第14話
「クルが行くところならどこにでも一緒に行くよ。それが使命みたいだし。でも、」
ウユラがじいっとあたしを見つめる。なぜか勝手に顔が熱くなる。
「駄目って言われても連れてくよ? 一緒にいないとダメなんだ」
科白の後半は、どうやらあたしに向けられたものだったようだ。イーシンが盛大にため息をついた。
「……ダメなんて言わないさ。おまえ、思ったよりも賢いな?」
「賢い? そんなこと言われたの初めて。いっつもばかばか言われるから、てっきりばかなんだって思ってた」
苦い表情のイーシンと天使みたいな笑顔を浮かべるウユラ。ちょいちょい、とウユラがあたしを手招きした。ウユラに歩み寄る。
「ねえまさか、ここに残る──なんて、言わないよね?」
見る見るうちにウユラの瞳に涙が盛り上がる。やだ待って。ここで泣くの? 反則すぎない? 解ってるのにどぎまぎして心拍数があがる。
「行くよ、一緒に行くよどこでも! だから泣くな!」
思わず叫んだ。途端にウユラの涙は引っ込んで。
「ありがとう! 大好き!!」
そう叫んでウユラは、あたしをがばっと抱きしめた。
もうすぐころにーが墜とされる。その事実は変わらない。クルとウユラとあたしは、ロシュアたちと一緒に行くことになった。それを受けて長老が、ロシュアとイーシンにこんな提案をした。
「まだシェルターに、保存食が残っております。他にも必要な物資があれば残らずお持ちください。儂らから──ふたりへの餞です」
それから長老はウユラに言った。
「おまえの私物の一部は、シェルターに持ち込んである。あの時の荷物も残しておいた。もしよかったら持ってお行き」
長老は言って、ウユラに籠を見せた。ウユラが「宝箱」って呼んでた小さな籠だ。中には小さい頃から大切にしてきた玩具や石ころ、押し花なんかが詰まっていた。
「おまえの姿が見当たらないと聞いたときには、もしやウユラと行動を共にしているのかと思ったが──その通りだったのだなあ」
長老が少し、寂しそうな表情で言った。
「おまえの家族を救えなかったことは詫びようがない。赦してほしいとも言わぬ。有事の際に護られるのは我ら一族のみ。それがこのコロニーに移住してきたときからの決まりだった。培養槽が無事なら、一族だけでも残ればまたいくらでも繁栄できる──そう見込んでのことだった」
長老の話の内容はやっぱりちんぷんかんぷんだった。集落が灼き払われたことは衝撃だったけど、父さんと母さんがそれに巻き込まれて、そしてもうどこにもいない──ってことは、まだ実感がなかった。ウユラがいるから、余計にそんな感じがするのかもしれない。
「おじいちゃん、ありがとう。籠ごと全部持って行く」
「そうするといい」
長老は微笑んだ。しえるたあからロシュアたちが使っている乗り物が隠してある場所まで何度か往復して、すっかり荷物を運び終えた。
「では参ろうぞ」
ロシュアがあたしたちを促した。ウユラは最後に、長老や、おじさんおばさんたちと順番に抱き合って別れを惜しんだ。
「──元気で」
ウユラはただ、頷いただけだった。騎乗籠に乗るよう促されたウユラが言った。
「掌でもいいでしょうか?」
ウユラの気持ちが解る気がした。だからあたしも、ウユラと一緒にロシュアの掌に載せてもらった。ウユラは長老たちが見えなくなってもまだ、ずっとそちらを見ていた。
泣き虫ウユラが泣かないなんて。あたしははらはらしていた。いっそ泣いてくれた方がほっとしたかもしれない。
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