今宮君とH大好き古宮さん

あかせ

第1話 アタシ達、付き合ってます!

 「お邪魔しま~す!」


リビングで父さん・母さんの3人で朝食中、玄関から千佳ちかの声が聞こえた。


…テンポ良い足音がこっちに向かって来る。


はじめ。まだ朝ごはん食べてるの?」


リビングに来た彼女は、高校の制服を着ている。


「まだ7時30分じゃん? 集合は8時だよね?」


「そうだけど、いてもたってもいられなくて…」


今日は高校の入学式で、ボクは千佳と一緒に登校する約束をしている。新しいことだらけだし、落ち着かない気持ちはわかるけどさ…。


「千佳ちゃん、制服似合ってるわよ」


「そうだな」


母さんの褒めに、父さんが便乗する。


「ありがとうございます、おばさん・おじさん」


…千佳がボクを見つめている。何か言って欲しいのはわかるけど恥ずかしいなぁ。


「……似合ってるよ、千佳」


「ホントは最初に言って欲しかったけど、許してあげる」


「ありがとう」

何とか機嫌を損ねなかったようだ。


とはいえ、待たせるのは悪いし早めに食べるか。



 「ごちそうさま」

ボクは朝食を完食した。後は準備をするだけだ。


「創、着替えを手伝ってあげようか?」

千佳がニヤニヤしながら言う。


「大丈夫だから」


「そっか。アタシは家に戻ってるから、遅れないでね」


「わかってる」


彼女がリビングを後にしたので、ボクも着替えるために2階の自室に向かう。


千佳と彼女のお母さんの千尋ちひろさんは、下ネタを比較的言うタイプだ。昔はちょっと困ったけど、今は聞き流したりコメントできるようになった。


不思議な事に、お父さんの和人かずひとさんは言わないんだよなぁ。千尋さんの家系の影響かも?



 準備を終えたボクは、7時55分に家を出た。千佳の家はボクの家の隣だから、行動はすぐ確認できるはずだ。


ボクが千佳の家の門扉に着いてすぐ、彼女が玄関から出てきた。リビングの窓から観察してたかな?


「早く来てくれて嬉しい♡」

ボクのそばに来た千佳は手を握ってきた。


「さっき待たせちゃったからね。その詫びだよ」


「さすがアタシの彼氏ね♡」


ボクと千佳は去年の中3に付き合い始めたのだ。この事は互いの両親も知っている。


…さすがにこれは知られてないと思うけど、ちょっとHした事もある。キスと服の上から胸とを触り合ったぐらいだけどね。


「じゃあ、そろそろ行こうか千佳」


「うん♡」


ボク達は手を繋ぎながら、横に並んで歩き出す。



 「アタシ達、違うクラスになったらどうしよう?」

高校に向けて歩いている時に、千佳が不安そうに言う。


ボクと千佳は小学校6年間・中学校3年間全てで同じクラスだったのだ。高1も一緒なら10回連続になるけど…。


「心配しなくても、休み時間の度に千佳のクラスに行くから」


「アタシも創のクラスに行くからね」


千佳がいないクラスなんて想像すらしたくない! 神様、今年もお願いします!

ボクは心の中でそうお願いしておいた。



 高校に着いたところ、昇降口前にある掲示板らしき物に大勢の人が集まっている。クラスは当日発表らしいので、あれに貼ってあるんだろう。


「千佳。不安ならボクが見てこようか?」


「嫌。一緒が良い」


「わかった」


高校についてなお、ボク達は手を繋ぎ続けている。それぐらい千佳は身近な存在なのだ。


「…創。アタシ達『1ーA』だよ! やった~!」


探している最中、千佳は喜びを爆発させた。見つけるの早いな~。


これでボク達は10回連続同じクラスになった。神様、本当にありがとう。



 昇降口で靴を履き替え、教室に向かうボク達。履き替える時に離しただけで、それ以降も手を繋ぎ続けている。お互い、これが1番落ち着くんだよね。


そして『1ーA』に着いた。着いたのは良いけど…。


「席はどこなんだろう?」


千佳がそうつぶやく。どこを見れば良いかな?


「…黒板に座席表が書いてあるよ。探してみよう」


ボク達は黒板の前に移動し、手書きの座席表を見つめる。


「あ、アタシと創。隣同士だよ」


「えっ? どこ?」

千佳は目で追うのが早いタイプみたい。ボクはまだ探してる途中だよ…。


「ほらココ」

彼女が指で該当場所を指差す。


本当だ、“今宮いまみや”と“古宮こみや”が隣同士になっている。今まで隣同士は1回もなかったのに…。神様は大サービスしてくれたみたい。


席を見つけたボク達は、さっそく席に着く。


「クラスだけじゃなくて席も隣なんて最高♡」


「ボクもだよ、千佳」


ご機嫌の彼女を見ると、ボクの頬も緩むね。



 チャイムが鳴り、クラスメートが席に着き始める。全員着き始めて数分ぐらい経ったかな? 若そうな女性教師が教室に入って来て、教壇に立つ。


「私が『1ーA』の担任の成瀬なるせよ。1年間よろしくね」

彼女は深く頭を下げた。


怖そうな先生じゃなくて一安心。


「次はみんなの番よ。教壇に立ってから、簡単に自己紹介してちょうだい」


自己紹介、前から苦手なんだよね…。嫌だけど仕方ないか。



 苗字のあいうえお順で自己紹介するらしいので、今宮のボクは最初の方に終わる。


「お疲れ、創」

隣の席の千佳が小声で話しかけてきた。


「ありがとう」


……他の人の自己紹介が次々と終わっていき、次は千佳の番だ。


「よし」

彼女は覚悟を決めた様子で教壇に向かう。


「初めまして、古宮千佳です。皆さんに言っておきたいんですが…」


? 千佳は何を言う気なんだ? まったく予想できない。


「実はアタシ、隣の席の今宮 創と付き合ってます!」


彼女の爆弾発言により、クラスメートの視線がボクに集まる。


何でそんな事言うの? いくらボクでも、理由を聴かないと納得できないって!


「そういう訳で、よろしくお願いしま~す」

千佳は満足気な表情で自己紹介を終え、席に戻ってきた。


「千佳、どうして付き合ってる事言ったの?」


「別に隠す事じゃないじゃん?」


「そうだけど…」


「ちょっとそこ! 自己紹介はまだ終わってないから、私語は止めてね」


成瀬先生に注意されてしまった。詳しくは後だな。


「すみません…」


ボク達は自己紹介の続きを聴くのだった。

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