第4話
「本日は我ら聖ニコラ教会から、正式に王都聖騎士団の隊長であるミリアム様に、イヴァン様の護衛の任を引き受けて頂きたく、馳せ参じました次第です。どうか、頼まれては下さらないでしょうか?」
リアムは話が見えてこないので、困ったようにアイザックを見ると、その視線には気づいたのか、アイザックが補足の為にと口を開く。
「お前には、まだちゃんと話していなかったな。バロック神官、ここからは私が引き受けても?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとう。リアム、お前は先の戦争が起こった理由を知っているか?」
「東方の国境警備にあたっていた隊が、北方で起きた災害の援助部隊として派遣され、東方の警戒が薄くなった隙をアモーグ国が奇襲したと伺っていますが」
「その通りだ、表面上はな。アモーグが東方のエルトン領を建国当時から狙っていたのは周知の事実だ。わかっているな?」
はい、とリアムが頷く。
「しかし、奴らを監視していたエルトン領主が奴らの目的に気づいたんだ。それが、
——
それは古より伝わる、この国の秘宝。
高い精霊力を保持し、神の加護と呼ばれる神秘の石。
世界にはたった12個しかないと言われ、この石を持つものは強さ、賢さなどの人間の内面に干渉する力だけでなく、国の繁栄、土地の豊穣をもたらすとされている。その力だけならば、結界石という名にはならなかった筈だ。しかし、この石にはそう呼ばれる所以の物語があった。
——原始、この大地は我らが父である神が創生され、全てが完璧であった。
しかし、神の子供である人間を悪魔が騙し、人は神の目の前で悪を行うようになってしまった。だが神はそんな我が子を憐れみ、見捨てなかった。
そこで神は、人々に襲いかかる罪の試練から、我が子が逃れる為に逃れの土地を定めた。逃れの土地は、神を忘れなかった人々だけが辿り着け、戦、病、災害から逃れることができる。
けれど、罪によって目が曇ってしまった人々は逃れの土地を見分けることができなかった。人々がひどく嘆いたので、神は我が子に逃れの土地の印を与えた。
それが、結界石だったのだ。逃れの土地と罪の土地の境目にあり、あらゆる悪から人を守るための強固な結界の役割をしているという。
だから、
でも、それは今から一千年以上前の話で、この世界の多くの国々で信仰される神話の一端に過ぎない。他の土地では、結界石ではなくて精霊だったり、建国王だったりと様々だ。
そんな不確定なことを、隣国が大規模戦争を引き起こしてまで確かめようとするなんて、憶測にもほどがある。
とリアムが眉間に皺を寄せると、心の内を見透かしたようにアイザックが口を開く。
「お前の言いたいことはよくわかる。しかしな、これが虚偽だとしたら、あの堅物エルトンが刑罰を覚悟で発言する方がおかしいだろ」
確かにアイザックの考えには一理ある。
何故なら現エルトン領主である、ロット・エルトンという人物は、笑ってしまうほどに現実主義者で、国王の東方の懐刀として有名だ。しかも彼は、現実味のない話を毛嫌いしていて、一応教会の
「そうですが……結界石の在りかも分かっていないのに、信じろだなんて無理な話なのでは?」
リアムが渋い顔で答えれば、
「そう、そこでだ」
アイザックが待っていましたと言わんばかりに身を乗り出してくる。
「聖教会が主体となって、結界石の捜索をしようという話が持ち上がったんだよ。イヴァン様は精霊力も申し分ないし、自己防衛もできる。だから、イヴァン様と数名の従者で秘密裏に進めようとなったのだが、ついでに騎士団本部からもエルトンに治安調査隊を向けるということになったんだ」
悪い予感がしてきて、バロック方をちらりと盗み見れば、そうです、そうです、と頷くばかりだ。
「エルトンへの調査隊は中央情報部と騎士団から合わせて8名なんだが、それだけだと情報源が限られる」
アイザックが分かっただろう、というようなニヤニヤ顔を向けてくる。
しかし、次の言葉を引き受けたのは——
「——だから、僕のことを君が護衛して、一緒に結界石の捜索と情報収集を行うことになったんだ」
意外にもイヴァンだった。
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