第2話 ドキドキのランチタイム

 クラスメート全員の自己紹介が終わった後、体育館で行う入学式のためにすぐに廊下に並ぶボク達。この時ばかりは千佳ちかはそばにいなかった…。


彼女が自己紹介した時「ボクと付き合ってる!」と言い出した理由を訊きたいんだけど、いつになるやら。



 入学式が終わり、教室に戻ってきたボク。次のホームルームが始まるまでの今がチャンス! 千佳がボクより少し遅れて自席に着く。


「千佳。どうして自己紹介の時“付き合ってる”って言ったの?」


「さっき言ったじゃん。『別に隠す事じゃない』って」


「そうだけど…」

他にも理由があるとしか思えない。


はじめを狙う悪い虫を寄せ付けないためでもあるんだよ」


悪い虫? ボクが千佳と仲が良いのは、家が隣同士の幼馴染補正のおかげだ。モテる要素がないボクに、知らない女子が興味を持つとは思えない…。


「もしかして知られたくなかった?」


マズイ、千佳が落ち込んでいる。彼女のこんな顔は観たくない!


「そんな事ないよ。急で驚いただけさ」


「なら良かった♪」


仮に言わなくても、これだけ仲良くしてたら遅かれ早かれ“付き合ってる”と思われるだろうね。



 チャイムが鳴ってすぐに担任の成瀬先生が教室に入ってきて、教壇に立つ。先生が早く来たので、クラスメートは急ぎ足で席に向かう。


全員座ってからはひたすら話を聴いただけだ。“本校生徒としての自覚”とか“明日から授業が始まる”といった感じだね。


ボクがおバカだと彼女の千佳にも迷惑をかけるから、一生懸命頑張らないと!



 ホームルームが終わったので、これで放課後になる。お昼が近いからお腹がすいたな~。


「創、帰ろ」


「うん」


ボク達は手を繋ぎながら教室を後にした。…昇降口を出てから、手繋ぎを再開させる。


「創、お昼は母さんが作ってくれるって」


「それは嬉しいけど悪いよ」

千尋さんの手間が増えちゃうし…。


「気にしないの。昨日の内に母さんがおばさんに伝えたらしいよ」


ボクと千佳の両親が連絡先を交換済みなのは知っていた。親同士仲良くするためだと思っていたのに、そこにボク達も関わるなんて…。


「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらうね」


「そうして。母さんも創に会いたがってるからさ」



 千佳の家の前に着いた。よく考えると、制服を着たままのお昼ってリスク高いよね? もし汚したらどうしよう? 母さんにすごく怒られそうだ。


「千佳。一旦着替えに戻るけど良いよね?」


「もちろん。アタシも着替えてから食べるから」


…ボクの勝手な思い込みだったかな? 恥ずかしいから言う必要はないね。


こうして、彼女の家の前で一時解散するボク達だった。



 「ただいま~!」


カギは空いてるから、母さんは多分リビングにいるよね。すぐ向かうと母さんは早くもお菓子を食べていた。


「創。あんたのお昼は千尋さんが作ってくれるからね」


「それはさっき千佳から聴いたよ。今は着替えに戻っただけ」


「わかってるなら良いわ。“親しき仲にも礼儀あり”を忘れちゃダメよ」


「うん」

それぐらいは常識だよ。言われるまでもない。


自室に戻って着替えたボクは、早速千佳の家の門扉に向かう。



 門扉に着いたので、インターホンを押す。仮に千尋さんがお昼を作ってる途中だとしても、今朝の千佳のように上がり込む勇気はない。


手が空いてる時なら良いんだけど…。


『入ってきて良いわよ~♪』


すぐ千尋さんの返答があった。千佳が知らせてくれたかも?


『わかりました』


許可はもらったし、これでお邪魔できるな。



 「お邪魔しま~す!」

玄関の扉を開け、千佳の家に入るボク。


…彼女が待っていてくれた。白の無地Tシャツ・黒の長ズボンに着替えたみたい。


「押さずに入ってきて良いのに」


「女子の家にそれはちょっと…」

男とは事情が違う。


「創のその優しさは、長所だけど短所でもあるわね」


優しさが短所って何? ボクにはサッパリだよ…。


「まぁ良いわ。リビングに行こっか」


「そうだね」


ボクは靴を脱いで上がった後、千佳と一緒にリビングに向かう。



 リビングに向かうと、何かを焼いてる音に加えて良い匂いが辺りを漂っている。食欲をそそられるよ。


「お肉を焼き肉のタレで焼いてるって」

千佳が補足する。


「そうなんだ、楽しみだな~」


「もう少しらしいから、創は座って待ってて。アタシは手伝いに行くわ」


「千佳が行くなら、ボクも手伝うよ」

出来る事はたかが知れてるけど…。


「創はお客さんなんだから、気にしなくて良いの!」


キッチンに3人もいたら邪魔になるかも? だったら…。


「じゃあ、座って待ってるね」


「そうして。創のは最初に持ってくるからね♪」


ボクに向かってウインクした後、千佳はキッチンに向かって行く。


千佳はボクにはもったいないレベルの彼女だから、絶対大切にしよう!



 リビングにあるダイニングテーブルの椅子に座りながらお昼を待つボク。焼く音が聴こえなくなったから、もうそろそろだと思うけど…。


「創、お待たせ」

千佳がトレイにメニューを乗せて持ってきてくれた。


焼肉とキャベツの千切り・具だくさんの味噌汁・麦ごはんの3点だ。多分栄養のバランスもバッチリだね。さすが千尋さん。


「ありがとう」


「どういたしまして」


彼女は再度キッチンに向かって行く。今度は自分の分を持ってくる流れかな。


ボクの予想通り、同じメニューをトレイに乗せて千佳がテーブルそばまで来たんだけど…。


「う~ん、創の『前』か『隣』どっちにしよう?」

彼女は悩んでいるので、座ろうとしない。


「そういう時ははーちゃんの“顔”か“近さ”、どっちを優先したいかを考えてね♪」


キッチンにいた千尋さんが、トレイにボク達と同じメニューを乗せてやってきた。


はーちゃんというのはボクの事だ。はじめだからね。千佳ちかの事はちーちゃんになる。昔からこの呼び方だけど、高校生になっても変わらないのか…。


「やっぱり創の顔が観たいから前ね」

千佳はボクと向かい合うように座る。


「わたしははーちゃんの隣♪」

言葉通り、ボクの横にトレイを置く千尋さん。


千尋さんは千佳の隣に行くと思ったのに…。まさかの状況になり、ドキドキのランチタイムが幕を上げるのだ。

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