第43話 瑞獣の務め

 昼食後、「それでは参るとするかのう」と朱鷺ときが立ち上がった。

何処いずこへ……?」

「決まっておろう。えるば殿、反乱者の下ぞ」

 青海波せいがいは文様のネクタイに、スーツを着て準備を整える朱鷺と水影みなかげに、「なりませぬっ!」と全力で安孫あそんが制止する。

「安孫、悠長に構えておっても、現状は何一つ変わらぬのだ。ならば一層、此方こちらから国を覆す大戦を仕掛けてやろうと思うてな。そなたも武人としての血が騒ごう?」

 主の決断に、ぐっと安孫が拳を固めた。

「まさか、この期に及んで逃げ腰ではございますまいなぁ? 左様に否定ばかりされておいででは、春日八幡神の御名が泣きまするぞ?」

「水影殿、貴殿は優れた知恵でもって、主を導く鳳凰ほうおう斯様かような手段など、到底優れておるとは思えませぬ!」

「優れておるか如何どうかは、主が御決めになられること。貴殿は護り神として、主を御護りするが務め。その務めを見誤られますな、安孫殿」

 ぐっと対峙する二人の臣下。そこに赤いシルクドレス姿のルーアンが入ってきた。只ならぬ雰囲気に、「どうしたの?」と朱鷺に訊ねた。

「なに、瑞獣ずいじゅう同士の口論よ」

「……それがしも、用意を整えて参ります」

 そう言って、安孫が自室へと向かった。自室の机の引き出しを開け、そこにしまい込まれていたドベルト銃を手に取った。一度ゆっくりと呼吸し、覚悟を決めた安孫は、動きやすいシャツの上に金茶の弓籠手ゆごてを結び、上着を着た。弓とを持つ。白兎が起き、当然のように安孫の懐に入ろうとしたが、そこに忍ばせていたものに、抗議の前歯を見せた。

「すまんな。そなたは連れてけぬのだ」

 そう言い聞かせるように、白兎を寝所に置いた。覚悟を背に自室を後にした主を、白兎は鼻をヒクつかせながら見ていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る