第120話 ハクレイ裁判第四回公判:ハクレイの希望
ついにハクレイ裁判も、第四回公判を迎えた。この後、裁判官五名と、陪審員として選ばれた六人の王族を含めた十一人で、その刑の審議に入ることとなる。
「——あなたは宰相時代、反乱者に寝返った衛兵五十人を、国民の前で銃殺しましたね。それは、正当なる理由があってのことですか?」
検事に訊ねられ、ハクレイが俯く。重たい口が開いた。
「……衛兵として、エトリア王妃やスザリノ王女、ルクナン王女の窮地に駆け付けなかった理由は、どのようなものであっても、許されるものではありません。衛兵として、あるまじき行為——。それが理由です」
「ふざけんな! そんな理由で五十人もの衛兵を殺すなんて、お前は血も涙もない悪魔だ!」
傍聴席から罵詈雑言が飛ぶ。目を瞑ったハクレイの脳裏に、かつてユージンの下、スラム街で私利私欲に走った衛兵らが浮かんだ。無抵抗なスラム街の住人らに、殴る蹴るの暴行を加えた衛兵は、調べ上げただけでも、ざっと五十人に上った。その衛兵らを、銃殺刑に処したまでだ。
「——あなたは、地球からの交換視察団三名と、ルーアン王女を拘束し、処刑しようとした。その際、地球へ攻撃するため、古代の大量破壊兵器を発動させた。それは、紛れもない事実ですよね」
検事の言葉に、
「彼らは月の世界をひっくり返すと言った。ルーアン王女と共に、国家転覆を図ったのです。私は、この月を守ろうとしただけです」
ハクレイの脳裏に、朱鷺の言葉が蘇る。
『——さあさお集りの王族から女中の皆様方、この都造朱鷺、援者が一人として、るうあん王女殿下と共に、この国を覆してご覧にいれよう……!』
(……あの時、思ったんだ。君達なら、この月の窮地を救ってくれるのではないかと)
ハクレイが心の中で、その想いを語る。辛く悲しい選択をしたのは自分自身であったが、それでも、その胸に、希望を抱いていた。
(君達なら、僕の希望を託せると思った。僕の、希望を……)
今日も法廷に、セライの姿はない。良かったと、ハクレイは微笑んだ。
(それでいいんだよ、セライ君)
「……私は、この法廷にて、キーレ前国王暗殺以外の罪を、すべて認めます。その上で、量刑の審議に入っていただきたい。ただ一つ、希望といたしましては……」
ハクレイが裁判長に、あることを願い出る。
「地球よりの交換視察団である、
それには、朱鷺と水影も面喰った。二人が顔を見合わせる。
「
「
元宰相らしく指示するハクレイに、「ぎょ、ぎょい……」と安孫が頷く。
「被告人は勝手なことを言わないように」
裁判長に諫められ、「すみませんでした」とハクレイが謝る。ふうっと裁判長が吐息を漏らした。
「……分かりました。これより、量刑の審議に移ります。被告人ハクレイの希望により、都造氏と三条氏の二人を加えた、計十三名により、量刑を決定いたします。お二人は、異論はありませんか?」
裁判長に訊ねられ、朱鷺と水影が「ありませぬ」と答える。その言葉に、ハクレイが微笑んだ。
「王族の皆様方も宜しいですか?」
「ああ。我々は構わない」
王族を代表し、ドミノ王が答えた。
「ではこれにて、閉廷!」
ついに四回目の公判も終わり、いよいよ審議に移る。人々が法廷を後にする中で、特別傍聴席に座る朱鷺と水影は、ハクレイに目を向けたまま、口を開いた。
「我らが、はくれい殿の量刑を決めるのか。これは、何とも責任重大な役目よのう、水影」
「左様にございまするな。しかと事実を見極めねば、生涯の遺恨ともなりましょう。しかと、事実を見極めねば……」
大切なことなので、二度言った。それほどまでに、水影の言葉は重たかった。
「……新国王戴冠の、準備……」
ルクナンの背中がどんどん遠のいていく。安孫もまた、重たい言葉を口にしたのであった。
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