第28話
「勝手と言われたら、ほんとにマジで、ただのオレの勝手。まあ、でも──────恋、って、そういうもんじゃね?」
恋?! イリューアの口から飛び出した言葉にビックリした。どんな顔してその言葉を口にしたんだ!? 直接見てやりたいと思ったのに、がっしり抱きすくめられてて首を回すこともできなかった。──って、そんなことを気にしてる場合じゃなくて。それって、つまり、どういうこと?????
「何だよもう鈍いなオマエ。今のオマエがウユラのことが大好きなのも知ってるし、ウユラから離れようなんて絶対考えたりしないだろうから、今生はもう、その生を全うしろ。いずれまた生を受けるだろうそのときには、オマエの魂に寄り添って生きていくのは、このオレの魂ってことだ。ドラゴンの生は長いからな。それに比べりゃニンゲンの生なんて、ほんのひとときだ」
イリューアの言葉の意味がようやくあたしの中に落ちた。とたんに今度は顔が熱くなった。コイツ、みんなが居る前で何という恥ずかしいことを。
「オレはずっと──ずうっと、オマエだけ、待ってる」
耳許でその囁きを聞いた直後、抱き締めていた身体が重くなった。支えきれなくてずるずるとその場に座り込む。腕の中で、安らかな寝息を立てているようにしか見えないウユラの額をそうっと撫でていた。心の中でさっきのイリューアの言葉を思い返して、慌てて顔を上げて周りを見た。あたしとウユラ以外には誰もいなかった。いつの間に。あたしは右手をウユラの額に乗っけたまま、左手に視線を落としていた。
ほかにもっともっと、聞くべきことがあったように思う。言うべきことも。
だけど、マジでほんとにイリューアの勝手だったとは言え──あたしを番にと選んだ理由を知ることはできた。もしイリューアが本体を目指している間に、あたしが死んじゃったらどうなるんだろう。ここに埋め込まれた結晶はイリューアに戻るのかな。それともあんな風に言ったんだから、あたしの魂と一緒にいるのかな。──って、何でこんな変なこと考えてるんだあたしは。それもこれも全部、イリューアのせいだ。今度こそイリューアに会ったら──あれもこれももれなく全部ぶつけてやる。
「──見届けてやろうか、ウユラ? だってあたしたち、ちっちゃい頃からいろんなことを一緒にやってきた仲だもんね。ウユラは覚えてないだろうけどさ。それでさ、ウユラ──もしあたしに何かあって、ウユラより先に死んじゃったら──、ごめんね?」
「お主のことは儂が全力で護ろうぞ」
力強く応じてくれたその声に、振り返りもせず、うん、と答えた。
「キミの気持ちも決まったなら──あとはもう、突っ走るだけだな」
突っ走る。突っ走れるかな。
「まあ、どうにかなるって信じるしかないよね」
そりゃあそうだ。禁を犯してウユラとクルを旧鉱山へ連れ出した日を思い出していた。あのときもどうにかなるって思った。事態は思いもよらない方向へ転がり続けているけれど、今のところはどうにかなってきてるし。眠るウユラからは当然何の反応もなかった。当然ながら、引っ込んじゃったイリューアからも。その代わり──なのか、左の掌の真ん中が、いつまでもほわほわ温かくて、ここでイリューアのことを感じることができるなら、それはちょっとだけ安心かもしれない──なんてことを思っていた。不覚にも。
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