33、新・特別部隊
「誰か説明してくれないか?せっかくここまで長旅をしてきたというのに、強大な敵は
純白のフルプレートに身を包み、兜の前側を開けて精悍な顔を曝け出す男性。
世界に5人しか居ないとされる
同僚であるヘクターからの要請で唯一駆けつけた仲間思いの男。アヴァンティアの防衛戦を予想して派遣された最高戦力。
しかし彼を含めた多くの冒険者たちが、ひしめき合うように居るこの場所はヴォーツマス墳墓である。
「いやいや、明らかに減ってるよ〜。前来た時はすぐ囲まれるほど多くのアンデッドやデーモンが居たし、墳墓の主が出てきたし〜」
ヘクターの言葉にライオットは鼻を鳴らした。
「ふんっ……ではこの状況はたまたまだと言いたいのか?とっくに10階層を越えているのだが、何故に強敵が出現しないのだ?」
壁に設置された燭台からの火がぼんやりとフロアを照らす。古ぼけてホコリまみれの床に散らばるスケルトンの欠片を踏み潰しながら、アヴァンティアに居た強力な冒険者の団体が奥へと進む。
「そもそも前回はダンジョンに入ってすらねぇよ。こりゃいったいどうなってんだ?おい」
ディロンは斧を肩に担ぎながらキョロキョロと目だけで辺りを見渡す。中は自分たち以外の何かが暴れまわった形跡が散見され、同時にアンデッドだったであろう
やり取りを聞いていたニールが周りを警戒しつつ口を開いた。
「……これは僕の勝手な推理だが、ハウザーが癇癪を起こして暴れたと考えられないか?前回僕らを見逃してまで行った先で気に入らないことがあったとか……アヴァンティア襲撃に失敗した部下に対してあの仕打ちだし、苛立って破壊したと聞いても納得出来る傲慢さだったよね」
「チッ……
「そんなわがまま放題の感情を抑えられない獣にやられたとあっては面目丸潰れだな。まぁだからこそ身共が来た訳だが……」
そんな会話をしながら降りていく新・特別部隊。最下層に到着したメンバーを待受けいていたのは大きな3つの扉だった。見上げるほど巨大な観音開きの真っ黒な扉が危険なオーラを放っていた。
「マジかよ……この向こうにハウザーが居るんだよな……」
ハウザーに一撃で気絶させられたジンがゴクリと固唾を飲んだ。それに同意するかのようにメンバー全員に緊張が走る。
しかしここで一応戦力ということで連れてこられたゴールデンビートルが動く。
「けっ!何をビビってんだよ。ここまで何もなし。敵も雑魚でお宝もクソ。報酬がそれなりだったから来てやったが、こんなカス見てぇなダンジョンなんざとっとと攻略で終了だぜ」
ゴールデンビートルのリーダーであるパイクは何も考えることなく扉に向かう。
相手の強さを全く知らないからこその蛮勇。だが誰も止めない。誰かが開けなければこの先を見ることは出来ないし、パイクが自ら犠牲になってくれるなら止める必要もない。扉に手を掛ける時点から罠は張られているのだから。
パイクは警戒もなく扉の取っ手を握る。そのまま動かそうとするのを見れば特に罠は仕掛けられていないみたいだった。
「おいおい、引くんだよリーダー。蝶番がこっち側にあるんだから引かなきゃ開かないだろ?」
「うう、うるせぇ!んなこたぁ分かってんだ!ビクともしねぇんだよ!」
みんなの目を気にせずパイクが全体重を掛けて扉を開けようとするも、頑強な扉はピクリとも動かない。「たく、だらしねぇな」と仲間が全員で両側の扉に手を掛ける。全員が鼻の穴を全開に広げながら歯を食いしばり、踏ん張るも手応えなし。ここまでで1番筋肉を使い、滝のように汗をかいたゴールデンビートルは扉を蹴飛ばし、諦めて後退した。
「鍵がかかってるのかも」
「はぁ?錠前なんざねぇぞ。まさか内側で掛け金でもしてるってのかよ?そんなビビりがダンジョンの主ってか?」
「馬鹿ね〜魔法的な鍵ってのもあるのよ。ベルク遺跡の攻略をこなした冒険者がそんな事も知らないなんて信じらんな〜い」
プリシラは手をヒラヒラさせながら煽り散らす。ゴールデンビートルは怒りで
「うっぜ。じゃとっとと開けろよ優等生。出来んだろ?」
「はいはい、じゃ下がっててね。
プリシラは特別部隊の
鍵こそ掛かっていなかったが、1mはある分厚い金属の扉であることを知った時、開けられるわけがなかったと全員が気付いた。バリバリと錆び付いた扉が開くと、その中には金銀財宝が光り輝いている。
「うひょーっ!!」
歓喜の雄叫びを上げたのはパイクだ。何も考えずに飛び込んでいく。お宝を浴びるように手で掬っては頭上に投げ、その輝きに酔いしれる。
罠が発動しないのを確認した他の面々も恐る恐る入っていく。風花の翡翠のリーダーであるルーシーも顔をほころばせながら入っていく。
「やめろパイク。傷付いたら価値が下がるぞ」
ジンは宝物庫に入りたい気持ちを抑えて口を出す。パイクは「そうだな!はははっ!」と喜びを爆発させながらも自重する。
プリシラたちは残り2つの扉も開け放ち、中を確認した。真ん中は玉座、左はハウザーがコレクションしていた死体の保存庫だった。
「……居ない?」
ライトは訝しみながら中を覗く。
「野郎……まさか引っ越しやがったのか?」
「そのようだが……何故宝を残したまま移動する?慌てて出ていったとしか思えないな……」
結局ハウザーとの再戦叶わず、この特別任務は特別部隊の臨時収入をもらうだけのクエストとなった。
手に入れた報酬はどんな些細なものであったとしても山分けすると事前に話し合っていたので、全員が同じだけの報酬を得ることとなった。
「何だ?この剣抜けねぇぞ?」
金目の物を物色していたパイクは剣を手にウルフたちの元に戻っていく。ゴールデンビートルで回して抜こうとするも、誰も鞘から刀身を見せることは出来なかった。
「どれだけ凄ぇ魔剣でも抜けなきゃ売れねぇぞ」
「……何をしてるんだ?」
ゴールデンビートルの困惑する姿を見たニールが声を掛けた。
「お前か……こいつが抜けねぇんだよ」
「貸してくれ。コツがあるのかも」
ニールの提案に顔を見合わせる。どの道自分たちではどうしようもないのでニールに手渡す。
「やるよ。こんな細身の剣は趣味じゃねぇし」
パイクたちは剣を投げ渡し、持ちやすいお宝を探しに移動する。ニールは少し剣を確認し、柄を握りしめた。
シャリンッ
すると甲高い音と共に剣が簡単に抜けた。
「おやおや〜?良い剣を持ってるねぇニール」
「ヘクター」
「……君を選んだみたいだね〜。大切にしなよ〜」
ヘクターはそれだけ言うと仲間と合流する。ニールは剣の刀身を見つめ、フッと鼻で笑う。
ヴォーツマス墳墓の攻略。ハウザーの行方は知れず、アヴァンティアへと戻る。それから数日、襲撃の恐れなしと見極めた冒険者ギルドは警戒を緩和させた。
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