メメントモリ

俺が飲むはずだったコーラをゴクリゴクリと美味しそうに飲む男は「阿熊仁です」と微笑んだ。「えっ」俺が言うと「僕の名前」と呟いた。「あぁ俺はユウです。立花有」よろしくと挨拶を交わし、仁は同い年で今日からこの仕事をすると知った。「僕は昔から死ななかった。いや死ねなかったんです」仁は言う。別に運が良いわけじゃない。ただ九死に一生を得ることがいっぱいあった。仁がまだ高校2年生の時家族で夏休みにハワイに行くことにした。そこの帰りに飛行機事故に遭った。乗客、操縦士など合わせ210人僕以外が亡くなった。足が折れただけで済んだ。医者にはもう歩けないと言われたが、今はもう歩ける。こういうことはよくあったが、僕の家族はみんな死んだ。父も母も兄も弟も妹も全員だ。そう言って彼は空のコーラ缶を潰した。「僕は去年ずっと死のうとしていた。飛び降り、首吊り、燻炭自殺すべて失敗に終わった。途方に暮れているときこの仕事を教えてくれて入ったってわけだ」そういう仁の顔は自信に満ち溢れていた。

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