第7話 マヨネーズぴゅーぴゅー

 千尋さんが作ってくれた下ネタ弁当を気に入った千佳は、ボクに別の下ネタアイディアを求めてきた。


適当に「マヨネーズで“ぶっかけ”っぽくするのはどう?」と言ったところ、予想に反して好評だった。千佳のセンスがよくわからないよ…。


明日は水曜日。月・水・金は母さんが、火・木は千佳もしくは千尋さんがお弁当を作ってくれる。


母さん、変な事に巻き込んでゴメン。



 翌日の朝。リビングでボク・母さん・父さんの3人で朝食中だ。


「創。あんたと千佳ちゃんの分のお弁当はキッチンに置いてあるから。弁当箱の大きさが違うし、間違える事はないでしょ」


「そうなんだ。作ってくれてありがとう母さん」


「昨日のお弁当って、千佳ちゃんと千尋さんが一緒に作ったの?」


「ううん。寝坊したみたいだから、千尋さんだけだって」


千佳の疲労の原因がHなのは、口が裂けても言えない。


「料理は千尋さんのほうが上手だからね~。期待するんじゃないわよ」


ボクには差があるとは思えないけど…。なんて言えば良いかな?


「母さんの料理もおいしいって。…ごちそうさま」


僕なりのベストな言葉をかけた後、リビングを後にした。



 朝の準備を終えて母さんが作ってくれたお弁当をカバンに入れた後、家を出て千佳の家の門扉に向かう。


…その途中で彼女が玄関から出てきたので、合流を果たす。


「創おはよ」


「おはよう千佳」


「それじゃ行こっか」


ボクは千佳が差しだしてくれた手を握り、並んで歩き出す。



 「お弁当の中身は確認した?」

高校までもう少しのところで千佳が訊いてきた。


「してないよ」


「そっか~。マヨネーズに合うオカズがあると良いな~」


「…本当にかける気なの?」

1日経っても考えは変わらないのか…。


「当然。エロい事に関しては妥協したくないのよ」


千佳にそんなこだわりがあるなんて…。千尋さんのH解禁発言と同時に本音をさらけ出してるみたい。


付いて行けるかは別だけど、千佳が楽しそうだとボクも嬉しいよ。



 高校に着き、教室の自席に座るボク達。…あれ? なんか千佳の様子がおかしい気がするぞ。どうしたんだろう?


「『創がマヨネーズをどうぶっかけるんだろう?』って考えると、食欲と性欲が同時に刺激されてウズウズするのよ」


「そうなんだ…」

ボクは経験した事ないから付いて行けない。


「あ~、早く昼休みになって~」


「まだ登校したばっかりだよ千佳…」



 そして時は流れ、昼休みになる。念願の時が来た事で、千佳は笑顔だ。


「創、早く早く!」


「わかってるよ」


ボク達は机を合わせてから、お弁当箱をそれぞれの机に置いた。


「創のお弁当箱のほうが大きいのね」


「同じサイズのほうが良かった?」


「そんな事ないよ。同じだけ食べたら、アタシは太っちゃうし」


「太る? 何で?」

運動してないボクも太るはずだけど…。


「女子は男子より基礎代謝が低いからよ」


「へぇ~、知らなかった」


「保健体育で習ったはずよ、覚えてない?」


「言われてみればそんな気がする…」

主要教科に比べ、保健体育はないがしろにしがちだ。


「アタシはしっかり覚えてるわ! 保健体育は大好きだから!」


理由は言うまでもなくエロ関連だよね…。


「その話は後にしてお弁当にするわよ」


「うん」


ボク達は同時にお弁当箱を開ける…。



 「おいしそうなお弁当ね。さすがおばさん」


ボクも千佳と同意見だ。母さんのお弁当も良い感じに見えるよ。


ご飯は白米オンリーだ。昨日の千尋さんのお弁当はふりかけがかかってたけど、これはこれで良い。


オカズは白身魚のフライ・唐揚げ・かぼちゃの煮物・卵焼きとなっている。


「今日の秘密兵器を出さないとね~」


…千佳が取り出したのは、数グラム入っている個包装のマヨネーズだ。1袋で十分なはずなのに2袋あるのは何で?


「失敗するかもしれないし、相性良くてたっぷりかけたくなるかもしれないじゃん」


そのあたりは好みだから、いちいち指摘する必要はないね。


「創、早速かけてよ」


千佳が切り口を開けたマヨネーズを差し出したので受け取る。


「遠慮しないで、早く!」


千佳はを想定してるから、ご飯含むいろんなところにかけて欲しいのは聴いてるけど…。


「それじゃあ、かけるからね」

ご飯にかけるのは、本当にちょこっとにしよう。


「うん」


千佳の視線はマヨネーズを持つボクの手に注がれる。…見られると緊張するよ。


そして、最初に出されたマヨネーズは唐揚げにかかる。


「ぴゅーぴゅー」


千佳が急に謎の言葉を言い出した。


「それ何?」


「ぶっかける時の効果音だけど?」


「そんなのあるんだ…」


「アタシの事は良いから、続きをぶっかけて♡」


…結局、1袋かけ終わるまで千佳は「ぴゅーぴゅー」言い続けるのだった。



 1袋かけ終わっただけで、千佳のお弁当のオカズはマヨネーズに染まる。2袋目の出番はなくて良いね。


「アタシのオカズが、創にぶっかけられた♡」


千佳は本当に嬉しそうだけど、ボクにはちっとも共感できないのが辛い。


「盛り上がるのも良いけど、お腹も減ってるし食べようか」


「そうだね」


千佳が箸を持った途端、ハッとした様子を見せる。


「ぶっかけたのを母さんに見せるんだった!」

そう言って、千佳はお弁当を写真に撮った。


千尋さんと話す話題はこれになりそうだ。


「今度こそ忘れてる事はないわね。…いただきます」


「いただきます」


千佳とボクはお弁当に手を付ける…。

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