第39話 対抗
ルナフェス後、
「申し訳ございません。宰相様のご命令で、王宮内では、羽衣装束を着てはならないと……!」
そう口早に言って、逃げるように、メイドが部屋から立ち去っていった。
「
冷静に物事を捉える水影が言った。
「……
「されど、あれしきのことで
半ば呆れるように、安孫が言った。
「
「……俺は、
「朱鷺様……?」
じっと昼食を見つめる朱鷺に、安孫が首を傾げる。
「真に喧嘩を売ったは、
「さ、されど、我らが態度に気に喰わぬ点があったならば、それを正すのも礼儀。二つが世の安穏の為にも、
懸命に安孫が朱鷺を抑え込むも、その黒い瞳は、じっと先を見据えていた。
「水影」
「は」
「今すぐ天女中を連れて参れ。
朱鷺の怒りは凄まじく、主を抑えられない非力な自分に、安孫がぐっと喉の奥を鳴らした。
水影によって、ルーアンが無理やり朱鷺の自室に連れ込まれた。朱鷺が扉の前で暴れるルーアンの腕を掴み、その体を扉に押し付けた。
「久し振りよのう、天女中。我が女中にも関わらず、散々主を避けてくれたようで、今にも気が狂いそうであったぞ?」
朱鷺がメイド服姿のルーアンの顔布を取った。さっと顔を背けたルーアンが、強気な口調で言う。
「何が気が狂いそうよ! アンタはただの色狂いの帝でしょ! 散々酒池肉林って言っていたくせに、カーヤ姉様が現れた途端、目的なんてどうでもよくなったくせに!」
「左様。そなたの申す通りぞ。俺はかあや王女を前に、本来の天女らとの酒池肉林三昧の日々を送るという目的を
「し、しらないわよ、そんなことっ……!」
朱鷺は感情が昂るルーアンの頬に触れ、すぐ目の前に顔を合わせた。
「真に愛する者との約束であらば、守らぬ男などおらぬからだ」
その真っ直ぐな言葉に、ルーアンは唇を噛み締めた。頬は紅潮し、その瞳には薄らと涙が浮かんでいる。そっと朱鷺が笑った。
「今一度、俺に機会を与えてはくれぬか? 再度そなたに信じてもらえるよう、一層の努力をしよう」
「……っ、バッカじゃないの!」
恥ずかしさから再び顔を反らすも、ルーアンの心内では、喜びが湧き起こる。ようやく意思が通じ、朱鷺もまた、ほっと安堵した。
王宮内では羽衣装束の宣伝ポスターが外され、通告令が張り出されていた。そこには、王宮内に於ける羽衣装束の着用を禁ずる内容が記され、広く女官やメイドらに触れ渡っていた。その通告令の前で、朱鷺がじっと考察の構えを見せる。
「宰相の命令は絶対よ。どんなことがあっても、覆すことなんて出来ないわ?」
ルーアンの心配を他所に、「天女中……」と、朱鷺が決意固く呼んだ。
「そなた、王女に戻りたいか?」
「え? そ、それは……戻れるなら、戻りたいけど」
「左様か。ならば、
朱鷺の中で、ハクレイに対抗する策が、練り上がった瞬間だった。
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