第52話 予言
エルヴァ以下反乱者も衛兵に戻り、鎧兵と共に、第二王女に戻ったルーアンや、他の王族を守る役目に復帰した。当然、今までテロで怪我を負わせてしまった国民には謝罪し、許しを得た上での衛兵復帰である。
「ああ、水影君。よく来てくれたね」
両手両足を拘束されるハクレイは、囚人の格好であっても、その顔に笑みを浮かべている。ガシャンと鎖の音を立てて、ハクレイは鉄格子の前に腰を落とした。
「何かと不自由でね。この鎖も、全く僕の体温に合わないんだ」
「左様ですか」
ヘイアン装束に身を包む水影は、立ったまま無表情にハクレイを見下ろしている。
「して、何用で?」
「んー? ああ、いやね。一度、ヘイアンの帝が誇る洞察力の持ち主である君と、裁判が始まる前に、じっくりと話がしたかったんだ」
ハクレイの言葉に、水影は押し黙った。
「どうしたの? ああもしかして、朱鷺君がヘイアンの帝であることは、これから先もずっと、隠していくつもりだったのかな? そうだよね。その方が、彼の目的を叶える為には、賢明だよね。……帝。その地位に就くまで彼は、本当に悲惨な人生を送ってきたようだね。彼の心を探った時、それが顕著に伝わってきたから」
水影が人知れず拳を固めた。一度目を瞑るも、しっかりとハクレイの碧色の瞳を見つめた。それに、ハクレイが納得するように笑った。
「ああ、やっぱりか。朱鷺君や安孫君の望みはその瞳を見れば分かったけど、君はそういう次元にはないようだね。彼らとは違う、何か異端な存在とも言うのかな。君の瞳を見ても、君が何を望んでいるのかも、何の為に生きているのかも、まったく分からないから」
ハクレイの言い草に、ふっと水影が嘲笑を浮かべた。
「他人に心内を見透かされては、主が
「そう。でもその国が完成する頃には、僕はこの世界にはいないんだろうなぁ」
「それも因果応報にございましょう。……ただ、我らを処刑せんとした折、今の貴殿を拘束する鉄ではなく、縄でもって我らを縛り上げた因果は、巡り巡うて
「ふふ。君は洞察力に優れているだけじゃなくて、予言も出来るのかい? なら一つ、僕も君達の未来を予言してあげよう。……君達が地球のヘイアンに戻ってから暫らくして、皇位継承を巡って、国を二分する大戦が始まるだろう。その大戦で帝である朱鷺君も、武将である安孫君も、それから下国に追いやられることになる君も、時の帝が信頼する者は、皆死んでしまうだろう。誰もが悲惨な最期を迎えるんだ。どんなに優れた知恵や勇猛さを兼ね備えていようが、いずれ君達は大きな
そう言うと、ハクレイは立ち上がった。水影は、冷たい石床を一点に見つめている。その表情は冷静沈着な文官のものではなく、どこかで胸騒ぎを必死に隠しているように見えた。
「それじゃあね、水影君。今日は来てくれてありがとう。これからも僕の大事な息子と仲良くしてあげてね」
その言葉を最後に、水影は退室するよう守衛に促された。
自室に戻った水影の下に、朱鷺と安孫が訪れた。
「して、はくれい殿は何と?」と訊ねた朱鷺に、一瞬水影は無表情となるも、「ただの
「水影殿?」
眉を顰める安孫に気付き、水影はその頬を可能な限り引っ張った。
「ひ、ひははへほほー(み、みなかげどのー)?」
「貴殿は油断し過ぎにございますなぁ? 文官相手に頬を取られておるようでは、春日八幡神の御名に、泥がつきまするぞ?」
「なっ……!
むきになった安孫に、朱鷺がぼそりと一言。
「……うざいな」
「うざっ?」
「うぞうございますな」
二人にうざいと言われても、その言葉が何を意味しているのか、安孫には毛頭理解出来ない。そんな安孫の様子に水影はそっと微笑むも、その表情を朱鷺に見られ、咳払いしながら表情を整えた。
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