なんだ?騎士団中にはもっと居るだろ」

「わかってる。リアムはまだ子供だ。だけど、戦闘面でリアムに勝てる奴なんかいない。おまけに情報収集にも長けてるんだ。今回の任務には打って付けなんだよ」

「でも、なんでお前が行かないんだよ」

「……それは言えない。任務の準備を手伝ってもらったのはありがたいが、これ以上お前に情報を漏らす義理はない」

「んだよ、それ。こちとら元近衛だ。そんなことは百も承知で協力している。だが、お前の態度が気になるって言ってんだ」

「……すまない」


 二人の間に、先ほどとは打って変わって張り詰めた空気が漂う。

 それを察したのか、そこへリアムが声を掛ける。

「あの……、服を詰め終わりました」

「あ、ああ。じゃあ、宿舎に戻るぞ」

「はい」


 アイザックが硬い表情のまま扉へ向かうのを追いかける。


 すると後ろ背に、

「——リアム嬢ちゃん」

 と呼ぶラハの声がしたので振り返る。


 ラハは少しの間、何か言いたげな面持ちでリアムの瞳を見つめた後、泣きそうな声で言った。








「帰ってくるんだよ」










「……いってきます」



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