第3話 白ちゃん黒ちゃん

 皆が寝静まっている時間に、そーっと抜き足差し足忍び足で廊下を歩く。

 義母達の目を盗み、私は厨房にこっそり入ると、自分の食べ物そして黒ちゃん白ちゃんにあげる物を物色した。


 以前の私はこれが上手に出来ず、義母の手下である料理長や侍女達に見つかり。

 訳の分からないお仕置きと称して、殴る蹴るの虐待を受けていた。

 私を殴ってる時の侍女たちの顔は私をいたぶる行為を楽しんでいた。

 ほんとこの屋敷には、クズみたいな奴しか残ってない。


 だけど、前世の記憶を思いだした今の私なら、こっそりと食材を盗むのなんて余裕だ。

 自慢する事でもないけれど。


 はぁ。


 自分の家なのに、食べ物を盗まないといけないなんて……はぁぁ。ため息が止まらない。

 これ以上考えたら、辛くなるだけだからやめよう。


 もうそろそろ料理長や侍女たちが起きて来る時間だわ、さっさと撤収しないと。


 朝の掃除などの仕事を済ませると、私は一目散に森へと走って行った。


「黒ちゃーん! 白ちゃーん!」


 森の入口で大声を出し二匹を呼ぶが反応がない。

 私が頭を打って部屋に二日くらいこもってたから、きっとお腹空かせてるはずなのに。


 おかしいな、いつもならこの辺りに居るはずなのに……。

 再度大声を出して呼びかけてみる。


「黒ちゃーーん! 白ちゃーーん!」


 キャウッ


「!!」


 可愛い白黒ワンコが二匹尻尾をご機嫌に揺らし走ってきた。


 居た!

 元気そうで良かった……。

 思わず安堵の声が漏れる。

 私は二匹を代わる代わる思いっきり撫でた。


 ーーおいっ白! ちょっと場所譲れよ! 俺がナデナデして貰えないだろ!!

 ーーやだねーっだっ早いもの勝ちだよっ! ねぇルチィ? もっと撫でて!


 スリスリッと白ちゃんが頭を擦り寄せてくる。


「!?」


 なんっ!?

 何これ……!?

 頭の中に声が聞こえてくるんだけど。誰の声?


 ーールチィ? どしたの? キュルン? あっコラ! 黒ってばそこは僕の場所だよ!

 ーーそんなん知らねーよっ!

 ーーねぇルチィお腹なでて!


 可愛い二匹が私の膝の上争奪戦を繰り広げる中……その行動に合わせるかのように、脳内に声が聞こえる。

 ……コレって、絶対に二匹の声だよね。


 ーールチィ二日も会えなくて寂しかったんだよ! またあの糞ババアに何かされたの? 叩かれた?

 ーー本当だぜ、まだ俺たちはこの森から出られないから! ルチィの事助けてあげれないって言うのに! はぁ。


「えっ?  白ちゃん黒ちゃんは森から何で出られないの?」


 ーーだって、僕達は聖獣だからね、聖なる場所以外は気分が悪くなっちゃうんだ。まぁルチィが力に目覚めて、ちゃんと契約してくれたら何処にでっって……?!

 ーーえっ!? ルチィ?


 ーーもしかして僕達の声が聞こえるのっ?


「……聞こえるみたい……」


 ーー!!?!


 二匹が目を見開きビックリしてる。犬の癖になんて表情が豊かなの。


 ーールチィ良かったぁ! やっと力に目覚めたんだね! 僕嬉しいよ僕やっとお話しできて!


 そう言いなら白ちゃんが、顔をぺろぺろと舐めてくる。


「わっ! ひゃっ? ちょっ白ちゃん舐めすぎっ!!」


 ーーテヘヘッだって嬉しいんだもん。そう言いながらも頭を撫でてと擦り寄せて来る白ちゃん。


 はぁぁ……何この可愛いさっ


 言葉が通じたら、可愛さ倍増どころか百万倍可愛い。


 可愛いんだけど、この普通じゃないワンチャン達。色々と説明して貰わないと。


「それで、この状況はどういう事なのか説明をして欲しいんだけど?」


 ★★★


 なるほどね。

 私、偶然にもチート能力発動していたらしい。

 何とこの二匹は聖獣らしい。 

 聖獣っていうのはこの世界の中で神様のような存在らしい。


 そんな凄い存在と私は二年前に、使い獣契約っぽい事をしたらしい。

 使い獣ってうのは、私と一心同体みたいな……私は自分の魔力を上げる対価に、二匹からずっと守ってもらえるという凄い特典。

 だけど、何故か言葉が通じないから、最後までちゃんと契約が完了出来てなかったみたいだ。


 ……たぶんそれは……生きることが辛すぎて、私の心が色んな事から閉ざしていたからかもしれない。今なら分かる。


「じゃあ、契約はどーしたらいの?」


 ーー僕達と手を繋いで……ええとお互いの魔力を繋げるんだ。


 簡単でしょ? と言わんばかりに私を見る白ちゃん。いやいや魔力なんて使った事ないよ?


「魔力を繋げる? 私にそんな事できるの? ってか私魔力あったんだね!」


 ーー何言ってるんだよ! ルチィの魔力って、そばに居るだけで最高に気持ちいい。良い匂いだし……。

 ーーそうそう。それにめちゃくちゃ美味いよな。


「えっ? 魔力に美味いとか、いい匂いとかあるの?」


 ーーあるよーっ!

 っと白ちゃんが胸に顔を埋めて、スリスリしながら言ってくる。


 ああっふわふわの毛が……癒される。


 ーー魔力が美味しくていっーっぱいある奴は、妖精や聖獣から大人気だな!

 ーー逆に不味い奴には近寄りたくもねぇ! あの糞ババアとかな! あいつらの魔力は臭えからな。妖精達から嫌われてるよ。ククッそんな奴は妖精達が力を貸さないから、魔法が使えないんだよ。ざまぁ。


 黒ちゃん……可愛い顔して言ってる事は、まあまあゲスい。


 二匹は毛色以外双子のように似ているけど、性格は少し違うかんじかな。白ちゃんが僕っ子で黒ちゃんが俺様。


「なるほど、じゃあ魔力が美味しいとどんな特典? みたいなのがあるの?」


 ーー特典? ってのは分からないけど、美味い魔力の奴には妖精達が力を貸すから、いっぱい魔法が使えるし。逆に不味い奴は、妖精が力を貸さないから魔法がちゃんと使えない。


「じゃあ、この世界は妖精や聖獣に気に入られないと、魔法は使えないってこと?」


 ーーそー言うこと!!


 二匹が口を揃えて言った。


 なんと魔法を使うには、この世界は妖精さんの協力が必要なのか。


 ぷぷぷ……そうか、義母たちは妖精さんに嫌われてるのね。

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